第3話 逃亡

 じゅぱっ、じゅぱっと湿った音。


 鈍った感覚で、いつもより何も感じないのが幸いだと思った。




 飲まされたのは本当に催淫薬だろうか。



 ヒナの様子からするとそうだけど、だとしたら自分の身体には合わない薬だったようだ。



 ただただ気持ち悪い。吐きたい。




「吐く………」




「えっ!?」



 俺の言葉に、さすがにヒナは顔を上げた。



 俺はこみ上げるものを我慢できなくて、その場に吐いた。




「きゃあっっ」




 ちょっと吐き出しただけなのに、ヒナは俺から飛退いた。



 今しかないと思った。





「Yuu!!!!」



 上着なんかはどうでもいい。




 とにかくここから逃げろ。




 家の鍵は………あぁ、確かGパンの後ろポケットに入れてある。




 携帯は捨てる。




 財布に大したものは入ってない。身分証明書は店に預ける決まりになっていた。




 とにかく外へ。




 俺はもつれる足を拳で叩いて気合を入れる。




「くそっっ」



 自分の足じゃないみたいに重い。




「Yuu!!!!」




 振り返らない。




 走れっ。




 何度も転んだ。




 どこをどう走ったかわからない。




 狭い裏路地に逃げ込んで、息を整えたつもりがまた吐いて。




 酷い二日酔い、今まで経験した中で一番の気持ち悪い感じに、体力がどんどん削られた。




 もう胃も痛いし、辛い………。






 倒れそうだと思った視界に、ふかふかのクッションが積まれてるのが目に入ってそこまで這って行った。





 あとあと、それはクッションなんかではなく、ただのごみ袋だと知るけど。




 うずくまってもう立てなかった。

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