第10話 いざ迎えたクリスマス
俺、松原結翔の朝は遅い。
休みの日になると、バイトの予定がなければ十時まで寝ていることはザラで、今日もその例に漏れない。
ベッドから起き、大きくあくびを漏らして背伸びをする。さすがにお腹が空いたと思い菓子パンを求めて隣の部屋へ。
「あ、ようやく起きたんだ。おはよう」
「おう、おはよう」
ソファでくつろいでいた涼華に挨拶をして、口をゆすいでからキッチンを漁る。
「あ、朝ごはん作っておいたから食べたら?」
「ん、ありがと。そうするよ」
「卵焼きとウィンナー、あとキャベツの千切りを皿に盛ってあるからご飯と一緒に。てか、あんたって普通に冷蔵庫の中充実してるんだね」
「こう見えて自炊するからな」
炊飯器から茶碗に白飯を移して食卓に着く。
涼華が用意してくれたおかずは美味しそうだった。塩胡椒で仕上げた黄金の卵焼きも見栄えが素晴らしいし、ウィンナーは店で出るような焼き目が食欲をそそる。
早速卵焼きを一口サイズに切り分けて食べてみる。適切なしょっぱさと卵の優しい甘みが絶妙に混ざり合い、胃への負担も少ない中でしっかりとした味わいと白飯を進ませる促進剤となっていた。
釣られてご飯を食べ、白米の良さをしっかり噛みしめてお茶で口内を潤す。
麦茶の冷たさがボーッとしていた頭をスッキリとさせてくれて……、
「って! なんで涼華が家にいるんだよ!?」
「え、これ」
「それは見たわ! だからその鍵渡せ! それとそういうことを聞いてるんじゃない!」
ひらひらと鍵束を手で弄んでいる涼華に対してツッコミを入れ、どうにかして合鍵を奪おうと狙うが隙がない。ちくしょう絶対にいつか没収してやる。
というか、なんでこんな朝から涼華が我が家に入り浸っているのかの理由をきちんと説明してほしい。
視線で圧力をかけ続けていると、観念したのかスマホを弄りながらではあるがカレンダーを指さしてくる。
「今日、何の日?」
「今日? あぁ、クリスマスイブか」
「そっ。で、夜の予定は?」
「涼華に高級レストランを奢らされる?」
「はい正解。そういうことよ」
「どういうことだよ」
どうして今晩一緒に食事に行くというのが家にいるという理由になると思ったのか。
なんか呆れたようにため息吐かれたのが気に入らない。
やれやれと肩をすくめてスマホをスリープモードにすると、上体を起こして今度は部屋の隅を指さした。
いつのまにかお高そうな服がハンガーに掛けられている。以前、涼華の家にお邪魔したときに同じものを見た覚えがあった。
「これを着た私が駅前で待っていました。はい、感想どうぞ」
「え? まぁ、綺麗だな。似合ってる」
「そういうところよ。待ち合わせしたとして、服装の洒落た感想も聞けそうにないと思って家に来たの。用事ないし、このまま今日は一緒に過ごしましょ」
「何気に酷いこと言うよな!? 服装を褒めることくらい俺にだってできるわ! 瀬利奈も嬉しそうにしてたぞ!?」
「お世辞って知ってる?」
反論できないのが腹立たしい。確かに今のは自分でも壊滅的センスの感想だなと思った。
用意された朝ごはんをさくっと食べ終え、食器を洗って乾燥機に。
そうしたら着替えるわけだけど……今からレストラン用のコーデというのもおかしな話だ。普段着でいいや。
パジャマを片付けてリビングルームに戻ってくると、涼華がゲーム機を手にしていた。
「スパスマあるじゃん。買ったの?」
「何度か家に来たのに知らなかったのか? 実家から持ってきたんだよ」
「へぇ~。ねぇ、お昼までこれで遊びましょうよ。勝った方が相手に言うこと聞かせられるって罰ゲーム付きで」
「ほぉ? 言ったな?」
涼華め、自分から墓穴を掘りやがった。
大乱闘スーパースマッシャーズ、略してスパスマは、うちの大学の学祭でeスポーツ同好会が大会を開いていた。その大会に飛び入り参加して、アマチュア部門で優勝するくらいには腕に自信がある。
涼華がゲームをしている場面など見たことないし、素人だろう。勝ちはもらった。
俺が勝ったら合鍵を没収しよう。許可なく作られた鍵ほど怖いものはないし、涼華だから悪用はしないだろうけどそれでも自由に家に出入りされるのは少し不安になる。
早速ゲーム機とパソコンを専用の端子で繋いで画面に映像を映し出す。
おなじみのキャラたちがそれぞれの技を使い暴れ回っているオープニング映像を冒頭だけ眺めた。
「なんかキャラ増えてるし。私、これやるの初めてなのよね」
「そうか。今のうちに罰ゲームに震えてるがいいさ」
「負けるつもりはないけどね。まぁ見てなさい」
自信満々に言うが、無駄なこと。
素人相手に本気でいくのは気が引けるが、ボコボコにしてやろう。
さぁ覚悟するんだ涼華! その合鍵は渡してもらう!
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