第12話 お披露目されたメイド服
「うんうん、みんなよく似合ってるね。どれもすごく可愛いし、これは悩んじゃうなー。……ちなみに男の子から見た感想も聞いて良い?」
ユキさんは制服に着替えた3人に近づき、惚れ惚れとした様子で観察したあと、こちらに話を振ってきた。
深く考えずに言っているのだろうが、感想を聞かれても返答に困ってしまう。
とはいえ彼女たちの制服姿を凝視する許可が出たようなものなので、緊張を隠しながら3人を眺める。
「……えっと、ふがふがの制服にするなら俺は優羽さんが着ている制服一択だと思います。九条さんもヒヤヤッコも、好きっていうか大好きなんですけど、ここの制服としてはちょっと過激な気がします」
とりあえずの義務として、ユキさんに素直な感想を伝えた。
そしてもう一度3人の制服姿に目を向ける。
優羽さんが着ているのは、喫茶店の制服としてはベーシックなタイプだと思う。
上は清潔感のある白いシャツで、黒いボタンが良いアクセントになっている。
下は黒色のパンツスタイル。腰には茶色のエプロンを着けていた。
爽やかで健康的。
優羽さんにもこのお店にもよく似合っている。
次に目を向けたのは九条さん。
……こちらはパッと見ただけでインパクトがスゴイ。
いわゆるメイド喫茶のメイド服という感じで、見た瞬間ピンクと白色が目に飛び込んできた。
可愛くてフリフリしていて、天使のように可愛らしい九条さんには驚くほど良く似合っている。
少し恥ずかしそうな微笑みと併せて、抜群の破壊力があった。
ただ……この落ち着いた雰囲気のお店の制服としては、かなり浮くだろうというのが正直な感想だ。
そして最後はヒヤヤッコ。
いわゆるゴスロリ系メイド服というのだろうか、黒と白の取り合わせがシンプルながらも良い。
可愛くフリフリという意味では九条さんのメイド服と似ているが、黒が多めで落ち着いた雰囲気が出ているので、このお店との相性は意外といい気がする。
ちなみにこの服を着ているところを見て気付いたのだが、意外とヒヤヤッコは胸がある。
子どもの頃はスレンダーなイメージだったので正直驚いてしまった。
ただそれでも俺の目が向かったのは……。
「……あ、あのさ、ナオ君。脚、見過ぎじゃない? さすがに恥ずかしいんだけど……」
「ごめん。でもこれ、さすがに見ちゃうよ。ミニスカート過ぎない?」
そう、丈がかなり短いのだ。
ヒヤヤッコと言えばロングスカート。
先ほどまでの私服姿もそうだったし、思い返せば小学生の頃のヒヤヤッコも長めのスカートばかり履いていた。
そんな彼女だから学校の制服のスカート丈でも刺激的だったのに、このメイド服に至っては太ももがかなり見えていて犯罪的ですらある。
スカートの内部にも白いフリフリとした装飾があるので中が見えることはないだろうが、すらりと伸びた素足につい目がいってしまった。
「んー、こんな感じだったかな? なにか違う気がするんだよね」
ユキさんがヒヤヤッコの制服姿を見て首をひねっている。
俺はなんとなくピンときた。
やはり、素足なのがおかしいのだろう。
「靴下っていうかタイツっていうか、そういうのがあるんじゃないですか? 絶対領域を作るためのヤツが」
俺としては会心の指摘のつもりだったが、皆は理解できなかったらしい。
「ゼッタイリョウイキってなに?」
代表するかのように、ヒヤヤッコが聞いてきた。
「え? えーと……。スカートと靴下の隙間から見える肌がステキ! みたいなやつ……」
「ごめん、よく分かんない」
ヒヤヤッコは申し訳なさそうに言ってきたが、説明してる俺もよく分かっていないので仕方ないだろう。
「ああでもたしかに、カタログだと膝上くらいまであるニーソックスを履いてた気がするね。ただ、制服の中に入ってたかな? もしかしたら、こっちで用意するやつだったかも」
ユキさんの言葉に、ヒヤヤッコが頷く。
「えっと、もう一回控室に行って探してきます。ナオ君も来て」
「え、俺も?」
「だって、ナオ君しかそのナントカカントカを知らないし」
俺の説明が下手過ぎて、一文字も覚えられなかったらしい。
だが俺だって名前と見た目を知っている程度で、具体的にどうなれば絶対領域なのかよく分かっていない。
正直面倒だ。
マコトの方を見た。
彼だって絶対領域くらいは知ってるはずだし、できれば押し付けたい。
この格好のヒヤヤッコと一緒にいるのは、ちょっとまずい気がする。
「……あー、食後のコーヒーうめえなー。じっくり味わって飲まねえと、ユキさんに申し訳ないよなー」
「くっ!」
マコトはコーヒーを手に、壁に貼られたメニュー表を眺めていた。
俺はとっくに飲み切ってしまったというのに、ずるい!
……しかし俺の泣き所であるユキさんの名前まで出すところを見ると、マコトは本気で拒否しているようだ。
それならばと優羽さんに目を向けたが、なにやら九条さんと話し込んでいた。
俺の視線に気付いたのか優羽さんもこちらをチラリと見てきたが、特に関わる気はないらしい。
九条さんに視線を戻した優羽さんは、九条さんのメイド服のフリル部分に触れながら、なにやらきゃあきゃあ騒いでいた。
……仕方がない。
諦めて、ヒヤヤッコについていくことにした。
カウンター奥の扉から、狭い通路へ出る。
ここから右に進めば事務室があるわけだが、ヒヤヤッコはその手前にある狭くて急な階段を上ろうとしていた。
「待って待って!」
思わず慌てた。
ミニスカートで先に行かれては困る。
「ああ、事務室じゃなくて2階の控室で着替えたの。制服もそこにあるから」
「いや、そうじゃなくて2階に上がるんだったら、俺が先に上がってもいい?」
「うん? なんで?」
どうも、本気で分かっていないようだ。
今もヒヤヤッコは階段を少し上がったところでこちらを振り向いているので、彼女の脚の辺りに目が行きそうになる。
「ミニスカートだからね。先に行かれると気になるから」
こういうのは変に照れずに、バシッと言った方がいい。
……そう思ったのだが。
ヒヤヤッコの目が思いっきり泳いでいる。
「……だ、だいじょぶじゃない? わたしガサツだし……。べつに、その、み、見られたって、気にならないよ……」
彼女は明らかに動揺しながら返事をすると、ふわふわとした足取りで階段を上りはじめた。
なるほど、マコトが言っていた通り「ガサツなキャラ」を続けていたようだ。
たしかに口調はかなりガサツな感じになっていたが、それでも普段の仕草にしろアワアワとしたリアクションにしろ昔と変わらず可愛らしいお嬢様のままだ。
とりあえず、異性に下着を見られても平気なのはガサツとは別物ではないかと思いながら、下を向いて階段を上った。
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