夢追うツバサ
金森 怜香
第1話
とあるオフィス事務所
「碧海くん、こっちも手伝ってくれない?」
「あ、はーい」
碧海は同僚の
「ごめんね、こっちのワード捌いてくれないかな?」
「桃ちゃんは本当にワード苦手だよね」
碧海は笑いながら書類を受け取る。
「そ、その代わりエクセルは得意なんだから!」
桃華は苦笑いしながら言う。
「明日はお休みだし、定時までに終わらせるぞー!」
「おー! 頑張ろうね」
二人はこっそりグータッチする。
集中して、それぞれが仕事を捌くこと数時間……。
定時のチャイムが鳴り響いた。
「終わったー!」
「お疲れ様、こっちも終わったよ!」
「よし、じゃあ、帰ろう」
「そうだね」
残っている事務員たちも続々と帰り支度を始める。
「桃華ー、今日飲みに行かない?」
友人である
「んー、今日は良いかな」
「碧海くんとの方が良い?」
「たまにはね」
桃華は笑って言った。
実は二人は、幼馴染でもあり恋人同士でもある。
「お待たせ、碧海くん」
「美柑たちと飲みに行かなくて良かったの?」
「たまには碧海くんと行きたいなー、なんて」
「良いよ、付き合うよ」
二人は揃って、行きつけのバーへと向かった。
しっとりと暗いバーで、昔の写真が大事そうに飾られたバーの中。
「お疲れ様!」
二人はひっそりと軽くグラスを掲げた。
碧海はジントニックを、桃華はモスコミュールを片手にお互いをねぎらう。
「しかし、明日は休みかー。桃ちゃん、明日はどうする?」
「うーん、ゆっくりゴロゴロするのも悪くないかなー、なんて思ってるとこ。デートしたかった?」
「ううん、たまにはゆっくり羽伸ばすのもどうかなー? って思って言おうとしたところ」
「碧海くん、そういうとこ優しいよね」
桃華は碧海に笑顔を向けた。
碧海の顔は、良いからか照れからか、ほんのり赤くなっている。
「そういえばさ、覚えてるかな?」
「ん?」
「あの子の事……」
「ああ、
「そ。もうすぐ命日だし、そろそろお墓参りも行かないとな……」
「その時は、一緒に行っていい?」
「もちろん。桜華も喜ぶよ」
桜華は桃華の双子の妹だったのだが、高校生の頃に病気で亡くなった子である。
碧海も桜華とは親しかったし、三人で遊ぶことも度々あった。
ユーモアのある桜華は、何故だか可愛い『妹分』に思えて桃華とは違う意味で好きだった。
ゆったりと夜の時は過ぎていく。
程よく酔った二人は、階段を上って地上に出る。
碧海がふと振り返ると、やはり古い他の人物の写真が廊下の回廊にある。
酔っていたせいか、写真がほんのり口角を上げたように感じた。
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