第2話 ちゃんとしないとダメです
「……ん?」
「あ、よかった気が付いた! あの、大丈夫ですか?」
「……ここは?」
目が覚めた時、目の前には可愛い女の子の心配そうな顔があった。
そしてなんか、俺の後頭部はやけにすべすべしてて柔らかい感触に包まれている。
こんな上等な枕持ってたっけ……ん?
「え、これって」
「膝枕、首痛いですか?」
「あ、いやこれは」
「あ、急に動いたらダメですよ」
「……」
状況を理解して飛び起きそうになったけど、急に起きるなと言われて俺はそのまま彼女の膝元に頭を戻される。
……落ち着かねえ。
「あの、すみません急に殴ったりして」
「い、いや別にいいよ」
「……見ました?」
「な、何を?」
「い、言わせないでください! あの、私の体、見ましたよね?」
「……さあ、覚えてないけど」
嘘です、見ちゃいました。
まあ、一瞬だったのではっきり、ではないけど。
「う、嘘ついたらダメですからね! お、おっぱい触られただけじゃなく裸まで見られるなんて……もうお嫁にいけません……」
「お、お嫁さんって……いや、それよりさっき君、自分のことサキュバスって言ったよね?」
このまま彼女の太ももで就寝したい気分だったが、寝転がったまま話をするのも落ち着かないので渋々体を起こす。
すると、彼女は当然といった顔で「はい、サキュバスですよ」と。
「……で、サキュバスの君が俺のところに来た目的っていうのはやっぱり」
「は、はい。ええと、サキュバスって十六歳で成人なんですけど、成人になると男の人の体液をいただく決まりになってまして」
「サキュバスって他にもいるの?」
「ええと、昔は結構いたらしいんですが最近めっきりへったそうで」
「ふーん。でも、なんでその相手が俺だったの?」
「……それは」
急に、恥じらいだすサキュバス。
なんだろう、人の体液を搾り取る悪魔が照れる光景ってなんか滑稽だな。
「触られたから……」
「え?」
「だ、だってお母さんに『不特定多数の男に体を触らせるような淫らな子になったらダメよ』って育てられたので! だから体を触られたあなたにしか、こんな恥ずかしいことお願いできないかなって……わ、私男の人に体触られたの、初めてなんです」
「そ、そんな真面目なのサキュバスって?」
「そ、そうですよ? 体液を搾取するって言っても、誰にどう頼めばいいのかなって悩んでて……そんな時、いい匂いにつられて歩いてたらあなたにぶつかって、その、触られちゃって……だからあなたにお願いするしかなくて」
「でも、なんで汗舐めさせてとかティッシュくれとかなの? ええと、普通寝込みを襲って、その、エッチなことするんだよね?」
「つ、付き合ってもないのにそんなのダメに決まってるじゃないですか!」
「ええ……」
俺の思っていたサキュバスと全然違うんだけど。
付き合ってからエッチするんだったら普通の人と変わんないじゃん。
「は、はしたないこと言わないでください」
「いや、汗舐めさせてって頼むのも十分はしたないよ?」
「うっ……だ、だって汗くらいしか、飲めるものないですし……」
「あの、自分でこんなこというのはなんだけど唾液とかはダメなの?」
「そ、そんなのチュウじゃないですか! ダメです!」
「そ、そう」
どうもこの子の貞操観念がよくわからないけど。
サキュバスにそもそもそういうものを求める方が変な話なのかもしれない。
「で、もし飲まなかったらどうなるの?」
「ええと、なんか倦怠感が抜けなくてイライラすることが増えるそうです」
「え、それだけ?」
「そ、それだけって失礼ですよ。私、だるいのもイライラするのも嫌です」
「まあ、そりゃそうだけど」
「なので汗、舐めてもいいですか?」
「……」
ちょうど、俺は手汗をかいていた。
可愛い子が目の前にいる緊張と、さっきから繰り出される妙にエロい会話に自然と体が反応して、汗が滲んでいる。
だから手を舐めさせてあげるくらいいいかなと。
自分の掌を見つめた後で、彼女に差し出す。
「はい、どうぞ。ええと、ちょっとだけだから」
「……いいんですか?」
「は、早くしてよ。恥ずかしいから」
「は、はい。それじゃ、失礼します」
恐る恐る俺の手に顔を近づけて、サキュバスは舌をぺろりと出す。
そしてぺろん。
舐められた瞬間、背筋にゾゾっと電気が走った。
「っ……」
「く、くすぐったいですか?」
「ま、まあ。ええと、満足した?」
「……全然です。美味しいなって思うだけで、体は楽になりませんね」
「そ、そう」
でも、美味しいんだ。
俺の大してきれいでもない汗でべたべたした手がおいしいって、やっぱり彼女はサキュバスなんだなと思わされる感想だ。
「……やっぱり、精液じゃないとダメなのかなあ」
そう呟いてから彼女はチラッと俺を見る。
「な、なに?」
「……や、やっぱりだめ。す、好き同士でもないのにそんなエッチなこと、できません……」
「そ、そうだよね。べ、別に俺は強制はしないけど」
「……でも、飲みたい。あなたのが、ほしい……」
「え?」
「……あ、今のなしです! ちょ、ちょっと欲求不満がこぼれてただけで、決して私は淫乱じゃありません!」
「……」
一瞬、彼女はとんでもなくエロい目をしていた。
あれがサキュバスの本性、なのだろうか。
しかし、それ以外は終始乙女だ。
さっきの自分の発言を思い返して「せ、精液とか言っちゃったー!」って悶えてる辺りとか。
「はあ……で、これからどうするつもりなの?」
「私ですか? うーん、早く吞んでみたいって気持ちはあるんですが、好き同士でもない殿方のせいえ……ええと、それを呑むのはやっぱり」
「じゃあ、とりあえずしばらくは汗で我慢する?」
「そ、それだけだと多分我慢、ずっとは出来そうもないです……」
しょんぼりと。
サキュバスは落ち込んでしまった。
まじめ故にこんな壁にぶち当たるなんて、一体どんな悪魔なんだよと呆れながらなんと声を掛けたらいいか考えていると。
「そうだ!」と言って彼女が顔を上げる。
「な、なにかいい案が?」
「はい! もう、これしかないです」
「ち、ちなみにそれは?」
なんか不安しかないなあと、恐る恐る聞いてみると。
ふふん、と鼻息を荒くしながら彼女がドヤる。
ドヤって、言う。
「あなたに、恋をさせてください!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます