2-2
ルームサービスのクロワッサンとミルクを胃に収めたあと、メルはチェックアウトした。
ロビーの柱時計は7時を刻んでいる。
9時入港だから、しばらくまだ時間があるな。
よく磨き上げられた、つややかな木の入口ドアを開くと、すぐ外に、掃除をしている2人組を見た。
ホテルへ続く短い階段の、白い手すりを雑巾がけしている、背の高い男。
柄の長いモップで、石畳の水を拭き取っていた、細身の少年。
2人はメルを通すために、階段の両脇によけ、立った。
「良い1日を!」
少年の透き通った声がメルを見送る。通り過ぎた後ろから、囁くような会話が聞こえた。
「ほら、彼が昨日、ラジの言っていた……」「かわいい長靴じゃないですか」
歩きながら、メルは町の様子を眺めた。
まだフェリーが来ていないので、観光客の姿は少ない。
今、写真を撮っている彼らは、昨日からの泊まり込みの客だろう。
ひと晩水に沈んで、今朝早くに浮上した町は、雨上がりの様子に似ていた。
所々へこんだ石畳に、水溜りができ、青い空を映し込む。
観光客は彼らの言葉で喋り合いながら、その光景を写真に収めて、楽しんでいるようだった。
メルはミリのパン屋が建つ通りを抜けた。
足を休めず眺めると、ドアにはCLOSED(閉店)と書かれた札が下げられていたが、もう表には机と椅子が持ち運ばれて、テーブルクロスもセットされていた。
この様子なら、ブランチには客を呼び込めるだろう。
そのまま路地を歩き続け、メルは役場前の広場に着いた。
人通りはまばらだったが、バックパックを背負った旅行者が2、3人、役場前に立つ案内板を眺めていた。
遠目に確認してみると、その看板から雫が地面に落ちていた。
上のほうは乾いていたので、昨日、どれくらい浸水したのかは、分からなかったが。
メルはポストに近寄って、ポケットからカギを取り出し、裏蓋を開けた。
10通ほど新たに投函されている。
すべてを鞄に詰めたあと、役場の時計を見る。
7時半。
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