第13話 クリスマスプレゼント

 コース料理は進み、デザートに用意されたのは、ベリー調で仕上げられた焼き菓子とアイスクリームのお洒落な逸品だった。

 それらも楽しみ、小さなカップに入ったコーヒーが最後に用意される。

 窓の外では雪が降り始め、ホワイトクリスマスの到来を告げていた。

 コーヒーを口に含み、ゆっくりと味わってから涼華が夜景をぼんやりと眺める。


「私、今日が今まで生きてきた中で一番素敵な時間だったかも」

「それはさすがに言い過ぎだろ」


 こんな高級レストランはほいほいと来れるものではないし、そう言いたくなる気持ちも分からんではないが。

 ふふっ、と小さく笑った涼華は鞄をごそごそと探っている。

 そして、机の上に綺麗なラッピングが施された小包が置かれた。


「これは?」

「私から結翔にクリスマスプレゼント。せっかくだからね」

「っ! ありがとう。ここで開けるのは非常識かな?」

「散らかさなければいいんじゃない? ほら、どうぞ」


 丁寧に包み紙を解き、高そうな箱を開ける。

 中から出てきたのは黒い本革の財布だった。以前、涼華の荷物持ちに連れ出されて行ったデパートのお店でたまたま見つけ、欲しいなと呟いたものと同じもの。

 まさかあんな記憶の片隅にも残らないような呟きを覚えていてくれていたとは。そして、それをプレゼントしてくれるとは思ってもみなかった。これは冗談抜きで本当に嬉しい。

 財布を手に、真っ直ぐと涼華を見つめる。


「ありがとう。額縁に入れて飾るよ」

「使え馬鹿」


 冗談に涼華は笑ってくれた。

 財布を撫でてこちらも笑い返す。


「でも、これは本当に一生大切にするよ」

「それなら私も買った甲斐があるってものよ」


 涼華からのサプライズプレゼントに嬉しくなるが、だが、同時に不安も抱えてしまう。

 俺も涼華に日頃のお礼も兼ねてプレゼントを用意している。けど、なんというかやっぱり心は同じくらいこもっているけど値段的にはこの財布が高いと思う。

 涼華はプレゼントの値段を気にするような人じゃない。

 そう信じ、俺も鞄から包装した箱を取り出した。


「あ、それもしかしてプレゼント!?」

「ああ。涼華へのクリスマスプレゼントを用意してるんだよ。いつものお礼の意味も込めて」

「……自分で言っておいてなんだけど、ほんとどうしたの? 結翔ってここまで気遣いができたんだ」

「やっぱ渡さないさてお支払いするか」

「ごめんなさい冗談です!」


 手を合わせて謝罪のポーズを見せる涼華。

 その様子がおかしくて「もういいよ」と言いつつ笑ってしまう。

 それから、差し出された涼華の手に箱を置いた。


「なにかな~って、これって」

「キーケース。ごめん、何がいいのか思い浮かばなかった」

「ううん。せっかくのプレゼントだもん。ありがたく使わせてもらうね」


 キーケースを開けて、そして中に入っていた物の存在に気が付く。


「あれ、これは……」


 取りだしたのは一本の鍵。

 ちょっとベタベタの展開だけど、こういうことをやってもいいと思って入れさせてもらった。


「合鍵?」

「そう合鍵。あ、でも家に来る前はちゃんと連絡しろよ」

「ねぇ。これ渡してくれるならお昼にいやらしい手つきで私の体をまさぐらなくてもよかったんじゃないの?」

「うぐっ! それとこれとは話が違う!」


 あと、絶妙にアウトに聞こえる言い回しをやめなさい。事実じゃないけど嘘でもないのが一番弁明に困る。

 それに、お昼まで涼華が持っていたのは家主の許可を得ずに作られた持っていたらダメなやつ。でも、これはちゃんと俺が自分の意思で涼華に渡した正規の物。

 なんだかんだ言っても涼華が家にいる時間が楽しいのだ。この関係はこれからも続けたい。

 涼華は合鍵を両手で包むようにして握った。胸の前で大切そうにしている。


「でも、嬉しい。ありがと結翔。……えへへ」

「涼華もそんな笑い方するんだな」

「そりゃあ、最高のプレゼントをもらったし?」


 合鍵が? 勝手に作った物を持ち歩いていたのに今さらそんなに特別感を感じるかな?

 なんか、見た感じキーケースよりも合鍵の方が大事そうにされている気がする。どっちもあげたものだからいいんだけど何というか謎に複雑。

 でも、涼華の嬉しそうな顔が見れたことだしよしとしよう。

 さて、と。お支払いをして店を出ようか。


◆◆◆◆◆


 レストランの最寄り駅に来ると、涼華が駅へと歩いていく。


「私、明日朝からバイトがあるから今日は帰るね」

「そっか。クリスマスだってのに大変だな」

「ほんとよ。休み申請出しておけばよかった」


 俺はちゃんと休み申請を出しているからぐーたら過ごす。

 別れ際、柔らかい微笑みの表情を見せた涼華は後ろ手に手を組んでツリーを背に振り返った。


「本当に今日はありがとうね。楽しかった!」

「それならよかったよ」

「うん! 今年もあと少しだけど、また遊びに行こうね!」

「都合が合えばな」

「出かけるのが無理なら結翔の家に行くから。じゃっ、そういうことで~」


 手を振って改札の向こう、人混みの中に消えていく。

 さて、俺も帰ろうか。

 彼女に振られて最悪なクリスマスになると思ったけど。

 うん。こういうクリスマスも、悪くないな。

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