第17話 年末年始の過ごし方
瀬利奈との一件から数日。
あの後、瀬利奈は葛谷と別れたらしい。本人からそう聞いた。
電話越しに何度も謝られ、また適度に会って遊ぼうと約束をしてその日の通話は終えた。
次に会うのは来年になりそうだ。年末年始に東北の実家に帰省するからお土産を持って家にお邪魔させてほしいと言われたし。
さて、俺はマジで年末年始の予定がない。
この後バイトに行ったらもう暇で暇で仕方がない。帰省の予定はないし、帰ったところで誰もいない。
母さんも父さんも妹も揃って海外旅行に行くそうだ。こういう時くらいは国内で暮らせよ。
俺はこっちの暮らしが楽しいから断ったけど、予定がないのだから一緒に行けば良かったと思っても後の祭り。
いや、予定がないわけじゃない。今から予定を作れば予定はある!
暴論だが、実際その通りだろう。
さぁ、一緒に年越ししてくれそうな相手を探すとしよう。まずは電話電話。
スマホを手にして涼華に電話をかける。
「あ、もしもし涼華? 実は……」
『ごめん無理』
速攻でぴしゃりと言い切られてしまった。
「まだ何も……」
『どうせ、年末に遊びに行こうとかそういうのでしょ? 私、今から実家に帰省するから』
確かに、電話越しに新幹線の出発を告げるベルが聞こえてくる。
残念ながら涼華は予定が詰まっていた。仕方がないから諦めよう。
『てか、そもそもあんたは帰らないの?』
「今年はこっちで過ごす。皆旅行に行ってていないから」
『あらま。じゃあ、何か適当に地元の銘菓買ってきてあげるわ』
「アンテナショップ行くわ」
『おい! 楽しみに待ちなさいよ!』
クスクスと笑い声が聞こえてくる。
『あ、そろそろ新幹線来るから。よいお年を~』
「おう、よいお年を」
通話が切れた。
涼華はダメだった。では次に行こう。
次に吾郎に電話をかける。
「あ、吾郎? 実はさ……」
『わりぃ。今から飛行機だから手短に』
「……よいおとしをー」
棒読みで言って通話を切った。
あ、ダメだ。誰も彼も予定が埋まっている。クリぼっちは避けたけど年越しぼっちになりそうだった。
あと年末を一緒に過ごせるような間柄の人と言えば、白田先輩……くらい? いやでもさすがに恐れ多いか。
はい、ぼっち決定ですお疲れ様でした。次回作にご期待ください。
なーんてふざけたこと言ってると、気が付くとバイトの時間が差し迫っていた。
さすがに遅刻するわけにはいかない。
バイト道具を鞄に詰め込み、慌てて家を飛び出した。
◆◆◆◆◆
今日が今年最後の営業日ということで、お客さんも多かった。
ちょっと早めに閉店時間を迎え、最後の片付け作業に移る。
今日のシフトは、俺が売り場の整理をして、ゴミ掃除と閉めの作業が社員さんと白田先輩の担当だった。
さっさと整理を終わらせて、並べていたコミックと雑貨を元の位置に戻すと俺の仕事は終わり。途中でゴミも軽く纏めておいたから白田先輩たちの作業もそう多くはないはずだ。
社員さんに報告し、上がるためにタイムカードを切る。
と、その前に白田先輩が呼び止めてきた。
「あ、待って結翔くん」
「先輩? どうしました?」
「えっとね、この後、時間あるかな?」
「無駄にありあまってます!」
「どうして誇らしげ……? じゃ、じゃあ少し話があるんだけど、いいかな?」
「いいですよ。外で待ってますね」
タイムカードを切って控室に行こうとすると、社員さんが俺と白田先輩の肩を微笑ましい顔で叩く。
「白田くん。もう上がって大丈夫だよ」
「え、でも……」
「売り上げ計算はとっくに終わらせているさ。ゴミ出しくらい僕がやっておくよ」
社員さんの粋な計らいで、俺と白田先輩が同時に上がることができた。
そんなわけで、二人で鞄を持って控室を後にする。もちろん社員さんへの挨拶も忘れない。
店を出て駅に向かう道中、白田先輩から先に話を振ってくれた。
「結翔くんはさ、年末は実家に帰るの?」
「いや、残念ながら帰っても誰もいないから家で天日干しになってますよ」
「水分は取ろうね!? ……え、つまり一人?」
「ぼっちです。笑ってください」
俺は乾いた笑みで和ませようとしたけど、白田先輩は胸の前で手を握ってぐいっと身を乗り出してくる。
「じゃあさ! 明日、一緒に遊びに行かない?」
「遊びに?」
「うん。ちょーっとつまらないところかもしれないけど……」
そう先輩は言うが、先輩と遊びに行ってつまらないところなどほとんどあるはずがない。
それに、前から遊びに行きたいと思っていたし、先輩からも誘われていた。ちょうどいい機会だし行くことにしよう。
「いいですよ。どこに行きます?」
「え、ありがとう! じゃあ、場所は着いてからのお楽しみってことで」
人差し指を唇に当てて可愛らしい仕草を見せてくれる。やっぱりこの人天使だ。
上機嫌になった先輩と、駅のホームで別れる。
「じゃあ結翔くん。明日、十時に集合ね。場所はまた連絡するからっ」
「はい。楽しみにしてますね」
「私も!」
スキップをしながら先輩が改札を抜けた。
さて、どこに連れていってくれるのか。明日を楽しみに帰るとしよう。
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