第3話

碧海が買い出しの帰り、その道を通ると当然のように桜華はいない。

「帰ったんだろうな」

少し危なっかしい子だったな、と思いつつ、帰宅する。


その日の夜のことだった。

「桃ちゃん、どうしてるかなー?」

少し話したい気持ちもある。

思いきって電話しようかとスマートフォンを手に取ると、示し合わせたかのように桃華から電話がかかってきた。


「桃ちゃん、どうしたの?」

『碧海くん、ごめんね。実は話したいことがあって、もしいいなら、いつもの公園で待ち合わせない?』

「夜道は危ないから、そっち行くよ?」

『ううん、公園の方が良いんだけど……。大丈夫?』

「良いよ。じゃあ、気を付けて来てね」


電話が切れると、碧海は公園に向かう。

桃華から呼び出しなんて珍しいな、そう思いながら。


公園には、先に碧海が到着した。

少し遅れて桃華もやってくる。


「お待たせ、ごめんね」

「ああ、いや、大丈夫。どうしたの?」


桃華は一息入れてから話し始める。

「今日、公園にいた?」

「うん。買い出しがてら散歩に、ってここに来たよ」

「その時、まさか桜華に似た子がいなかった?」

「いた……けど、なんで知ってるの?」

「やっぱり……」


桃華は少し寂しそうに話を続けようとする。

「昼間、昼寝してた時に全く同じような夢を見たの。ここのところで、桜華そっくりな子と碧海くんがいた夢をね」

「そうなんだ?」

「うん。その後、言ってたことがあるんだ……。それが凄く引っ掛かってて……」

「何て言ってたの?」


桃華は軽く深呼吸した。

「『私の物語はすぐ終わっちゃったけど、二人はまだまだ人生って物語が続く。ちゃんと目標に手を伸ばして生きていてほしい』ってね……」

「そう……、そうなんだ……。でもさ、僕から一つ訂正していいかな?」

「何を?」

「完全に忘れられた時、それが本当の意味で人生って物語の終わりだ、と思う。桜華ちゃんはさ、昔から読書とダンスが大好きで、ダンサー目指して頑張ってる子だったよ、ちゃんと覚えてるし、僕は忘れない、絶対に!」

桃華はその言葉にポロポロ涙を零す。

同じ時、ポロポロと雨が降り出した。


「わ、降ってきた…! 桃ちゃん、濡れちゃうよ!」

碧海は上着を脱いで桃華の頭にそっとかける。

「あ、碧海くんこそ……!」

「雨宿りしよう!」

碧海は桃華の手を掴んで屋根のある建物まで走った。


桃華は、碧海の行動にこの人はどこまで人を大事にしてくれるのだろう、と感動を覚える。


「ねえ、桃ちゃん。僕は何度でも手を伸ばすからさ」

「付いていくよ、ずっと」

「うん!」


二人はしっかりと手を握りあった。

二人の物語は前に進んでいく。

桜華の記憶とともに。

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