第3話 魔法くらい夢を見たい
「どれにしようかな」
大量に買ってきたお菓子を並べて目をキラキラさせながら眺めている春喜。いつもと違い柔らかい口調。これが素なのだろうか。
「春喜」
「何? お菓子はあげないからな!」
俺だって同じようにお菓子を買ってきた。わざわざ年下の物を取るようなひどい趣味も持ってない。なのに慌ててお菓子を隠している。俺をなんだと思っているのだろう?
「取らないから。・・魔法、教えてくれないか?」
こいつに聞くなんてしたく無かったが蓮に聞けば春喜が一番得意だと言われてしまった。
「・・あははっ! 魔法使いたいのか?」
ケタケタと笑いながら相変わらずイラッとくる上から目線で言ってくる。
「悪いか? 異世界で魔法があると来れば使ってみたくなるものだろ」
「詠唱とか呪文ってやりたいタイプ?」
詠唱って魔法の発動のための言葉を長々というあれだろう。漫画なんかでは言っていることをよく見れば中々カッコつけなものも多い。
「できれば遠慮したいです」
小学生の頃なら堂々と言えたかもしれないが、そんな年頃は何年も前に卒業してしまった。
「魔法はあんまり期待しない方がいいぞ。実際はあんまりかっこよくない」
「杖は持つ?」
「どっちでもいい。その方が気分が上がるなら持ったら?」
魔法って思っていたより適当なのだろうか?
「気分の問題なのか?」
「魔法ってそういうものだぞ。気分に左右されて集中しないとうまくいかないし、できると信じればなんだってできる。逆にできないと思ったら失敗しかしない」
「ふーん」
魔法は繊細らしい。どうして繊細さなんてかけらも持っていなさそうな春喜が得意なのか?
「涼は神経図太そうだし得意かもな」
「図太くはないと思う」
大勢の前に立てばすぐに緊張するし、何かあるとすぐに調子が狂う。ごく普通の神経だと思うのだが。
「・・図太くないとこんな短期間でここに馴染めないって」
春喜の呆れた声はあいにく俺には届かなかった。
「まず、武器選びだな」
目の前に並べられたのは日本ならば銃刀法違反で捕まりそうな物の数々。
「銃なら俺みたいに使うし、杖だっていざという時には叩くのにも使える」
「剣とか・・陽暮が使っているようなこれは? 魔法と関係ある?」
陽暮の鎖鎌。大きさはちょっと違ってもこれくらいなら日常生活でも見るものに近い。中には弓矢もある。魔法のための武器選びなのにこれは無いだろう。
「陽暮だって魔法を使いながら戦ってる。流石に純粋な投げる力だけだと刺さらなかったり目標まで届かなかったりするらしい」
「魔法だけでダーンってしないの?」
晴喜の説明では何かの物体に魔法を乗せて使っているという話ばかりだ。春喜の場合はそれが銃弾で陽暮の場合は鎌だ。
「・・そんな非効率なことするわけないだろ」
なにを言っているんだ?と言いたげな呆れた目で見られる。
「なんで? よくあるじゃん!」
「ああいう事をしようとすれば・・例えば炎で攻撃するとするだろ? そしたらまず炎を作り出して、それから敵に向かって飛ばす必要がある。しかも敵にしっかり当たるまで炎の威力が落ちないようにしなければいけない」
言いたいことがイマイチわからない。この話を春喜はちゃんと理解して言っているのならばちょっと悔しい。
「だから、物に魔法を乗せればそれを強く飛ばすだけにしか魔力を使わなくて良いってことだ。わからないのか?」
「つまり省エネ戦法?」
この時代なんだって省エネでということだろうか? ファンタジーな力なのに考えは現実的だ。
「そういうことだ」
悔しい。いつか見返してやろう。こっちは6歳も年上なのだ。高校で学んだ知識を言えば春喜は理解できないはず。
「で? どれが良い?」
そんなことを言われたって簡単には選べないができれば近接戦をせずに済む遠距離武器が良い。
「なんで春喜はあんな大きい銃にしたの?」
「ひぐれー、なんでだっけ?」
春喜が呼べばそばで街で買ってきたばかりであろう本を読んでいた陽暮がこちらを見て口を開いた。
「春喜は小さい。腕の力で固定してその衝撃も体で受ける短銃はまだ危険だから地面に置いて使うタイプにしている」
「大きい物ほど衝撃が大きくなるんじゃなかったっけ?」
ゲームか何かで得た知識だから実際のところはどうなのか知らないが、大きいと威力が増える分衝撃も増えそうだ。
「それは透さんが改造してくれて・・」
春喜がスナイパーライフルもどきを組み立てて床に置くと・・
「うわあぁ!」
置くための足から木の根のようなものが生えてしっかりと地面に根を張っている。
「衝撃は全部地面が吸収してくれるんだ」
こんなのを作ってしまうなんて透さん何者? ただのおじさんじゃないのか?
