4-2


 ロイは昼前にフェリーに乗って島へ上陸した。


 海沿いのフラワーショップ・ナヤを通り過ぎ、目的地へ足早に向かう。


 冷たい潮風がコートの裾を翻した。


 リボンの装飾が浮き彫りにされた看板の、小さなお店。


 ショーウィンドーに飾られた華やかなツリーに見向きもせず、ロイは入口ドアを開けた。


「いらっしゃーい」


 陽気な出迎えの声がした。


 店の店長がひとり、レジの前に立っている。


 男だけど女物のエプロンを巻いて、顔にも強い化粧をしている。


 長いまつ毛をつけた目が、ロイを品定めするかのように、じっとりと動いた。


「リカはいますか」


 ロイが聞くと、店長は両手をパチンと叩いて、低い声でまくしたてた。


「ロイじゃないの! 島には帰ってきていたの? リカを心配させるんじゃないわよ。電話にも出てくれないって、スネてたわよ」


 この島には珍しいニューハーフの店長。2階で一緒にリカを住まわせているというが、男にしか興味のない男なので、ロイはだいぶ安心していた。


「リカはいますか」


 ロイはもう一度、同じセリフを突きつけた。


 店長は片手をあごにかけ、微笑んだ。


「教会前の広場にいるわ。カートを出して、店番してもらってるの」


「ありがとう」


 簡単にお礼を言って、ロイは店を出ようとしたが、不意に立ち止まり、店長を振り返った。


「先日のアクアアルタは、手伝いに来れなくてすみません」


 いいのよ、という感じで、店長は笑いながら、片手をロイに振ってみせた。


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