第14話 話し合い
クリスマスが終わり、世間はだんだんと年末年始の準備を始めていく。
俺のバイト先でも、クリスマス用品を片付けて新年のグッズを並べるという重労働が行われた。人数をちゃんと揃えてくれたところはありがたいけど、お客さんが多い時間帯にやることじゃねぇなと思う。
白田先輩と愚痴を交わし、駅で別れてちょっと歩いたところにある喫茶店に向かう。
昨晩、時間が取れないかとメッセージが送られてきて、指定されたのがこの喫茶店だった。バイト終わりには特に用事もなかったために会うことにした。
扉を開けると、来客を告げるカランとしたベルの音が鳴った。奥の席で深呼吸していた女子が顔を上げ、視線が合う。
「いらっしゃいませー! 一名様ですか?」
「いや、奥にいるあの人の……」
「お連れ様ですね! かしこまりましたご案内します!」
お店の人に案内されて席に着く。
お礼を言い、お店の人が離れたのを確認すると、目の前に座る女子――瀬利奈が無理をしているような微笑みを見せる。
「結翔くん。その、来てくれてありがとう」
「呼ばれたし、俺も用事があったからな」
「そっか。あっ、バイト帰りだよね? お腹空いてない? 私が出すから好きなもの頼んでいいよ」
ぐいぐいとメニューを押しつけてくるが、受け取るだけで中は開かない。
困ったように頬を掻き、俯いて言葉を紡ぐ。
「えっとね。今日結翔くんを呼んだのは、謝りたいと思ったからなの」
それは、どの件についてだろうか。
正直なことを言うと、もう瀬利奈との一件は自分の中で整理が付いている。今さら謝りたいというのなら、自分の何が悪かったのか、それをきちんと理解しているのかが重要だと思っている。
もしそこを間違えるというのなら、もうこれで完全に縁を切ろう。
「本当にごめんなさい。私、あんなことを言ってしまうなんて……」
「……あんなこと、ね」
「許してくれるとは思ってない。許してほしいだなんて言うつもりもない。君にも責任があるなんてことは口が裂けても言わないし思ってもいない。でも、それでも謝らせてほしい」
瀬利奈の謝罪は何に対してか。
それを聞くために、息を止めて少しでも雑音を取り除く。
「あの時……信じられるわけないなんて言ってごめんなさい。結翔くんのことを信じなくてごめんなさい……っ!」
ポロポロと瀬利奈の目から涙がこぼれ落ちる。
……我ながら、自分が本当に馬鹿で仕方ないと思ってしまう。整理が付いたはずなのに、自分が一番嫌だと思っていたことをしっかり当てられて、そこに対する謝罪を受けて許してしまいそうになっている自分を感じてしまった。
口汚く罵られたのは確かにショックだった。けれど、それ以上に好きな人に信じてもらえなかったという事実が何よりも苦痛だった。
「なぁ瀬利奈。今こうして謝罪するなら、どうしてあの時あんな嘘の話を鵜呑みにしたんだよ。俺はそこまで信用がなかったのか?」
だからこそ、そこまでしっかりと分かっているならどうしてあんなことになってしまったのかとつい声に怒気を孕ませて強く言ってしまう。
瀬利奈は泣きながら理由を話してくれる。
「話? あ、でも、自分でもどうかしてたんだと思う。でも、これを見たら気が狂ってしまいそうになって、それであんな……」
一枚の写真が差し出される。
これが俺と瀬利奈の仲を引き裂いた呪物。一体どんなものが写っているのかと見て――、
「――ッ!」
血の気が引いた。今まで瀬利奈を恨んでいた自分が恥ずかしくて申し訳なくて、本当に謝罪しなくてはいけないのが自分だと気づいた気がする。
写真は確かに俺のマンションで、俺が自ら見知らぬ女子を家に招き入れている。夜でそれにかなり拡大して取られた写真なのか、画質は荒い。けれど、俺が全然知らない女子を夜に家に入れているという浮気場面を捉えていた。ご丁寧に右下には日付と時刻まで記載されている。
「私、この日の次の日にも家にお邪魔したのにね。その時に何もおかしな様子はなかったのに、なんで……なんで私、それを思い出さなかったの……」
「……ごめん瀬利奈。これ、本当に悪いのは多分、俺だ」
「え?」
写真に写っている女はまったく知らない。会ったこともなければ見たこともない。仮に会っていたとしても覚えていないくらいの存在。
だから、こんな写真があるはずないと思うが、これが合成写真だというなら俺が全面的に悪い。
女が着ているコート。これに関しては、というより、よく見たら服装全てに見覚えがある。このコートだけで写真に写っているのが誰なのか一瞬で悟った。
このコートは……以前、オーダーメイドで奮発しちゃったと、涼華が俺に自慢してきたものだ。
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