第6話 元カノからのメッセージ
涼華との飲み会が終わり、自分の家に帰ってきた。
荷物を適当に床に投げ、さっとお風呂掃除を済ませると浴槽にお湯を流す。もう遅い時間だが、シャワーじゃなくて入浴を求めるのは日本人の性か。
お湯が溜まるまでは暇なため、ベッドに寝転がりSNSを開く。
趣味が合いそうという理由や、友達だからとフォローした人たちの投降が一気に流れてきた。
『クリスマスツリーがとても綺麗!』。うん、ならツリーを見せてくれ。投降主と思しきカップルのツーショットが存在を主張していて、肝心のツリーはなんか後ろで光ってるな~くらいしか見えない。
『クリスマス目前のデートなのにプロポーズされちゃった! 嬉しい人生最高!』。それはおめでとうございます。こんなめでたい投稿にクソリプを送るんじゃないよどっかの誰かさんたちよ。
この時期の投稿はどこも似たようなものか。なんか腹立たしいから俺もマウントを取ることにする。
さっき涼華と食べた中華そばの写真を飯テロで投げてやった。羨ましいだろお前らよぉ。
投稿文は……『女友達と美味しいお店見つけた! これから通うことにする』っと。これでいいかな。友達じゃなくて女友達と強調することでマウントに繋がるという我ながらしょうもないことをした。
投稿から数秒でいいねがつく。このアイコンは……涼華だ。
「あいつ、もしかして俺のアカウントの通知をオンにしてるのか?」
笑いながら涼華のアカウントを覗くと、一緒に撮った中華そばの写真が載っていた。投稿から五分で既に100近いいいねが付いている。
この差は一体何なのか。俺の普段の飯テロには20とかそこらのいいねしか付かないのに。
涼華の投稿には、相手が彼氏なのかどういった関係なのか気にしているリプがたくさん付いていたけど、涼華は適当に流しているようだった。まぁ、仲良しの友達ってだけだし変な答えを流されると俺が思わぬ流れ弾を被弾してしまう。
笑ってタイムラインに戻り、すっとスクロールしていると途中で思わず指を止めてしまう。
『町が綺麗だね~。素敵なクリスマスシーズンだ!』。
ごくごく普通の内容。
でも、その投稿をしたアカウントのアイコンには見覚えがある。見覚えしかない。
それは、
プロフィール画面に飛ぶと、フォローするの表示が出ている。
「ブロ解……したのか。どうして?」
別れた直後はすべての繋がりをブロックされていたはず。どうして解除したのかは分からない。
けど、かといってもう一度フォローしようなんて気持ちには到底なれなかった。
『最ッ低! もう付き合えない二度と話しかけないで』
『信じてくれないのか? あんなことして信じられるわけないじゃない!』
『うるさい! この裏切り者!』
瀬利奈にぶつけられた容赦ない罵倒が思い返される。
過去の投稿を見ようとして、躊躇した。まだ受け入れられる心の準備は整っていない。
「あー、くそッ! やめやめ!」
いつまでもこんなことで頭を悩ませられない。これじゃ、励ましてくれた涼華になんだか申し訳ない気持ちになってくる。
瀬利奈のプロフィールから離れると、通知欄が大変なことになっていた。
「うおっ!? なんだなんだ!?」
慌てて確認すると、『リア充爆発しろ』だの『結婚おめでとう』だの『夜道に気をつけろよ……』だの謎のお祝いリプやら怖いリプやらが大量に届いていた。引用リツイートもいくつかある。
リア充爆発はマウントを取ると仲良しのフォロワーさんに茶化されるが、他はさっぱり分からない。というか、この人たち知らないし……待った。
いくつかのアカウントに見覚えがあり、もしやと思って涼華のアカウントに飛ぶと、俺が思ったとおり涼華が写真の引用リツイートで『隣は特別な関係の男子です!』なーんて投稿してやがった。そのせいで流れ弾に蜂の巣にされた訳か。つーか特定早くないか?
涼華の信者たちのアカウントが呪詛を送ってきやがったのか。こんな形で通知が止まらない事態になるとは思わなかった。
これ以上は電池の消耗が早くなるし、動作も重くなるからこの投稿に関する一切の通知を切らせてもらおう。
そう考え、通知を切るの表示を押そうとしたとき、新しく届いた通知に目を疑った。
「……え?」
リプが来るなどあり得ないと思っていたアカウント。
『いいね、美味しそう』
そんな短いリプの後に、瀬利奈のアカウントからフォローされたという通知が表示される。
「……わっけ分からねぇ……」
とりあえず通知を切って、瀬利奈の意味不明な行動に頭を悩ませてしまった。いや、単に俺が気にしすぎ考えすぎなだけなのかも。
とりあえずフォローバックは保留して、どんな風の吹き回しか考えて……。
『お風呂が、漏れ出しました』
「ちょぉーい!? それ、漏れる前に教えてくれるかなこのポンコツ機械!」
変に考えをこじらせる前で良かった。
絶妙に仕事をしないポンコツ機械に教えられて、着替えを脇に風呂場へと急ぐ。
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