「涼なら短銃でいい。何かあった時すぐに逃げられないから春喜の銃のようなものはできるだけ使わない方がいいんだ」
「へー」
このライフルもどきはなかなか奇妙な見た目をしている。この前も使っているのを見ているはずだけれど気づかなかった。
「どれも何かしら改造してあったり?」
「いや、これだけだ」
「陽暮はどうして鎖鎌にしたの?」
いろんな人の選び方を聞いて参考にしたい。それと単純な興味もある。
「近接戦は向かない。でも弓矢や銃のような狙う系のも苦手だからこれにした」
「それだけの理由なら他のでも良くないか?」
槍や他の投げる系の武器でもその条件には当てはまっている気がする。
「鎖がついているから端を持って振り回せばまとめて狩れる。とても効率がいい」
「人が少ないならどれだけ大勢を相手にできるかってのも大事なんだ。俺の遠くからまとめ役を仕留めるのも大事な役割だけどな」
なら蓮や陽暮のように動き周りながら使える武器が良いのだろう。
「鎖鎌だってたまに飛んでくる事を除けば便利だぞ」
飛んでくる? 振り回していたら当然手から離れて吹っ飛ぶ可能性はあるだろうけれど集団で戦うには危ない気がする。
「気をつけてはいるんだが・・」
「文句を言うのは蓮だけだから問題ない」
「何が問題ないだ? 春喜だって陽暮みたいに少しは気をつけろ」
洗濯物を干しに行っていた蓮が帰って来たらしく会話に混ざってきた。春喜も何か危ないことをしているのだろうか?
「何を?」
何かしたっけ?と首を傾げる春喜を見て蓮が怖い顔になる。
「はあ? いつもいつも俺が動き回っているのを気にせず近くに打ち込んできて何度すぐ横を銃弾が通ったのかわかってるのか?」
「俺の腕なら当たらないし。考えて当たらない場所を狙ってるのにわざわざそこにくる蓮が悪い」
「こっちはいつも避けてるんだぞ」
春喜は何も悪いと思っていないらしく蓮が何を言ってもそれが?と受け流している。
「・・そもそも近接戦をする者がいるのに狙う系の役割を合わせるのが間違ってる」
陽暮がぼそっとそう呟いた。言い合っている2人には聞こえていない。俺はその通りだと思った。良い感じに邪魔にならず俺の希望にも合うもの。
「決めた」
一気に3人の目が向いてちょっとたじろぐ。
「どれにする?」
並べられた武器の中から黒いプラスチックのようなものでできているそれに手を伸ばす。でも触れる前に伸ばす手を止めてしまった。
「どうした?」
春喜が不思議そうに俺を見ている。
手に取ってしまえばもう今まで通りには暮らせないような気がして躊躇ってしまった。でも覚悟を決めて手に取る。この3人だって同じように選んで今があるのだ。
「聖女もどき、やってみるよ」
手の中には短銃がある。これからは今までは無縁だった戦いの場で生きていくのだ。
「聖女はやめたいけど」
「やることは一緒でいいけどもうちょっとかっこいい役職欲しいよな」
「やってることだって聖女らしさのかけらもない」
「そもそも男だし」
「そこから違うんだからなんでもありってことでいいんじゃないのか? 面白いじゃん。涼のもいい感じに改良しようか?」
にゅっとどこからか現れた透さん。いつもの様に普通に会話に混ざってくる。年齢は20歳ほど離れているはずだけれど会話をしていても歳の差を感じない。
「透さんは武器のメンテナンスと改良をやってくれてるんだ」
「以前はそういう職に?」
「いや、ただの趣味なんだけど休日のたびに部屋に籠って色々作ってたんだ。プラモデルとかアニメに出てくる武器を自分なりに再現してみたり」
一人暮らしの殺風景な部屋の棚に並べられたたくさんのプラモなどなど。簡単に様子が頭に浮かんでしまった。
「手先が器用なんだ? ここの言葉も覚えてるらしいけどコツは?」
中高でしっかり教えられているにも関わらず英語なんて話せない俺としてはぜひコツを知りたい。
「涼、それより俺と魔法の練習だろ? その銃じゃただのおもちゃだ」
「春喜、ちょっとくらいいいだろ。英語習ってないお子ちゃまにはこの苦労はわからないだろうが・・」
「英語なら俺だって習ってる。涼の時は無かったのか?」
「あったけど、高学年から軽く習うだけだろ?」
「俺はもっと前からやってるぞ。簡単な文なら書ける。やっぱり6歳も違うとかなり違うんだな」
今の小学生を年を感じるとか聞いていたけれどこういうことか。
「あと、小学生から見れば高校生なんておじさんだからな!」
プチンと何か切れる音がした。その一言で春喜は4人を敵に回してしまった。
「おじさんって、・・大学生の俺から見れば小学生なんて幼児みたいなものだな」
「まだそんな年じゃない」
「こいつらがおじさんなら社会人を約20年やってる俺はどうなるんだ?」
4人で春喜に手を伸ばす。
「うあー、ほっへフニフニするなー!」
「まだこんなに触り心地いいんだな」
ツルツルスベスベもっちもっちの春喜のほっぺ。これは良い。
「フニフニしてたら春喜の若さを吸い取れるか? おじさんは最近年齢を感じててなー」
「やめろー!」
ついでにみんなに囲まれ動けない春喜をこちょこちょする。
「年寄り扱いした罰だ!」
「あははぁっ! やめっ、あはは・・」
「そうだな」
たかがこちょこちょだけれどちょっとだけいつもバカにしてくる春喜にやりかえせた気がしてスッキリした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます