第3話 沼は入るとなかなか出られない



 

 

 


 営業で三河島の印刷工場を出て御徒町でランチする。サツキとアメ横の入口で待ち合わせしてガード下の小さな専門店が所狭しと並ぶ通路を歩いていつもの定食屋へ入る。

 店員のハナブーが笑顔で席を案内してくれる。

「二人ともいつもので良い?」

「オッケー!」

「お願いします!」

「ヒカルは男に逃げられたんだって?」

「なんで知ってんの!」

隣のサツキが気まずそうな顔をしている。

「サツキだな!」

「ごめんなさぁい」

ハナブーが大笑いしている。

「ハナブー!笑うな!」

「うける!うける!あんたはホント続かないねぇ」

「自分でも解んないよ!」

「今日はコロッケ一個サービスしておくよ」

「失恋がコロッケ一個ですか!?」

「ヒカルの恋はそんなもんだよ!ハハハッ!!」

美人な癖して豪快なハナブーは他のお客さんにも構わないで大笑いしながら厨房へ入った。


 アタチはサツキおでこにデコピンした。

「痛い!!」

「余計な事をハナブーに言った罰だ!」

「だって先輩の話はホント喜劇なんですもん!」

「ったく!笑いものにして!」

二人の前にミックスグリルのワンプレートが並んだ。ヒカルの方にはまん丸のコロッケが1つ乗っている。

 二十代半ばの女性がランチで食べる量とはかけ離れた大盛りであるが、ヒカルとサツキはだいたいいつもこの量を食べている。


「そういえば先輩!お爺ちゃんと遊んでた鉄砲はなんですか?」

「あれはサバゲーの銃だよ」

「あ!元彼の趣味とか言ってたサバゲーですね!」

「元彼じゃなくてアタチね!アタチの趣味ね!!」

「サバゲーですかぁ楽しいんですか?」

「めっちゃ楽しいよ」

「痛いんですよね?」

「痛いよ」

「楽しいんですか?」

「めっちゃ楽しいって!何回も同じ事を!あっこれ食べたら良いところに連れて行ってあげる」

「良いところ?」

「うん!」

ヒカルはニコニコした。


 二人は食事を済ませて御徒町駅の方へ歩いてコンビニ横の建物前に着いた。

「おお!こんなところにこんなお店あったんですね!」

サツキは見上げている。

「入ろ!」

「はい!」


二人は銃がたくさん並んでいるのを見上げた。

「凄いでしょ?」

「凄いたくさんあるんですね!これを持って戦うのかぁ」

アタチはサツキを置いて上の階へ向かった。


 サツキは色んな銃を見ながら歩いていると他の人にぶつかってしまったー。

「ごめんなさい!」

「こちらこそ!ごめんね!」

頭を上げると背の高いスタイルの良い美人が立っていた。

「かっこいい…」

「貴女も可愛いですよ」

「いやいやいや!」

美人さんはニコッと微笑んだ。

 サツキは何度も会釈してそそくさとその場を離れた。


「あかりちゃん知り合い?」

平蔵がBB弾を二袋持ってきた。

「銃に見とれてぶつかっちゃったの」

「ふふっあるあるだな」

「だね!」



「先輩!凄い美人さんが居たよ!」

サツキが慌てながら走り寄ってきた。

「美人さん?」

「あ、カゲトラさんとライトさんかな?」

店員が言った。

「有名人なんですか?」

「サバゲーSNSで有名ですよ」

「アタチもフォローしてる!」

「へぇ!そんな人達も居るんだぁ」

「うんうん!サバゲー界は楽しい沼なのだよ!」

「沼……こわっ!」

サツキはニヤつく先輩から後退ったー。


つづく

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