第24話 テスト明けの計画

 新年が明けたからと、おめでたいことばかりではない。冬休みが終わってすぐにやって来るのが、皆苦手なテスト期間だ。

 期末レポートだけという講義もあるし、期末テストだけという講義もある。一番キツいのは両方を課せられる講義だね。

 今期まともに出席していた講義の方が少ない俺にとって、このテストはまさに地獄だった。なんせノートを取っていないから要点がさっぱり分からない。自業自得と言えばそうですとしか返せないんだけど。

 一応、涼華からノートやらレジュメやら借りて範囲内は一夜漬けで勉強してきたけど、この付け焼き刃の知識はどこまで通じるだろうか。

 これまでの科目は特段問題なく終えられたように思う。さすがに単位を落とすようなものは出していない……と、思う。信じたい。

 そして、今から行われるのが最後のテスト。例の手書き教授の講義のテストだ。

 前の席からテスト用紙が配られてくる。

 授業レジュメはうっすい紙なのに、こういう時はしっかりとした厚みのある紙を使ってやがる。いやまぁ当たり前と言えば当たり前だけど。

 全員に用紙が行き渡り、教授のはじめの合図で一斉に用紙を裏返す。


「うわぁ……」


 思わず声が出てしまった。それは周囲も同様で、俺と同じ声がちらほらと聞こえてくる。

 問題文の羅列はたったの一行。後は全て論述スペースだ。

 一夜漬け組をフルボッコにするような鬼畜設問。

 もはや苦笑いしか浮かべることはできず、該当範囲になりそうな部分を思い出して自分の記憶で残りを補完するしかなかった。


◆◆◆◆◆


 どーうにかこうにか埋め尽くし、魂の抜けた顔で筆記用具を鞄に詰め込んだ。

 今日はもう終わり。この後取っていた講義は既に期末レポートをオンラインで! 提出しているからテストはない。

 ようやく解放された安堵感、成績を見るのが怖いという不安が入り交じる複雑な気持ちで講義室を後にした。

 今日はもう自炊する気力はない。適当にデリバリーを頼むか、どこか外食するか。一人焼き肉なんてのもいいかもしれない。

 どこかいい感じの店はないものかスマホを取り出し、検索しようとネットを開いて――、


「おっす。テストどうだった?」

「うわああぁぁぁぁ!!」


 何の前触れもなしに後ろから声を掛けられて自分でもビックリするくらいの大声が出た。

 防衛本能か、咄嗟に相手から距離を取ろうと振り向きざまに腕を突き出して……。


「ひゃっ」


 そんな声と共に、手になんだか柔らかい感触が触れる。

 ゆっくり落ち着いて確認すると、声をかけてきたのは涼華だった。そして、俺の手はそんな涼華さんの大層立派なものを掴んでいるわけで……。


「さて、ここで問題です」

「……はい」

「このままおとなしく手を離して謝罪するのと、死を覚悟して揉んでみるの。どっちが安全でしょうか?」

「そりゃあもう言うまでもないだろ」


 にっこり満面の笑みを浮かべ、すぐに手を離して我ながら完璧なジャンピング土下座を決める。


「本ッ当にすみませんでしたぁぁぁぁぁ!!」


 額を床に擦りつけたところ、脇腹に強烈な衝撃が走った。

 胃がグッとなるような嫌な感触と吐き気を覚えていると、涼華が腕を引いて立ち上がる補助をしてくれる。


「はい、これでチャラ」

「手加減しろよ死ぬかと思ったわ……これくらうなら揉んどけば良かった……」

「もう一発いく?」

「ははは、ご冗談を」


 あれをもう一撃くらえば救急車案件で済むか怪しいところだ。

 痛む脇腹を擦りながら落としたスマホを拾い上げると、横から涼華が画面を覗き込んでくる。


「焼き肉? あんたこれから焼き肉行くの?」

「え、いや考えてるだけ」


 焼き肉店の検索画面が映し出されていて、そう聞かれた。

 これも何かの運命か。今日は焼き肉にするとしよう。テストを頑張ったご褒美だ。


「でもそうだな。焼き肉に行く」

「そう。じゃあ、私も奢られてあげる」

「奢らねぇぞ!?」

「冗談よ。でも、打ち上げに誘おうと思って声を掛けたのは本当だからね。一緒にここで打ち上げしましょ」


 俺の手からスマホをひょいと取り上げると、勝手に名前を使われて予約を入れられた。

 スマホが返ってくると、半ば強引に腕を引かれて講義棟から外に連れ出される。

 一月の半ばはまだ寒く、手袋とコートは必須だ。冷気に当てられながら急いで防寒具を身に纏う。

 予約したお店は地下鉄で二駅の距離にあった。

 俺が普段使っているJRの路線ではないけれど、店の近くにちゃんと駅があるから帰りに関しても問題はなかった。涼華はお店から家まで徒歩圏内らしいしこちらも大丈夫そう。

 早速地下鉄に乗って店まで移動する。

 いかにもな店構えの入り口を潜り、店員さんに俺の名前を告げると席に通された。

 向かい合うように座り、メニューを持ってきてもらうと同時にとりあえずでハイボールを注文する。

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