第11話 わちゃわちゃタイム

 なーんて、思っていた時期が俺にもありました。

 現在、ものの見事に二連敗。おかげでお昼に宅配でピザとデザートまで奢らされることが決定した。


「あははっ! 技変わってなくてよかった~」

「お前やったことないんじゃないのかよ!?」

「これはね。小学生の時に出たやつはめっちゃ遊んでたから」


 一試合目の残り三機から覚醒した理由はそれか! 一機目と二機目で操作の確認をしてやがったな。

 涼華が使っているのが、皆が知っている赤帽子のキャラ。シンプルで扱いやすいだけに癖が出にくく強い。

 で、俺が一試合目に紋章を巡るファンタジーゲームの主人公キャラ、二試合目に大剣を持った魔王キャラを選択した。これが俺の得意キャラだった。

 それがもうフルボッコにされてしまい、軽くへこむしかない。

 三試合目のキャラ選択場面で、涼華は変わらず赤帽子のキャラを選ぶ。


「さて、お次は誰かな~?」

「誰なら勝てるんだ……?」

「どれが来ても勝てないって。勝った方が言うこと聞かせられるって言ったけど、もし結翔が勝てたらエロいことさせてあげるわよ?」

「……ほぉ? 言ったな?」


 よほどの自信があるらしい。それならば確実に勝てるであろうキャラを使うのみ。

 涼華がやっていた時以降に出た俺の得意キャラ、片側にだけ翼のある太刀を持ったキャラを使えば勝てる。

 そう考えて挑んだ三試合目。結果は俺の読みが勝った。


「え、ちょっ、この技なに!?」

「なんか黒いのひっついた! これ……ぴやあぁぁぁぁぁ爆発した!」

「今なら近づけ……すごい爆発! 一撃!?」


 わちゃわちゃとした中、完封で涼華に勝利する。

 リザルト画面を見て唖然としている涼華に、手をわきわきと動かしてにじり寄る。


「さぁ涼華。約束、忘れてないよな?」

「へ? あ、あのさ結翔? まだお昼だしそういうことは……」

「エロいことするわけないだろ。ほら、鍵出せ。没収だ」


 俺の言葉に対し、涼華は目をぱちくりとさせて。


「やだ」

「は?」

「鍵は渡しませーん。取れるものなら取ってみな~」


 そんなことを言いながら鍵束を服の中に隠しやがった。

 苦労して手にした勝利でこんなことされちゃちょーっと許せないな。これは、しっかりと必要がありそうだ。

 ふふんと謎にどや顔の涼華を押し倒す。


「へ? 結翔?」

「いいからさっさと鍵を渡せおいッ!」

「ぴゃああぁぁぁぁぁ! 待って待ってどこ触ってるのよあっははははは!!」


 触れたらアウトの部分は避けつつ、服に手を差し込んで隠した鍵束を探す。

 涼華は生意気にも抵抗してきやがるが、それでもお構いなしにいく。勝者の正当な権利だからだ。

 というか、俺たち一応は大学生だよな? なんでこんな小学生同士のノリをやってるんだろう。

 いやでもこれは拒否した涼華が悪い。俺は決して悪くないぞ。

 抗う涼華からどうにか鍵束を奪い取り、俺の家の合鍵を抜き取る。部屋の主に無断でこんなもの作るんじゃない。相手が涼華じゃなければ即座に警察案件だぞ。

 鍵束を返してやると、むぅ~、とふくれ面の涼華がまた可愛い。


「鍵の一つや二つ見逃してくれたっていいじゃん」


 なんて言うが、そもそも彼女でもないのに鍵を持っていることがおかしくて……


「あ!」

「うわっ! 何よ?」

「瀬利奈から鍵を回収するの忘れてた……」

「はぁ!? あんたそれ私のよりも先に回収しておきなさいよ!」


 別れが急すぎて完全に抜け落ちていた。

 近いうちに瀬利奈から連絡があれば、その時に取り返そうと思っていると家の呼び鈴が鳴る。

 きっと頼んでいたピザだ。返事をして玄関扉を開けると、予想通りピザ屋のお兄さんが立っていた。

 代金を払ってお礼を言うと、ちょうどいいタイミングというか手が塞がっているから間が悪いというか、デザートのクレープをデリバリーで頼んでいたお兄さんも同時にやって来る。

 涼華を呼びつけ、先にピザを中に運び込んでもらってクレープも受け取った。

 寂しくなったお財布にため息を漏らして部屋に戻る。


「さて、と。お昼も来たし、映画でも見ながら食べる?」

「映画か。いいね」

「でしょ? あんたが好きそうなもの、選んできたんだからね」


 そう言った涼華が動画配信サイトの画面を見せてくる。

 なるほど確かに俺の好みをよく分かっている。銀河を舞台にしたハリウッドの超大作映画が映し出されていた。


「時間はまだまだあるし、どのエピソードからいく?」

「そりゃ最初から時系列順で見よう!」

「オッケー。帝国を倒した辺りで時間になりそうね」


 全画面表示にして並んでソファに座る。

 ピザに手を伸ばしながら、仲良く映画鑑賞といこうじゃないか。

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