第37話 絶叫コースター
次にやって来たのはダイナソーランドという、ハリウッドが生んだ超大作恐竜映画を基に作られたエリア。
なんでもワンダーランドを運営する会社の社長がその映画の監督と版権会社の社長の知り合いの飲み仲間というどこまで本当か分からない交友で、こうしてアトラクションを作らせてもらったのだとか。
で、ついこの間完成したアトラクションというのが、プテラノドンに縦横無尽に振り回されるジェットコースターなんだけど……。
「……」
「あのー、先輩? 怖いならやめておきます?」
「う、ううん! 乗るよ! さぁ行こう!」
なんて言ってるけど、先輩の膝がなんだか面白いことになってる。
縦横無尽とかいうレベルじゃなかった。もうほんとあっちこっちに振り回されるようなコースで、大きく回転する場所とかあって普通に怖い。
乗ってる人の絶叫が聞こえてくるんだけど、円状のコースの頂点までいくと声が聞こえにくくなってるし。高さどれだけあるんだよ。
新しいアトラクションというだけあって人気らしい。
長蛇の列ができており、かなりの時間を待つことになるとは思うけど、せっかくだからと並ぶことにした。
「そういえば先輩はこの映画も好きなんですか?」
「全作見てるよ! 来年に公開の最新作も公開初日に行こうかなって」
「たしか、放棄された島から恐竜を別の島に移すようなストーリーでしたよね。予告編にタルボサウルスとか出てたから俺も楽しみなんです!」
「だよね! 私的にはTレックスをどうやって運ぶんだって思った!」
待ち時間も映画の話題で盛り上がることができた。
先輩は映画だけでなく、小説版も全部読んでいるみたいで裏話なんかも教えてくれる。
キラキラした目で熱弁されて、この作品への愛が感じられて俺も楽しくなってくる。
「そうだ! 結翔くんさえよければ来年の映画も一緒に行こうよ! 楽しいよ!」
「いいですね! ぜひぜひ!」
「約束だね!」
先輩と映画に行く約束までした。と、言っても来年の話だけど。
そうこうしていると、いつの間にか順番が巡ってきていた。次の出発分には乗れそうだ。
一周したコースターが戻ってきて、前に乗っていたお客さんたちが降りていく。
そして、ちょっとしたチェックが終われば俺たちの番だ。
「じゃ、じゃあ、行こうか……」
「先輩本当に大丈夫ですか?」
さっきまで映画の話でめちゃくちゃ盛り上がったけど、いざ搭乗となると途端に先輩が震え出す。
強気に大丈夫だと宣言して行っちゃったけど、本当に大丈夫かな?
ちなみに、俺はめちゃくちゃ怖い。今まで乗ったことがないようなコースだしビビるって。
係の人に案内されて先輩も俺もコースターに乗り込む。
と、空いた隣の席に乗り込んだ男性をチラリと見て、そしてビックリした。
「ここ、失礼するよ」
「え! あ、はい」
「お父さん!?」
先輩のお父さんが安全レバーを下ろしてすっかり準備完了になっていた。
どうしようか。正直ジェットコースターが怖いとか言ってられない。
考えすぎかもしれないが、この人先輩のことすごく大事にしてるだろうし、そういう人って俺みたいに周りをうろちょろしている男とかにめっちゃ厳しいイメージがある。
ちょっとした不安を抱いているとコースターが動き出した。
映画で恐竜が脱走したときのサイレンと同じ音が鳴り、プテラノドンに掴まれたような鈍い効果音が響く。
ガコガコと音を立ててコースターが上がっていく。
かつてないコースと隣からの威圧で生きた心地がしなかったけど、俺の考えすぎだということを証明するようにお父さんが優しい口調で話しかけてきた。
「ところでだ。君、美愛をどう思う?」
「え? そうですね、先輩にはいつも助けてもらっているし、一緒にいると楽しい話をしてくれるのですごくありがたいです」
「そうかそうか。美愛はな、家でいつも君のことを楽しそうに話しているんだよ。よければ、これからも仲良くしてくれると嬉しい」
「それはもうこちらこそ!」
「二人とも、何を話しているの?」
先輩が笑ってこちらに顔を向ける。
だが、ちょうどコースターの動きが止まって先輩が顔を引きつらせた。出発位置まで到着したのだ。
プテラノドンの鳴き声が響いて、コースターがすさまじい加速で一気に落ちていく。
「うわぁぁぁ!」
「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うぎぃやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
体にかかるGに思わず叫び声が漏れる。
チラリと横目で見ると、怖がっていた割には先輩も楽しそうに叫んでいた。目を閉じて叫んでいるが、口元は笑っている。
ただ、先輩のお父さんはものすごい絶叫を轟かせている。
前後のお客さんからは絶叫じゃなくて笑い声が聞こえてくるんだからそれはもう面白いことになってる。
怖がっていたけど、こうして実際に乗ってみると楽しいもので。
あっという間に一周を終え、戻ってくる頃には俺も先輩も満面の笑みだった。顔を見合わせてクスッと笑う。
その隣で、お父さんは白目を剥いて気絶してしまっていた。
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