第5話 お腹と心の至福の時間

「大将ちゅうもーん! 中華そばチャーシューましましで炒飯も付けて! あんたは何にする?」

「そうだなぁ……中華そば餃子セットで」

「おっけー。大将あと中華そばの餃子セットね! それとビールをジョッキで二つ!」

「あいよ。ちょっと待ってな」


 注文を聞いたお店の大将が厨房の奥へ引っ込んでいく。

 涼華が出されたお水を一気飲みし、ぷはぁとグラスを置いたタイミングで話を切り出してみた。


「で、ここが涼華さんオススメのお店ですか」

「そっ。去年にたまたま見つけて感動しちゃってさ! この店のチャーシューが本当に美味しいのよ!」


 夜ご飯をどうするか、という話になったら涼華に連れて来てもらったのがこのラーメン屋。涼華がスキップするほどのお気に入りの店らしい。

 俺も水を一口飲み、いまだにチャーシューの熱弁を続ける涼華にコップを置きながら返事をした。


「そうなのか」

「そうなのだ。あんたも、次来るときは私と同じセットがオススメよ。チャーシュー大量の中華そばと炒飯はマジで美味い」

「カロリーとか……」

「そんなの気にしたら負け! 人間三十を迎えるまでカロリーなんて気にしたらダメなのよ!」


 たまにダイエットがどうこうカロリー制限がどうこう言ってる人を大学内で見かけるが、その人たち全員を敵に回したぞ今……。

 まぁ、涼華は痩せ型だしそんなに言うほどカロリーの摂取について気にする必要がないのかもしれない。

 よく男子の理想と女子の理想体型は違うというが、涼華はその中間を男子の理想寄りの位置で見事にキープしているし涼華もそれを分かっているから極度に痩せようとしないのだろう。

 そして、中華そばよりも先にビールが並べられた。なみなみと注がれた小金色の上に山盛りの泡が乗っかっている。


「きたきた! 早速乾杯よ!」

「思えば、二日連続で飲んでるな」

「いいじゃない。付き合いなさいよ」


 涼華がジョッキを持ったから俺もそれに合わせてジョッキを手にする。

 軽くぶつけるとビールが危うく零れそうになったから慌ててジョッキに口を付けて一気に傾けた。

 清涼感のあるビールが喉を潤し疲れを一気に吹き飛ばしてくれる。苦味がコクとして楽しめこれを飲むために生きていると思えるほど美味い。


「くぅ~! これこれ最高!」

「ジョッキで一気にいくビールは最高だよ!」


 ジョッキで飲むとさらに美味しくなるビールの魔力にやられた。もうこれは一度味わうと虜になるね。

 続いて、俺の餃子だけが先に運ばれてくる。注文した中では一番ビールのお供に相応しいものだから嬉しい。

 一つ箸で掴んで口に放り込むと、肉汁とニラ、そしてニンニクの風味がブワッと飛びだしてきて正直全国展開している有名なチェーン店の餃子よりも美味しく感じた。

 横から涼華が箸を伸ばして餃子を一つかっさらっていく。

 あまりにも突然の動きで呆けていると、餃子を食べた涼華も同じように頬を押さえてうっとりとした表情を見せた。


「ん~! 美味しいわねこれも!」

「おい俺の餃子」

「ケチケチしたこと言わないでよ。私の奢りなんだし餃子の一つや全部いいじゃない」

「え、マジ? ごちそうさまです! それなら……いや待て全部はダメでしょ」


 顔を見合わせて吹き出し笑う。

 やっぱり合コンを追い出されて正解だったかも。この二人の時間が気楽で俺の性に合っている。

 そして、いよいよ中華そばと炒飯が運ばれてくる。

 豚骨スープの中華そばからは濃くて美味しそうな香りが漂ってくるし、炒飯の色も綺麗で俺もこっちにしておけばと思う。

 けど、餃子も捨てがたいから今の選択は正しかったとすぐに思い直した。

 炒飯を食べた涼華が満面の笑顔でジョッキを掴む。


「くっはー! やっぱり美味しい!」

「そんなに美味しいのか……!」

「ええ。食べてみる?」


 そう言い、一口分をすくったレンゲを差し出してくる。


「え、いやでもこれ」

「なに? もしかして間接キスとか気にしてるの? おこちゃまだな~」

「涼華が気にしないなら遠慮なく」


 差し出された炒飯を食べてみる。

 確かに涼華が勧めるだけあり美味しい。特にこのチャーシューが脂の乗りも良く、しっかり肉の味がガツンとくるのに重くはない。使っているタレも絶品だ。

 麺にも期待できると思い、よくスープと搦めてチャーシューと一緒に食べる。


「やばいわこれ。通いそう」

「でしょ? 紹介した私に感謝してね!」


 涼華も麺を気持ちよく啜っている。

 スープに口を付けると、涼華がジッと俺を見ていることに気が付いた。


「ん、どした?」

「いやー? ちょっとは元気になったなって」

「ははっ。いろんな人に気にしてもらえて、美味しいご飯まで奢ってもらえるとそりゃあな」

「良かった。こうして連れ回した甲斐もあったわ」

「あ、でもステーキは本当に良かったのか?」

「しつこいわね。私ね、三つ星レストランや有名なお店よりもあんたと食べるラーメンとか牛丼の方が好きよ」

「そっか。今度奢るよ」

「言質取った~! 絶対だからね!」


 はいはいと返事をしつつ、二人でビールのおかわりを注文する。

 運ばれてきたジョッキを受け取り、軽くぶつけて乾杯とした。

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