第15話 目指せ、部活の新設 その1
「部活?」
「なんか希望はあるのかなと思ってさ」
今日の授業も無事終わり、鼻歌を奏でながら鞄にノートを突っ込んでいると、マコトがそんなことを言い出した。
月島先生が帰りのHRで部活案内のパンフレットを配ったので、その流れだろう。
今日から勧誘も始まるらしく、優羽さんと九条さんは巻き込まれたくないと急いで帰ってしまった。
そのせいで今は俺とマコトとヒヤヤッコしかいない。
「特に入りたいのは無いし、帰宅部のつもりだけど」
案内用紙は軽く眺めた。
中学と違っていろんな部活があると感心はしたが、入りたいと思う部活は特に無し。
そんな俺の反応も予想していたようで、マコトは軽く頷くだけだった。
「そっか。ヒヤヤッコは?」
「私も帰宅部、かな」
「あれ? 文芸部じゃないんだ?」
ヒヤヤッコは文学少女だ。
暇さえあれば、小説や詩集を読んでいる。
文芸部に興味があると言っていたので、てっきり入部するのだと思っていた。
「うん、考えはしたんだけどね。文芸部に入ると、定期的に作品の発表をしないといけないみたいでさ。ちょっとなーって」
「作品っていっても、なんでも良いんだろ? お得意のポエム作って発表したら良いんじゃねえの」
「ヒヤヤッコは、そもそも見せるのが嫌って話をしてるんじゃない?」
「そうなんだよね。2人に見せたことすら後悔してるのに、これ以上黒歴史を増やしたくないよ」
そう言ったあと、頭を抱えうーうー唸りだすヒヤヤッコ。
過去の黒歴史が襲い掛かってきたようだ。
小学生の頃、彼女に見せてもらったポエムは『私が吹いたシャボン玉が、好きな人の方にばかり飛んでいって恥ずかしい』とかいう乙女チックな内容で、ずいぶん可愛らしかった。
初めはからかうつもりだった気もするが、彼女の期待半分不安半分の眼差しを受けマコトと2人、全力で褒めたのを憶えている。
「じゃあ、俺とヒヤヤッコは帰宅部だね。マコトは写真部に入るの?」
「いや、どうしようかなって。結局俺、自分が撮りたい物しか興味無いんだよな。なんかここの写真部って、お嬢様学校の名残か部員もほとんど女の人でさ、俺の趣味とだいぶ違うんだよ。猫とか、スイーツとか。そりゃ、俺だって嫌いじゃないけどさあ」
マコトの趣味は写真撮影。
一般的な風景も撮るが、本当に好きなのは廃墟とか廃墟のような温泉街とか夜のライトアップされた廃工場とかだ。
女性でもそういうのが好きな人はいると思うが、この学校だと確かに厳しそうではある。
「じゃあ、3人仲良く帰宅部だね」
「そうだなと言いたい気持ちもあるが、その前に俺の話を聞いてくれないか。実は君たちに相談があるのだよ」
マコトは偉そうにふんぞり返っている。
これは緊張を誤魔化す仕草だと、友人である俺は分析した。
「……実はな、部活を作りたいんだ」
部活の新設。
話の流れから察しはついていたが、それでも実際に言われると意外ではあった。
マコトも俺と一緒で面倒くさがりなタイプだ。
部活に入るのならともかく、作る?
大変な目に遭うだけだと彼も分かっているだろうに。
「なんで?」
ヒヤヤッコも似たようなことを考えたのだろう、首をひねっている。
「ここだけの話なんだが、担任の月島先生が学校から部活の顧問になるように言われてるらしくてな。楽そうな部活を新設すれば、先生が顧問になってくれるのではって寸法よ」
「ああ、先生と接点が欲しいんだね」
「そういうこと」
デメリットを上回るメリットがあると考えたわけだ。
それなら俺にも理解できる。
「なに? どういう意味?」
一方のヒヤヤッコは分かっていないようだ。
マコトが月島先生に興味があるという前提条件を知らないのだから当然だろう。
チラッとマコトを見たが、腕を組んで自慢げな表情を浮かべていた。
なぜそんな態度なのか理解できないが、自分で説明する気がないことだけは分かった。
「あー、マコトは月島先生と仲良くなりたいんだってさ」
「ふふん、説明はきちんとしてほしいね。恋愛的な意味で仲良くなりたいのだよ」
「……えっ!? 恋愛!? そうなんだあ。へー、そうなんだあ」
ヒヤヤッコは衝撃を受けたようで、彼女にしては大きな声をあげていた。
考えてみれば、この面子で恋愛話なんてしたことがない。
そういう意味でも驚いたのだろう。
「えっと、私、応援するよ。法律に触れない限り」
「触れる気はないから安心しろ」
「でも、ほら、先生の方が捕まるかもしれないでしょ? その、そういうことするとさ」
「だからなんの心配だよ。俺はあくまでも、卒業後お付き合いするために仲良くなりたいって、それだけだよ」
「うぐぅ、なるほど、そうだよね」
ヒヤヤッコは目を閉じながら可愛く呻いていた。
実際先生とお付き合いできるとは思えないし、その辺りは無用な心配だろう。
だから俺が気になったのは違うところだ。
「部活を作るっていっても結構面倒だよね。手続きとか大丈夫?」
「もちろんそういう面倒な部分は俺がやる。部長も俺がやるつもりだからな。先生が顧問になってくれればだけど」
なるほど相応の覚悟はあるようだ。
ならば俺は応援するだけ、と言いたいがあまり変な部活だと困る。
「マコトが部長だったら入らないとは言わないけど。結局なんの部活なの?」
そう聞くとマコトは――ニヤッとこちらに笑みを見せてきた。
……これ、多分あれだ。
なにも決まってないな。
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