第2話

翌日

碧海は一人、ベッドからもぞもぞと動き始める。

「今、何時だ……?」

碧海は時計を見て驚く。

「うわっ!? もう昼前じゃん! ……昨日飲みすぎたかな?」

ジントニックに始まり、スカイダイビング、ウイスキーのロックで締めていたが……、さすがに疲労時にここまで飲むのは良くなかったようだ。


ただ、桃華は無事に自宅へと送り届けることができていただけ良し、と考え直すことにした。


「昼ご飯、テキトーに作るか」

碧海は冷蔵庫を漁った。


冷蔵庫から、卵、きゅうり、レタス、カニカマ、バターを、食品ストッカーから玉ねぎ、そして食パンを出してテーブルに広げた。

きゅうりとカニカマを刻み、玉ねぎをスライスして水にさらし、レタスを千切ってサラダにし、卵を目玉焼きにし、パンを焼く。


バターが溶け、香ばしい香りがしてくる。

ぐぅ~、とお腹が空腹を訴える。

「そういえば、冷凍のカレーがあったな。足りないだろうし、解凍してパンを浸して食べるか!」

碧海はサラダを盛った皿に目玉焼きを乗せ、違う皿にトーストを乗せ、カレーをスープ皿に盛る。


「いただきまーす」

碧海は満足そうに食事を始める。

「我ながら今日は美味い! と言いつつ、大したものは作ってないけどな」

笑いながら食事を進める。


空いた食器を片付け、買い出しついでに散歩に向かう。


近くの公園に差し掛かった時、平らだが、厚みのある石の上で両腕を広げてバランスを取る中学生か高校生くらいの少女がいた。

光の加減か、目の錯覚か……。

彼女の背中には、まるで光のツバサがあるように見えた。

碧海は思わず目を擦ってもう一度見る。


だが、突然の突風が吹く。

「あぶねっ!」

碧海は咄嗟に彼女を助けに走る。


「わっ、びっくりした……! 助けてくれてありがと」

ニコッと柔らかな笑みを浮かべる彼女は……。


「桜華……!?」

いや、ありえない。

桜華は病気で世を去っているのだから。


「桜華だよ? 原田桜華」

「そ、そうなんだ……。ごめん、病気で亡くなった幼馴染みとそっくりだから驚いちゃってさ」


「そうなの? 偶然なのかなー?」

桜華は無邪気に笑う。

だが、碧海には《幼馴染の》桜華と重なって見えた。


目の前の桜華は、ピョン、とジャンプしてさっきの石に飛び乗り、くるんと一回転した。

「こうやって見てると、桜がキレイなんだよ」

そよそよと風で揺れた枝の間から、桜吹雪が舞った。

まるでこのまま桜華を連れ去ってしまいそうだ。


「あんまり危ないことするなよー」

碧海は苦笑いしながら声をかけた。

「はーい」

桜華は笑って返事した。


碧海と別れた後、桜華は少しさみしげな顔をする。

「……本当に変わってないな」

風とともに桜の花びらが舞う。

桜華という少女の姿は花びらとともに消えていた。

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