第10話
「由愛さん。起きなさい」
期限まであと28日。
目を覚ますと31が現れて立っていた。
膝から足の先に重みを感じる。彼は私の容態が悪くなって来ていると告げてきた。病室へ行くと、脈拍数が下がってきていた。
「急いだ方がいい。当てになれそうな人物はいるか?」
いるとしても両親や友人くらいだ。誰かの足音がした。中には入ってきたのは、里依紗だった。
私の顔を見つめているが、何か落ち着かない様子だ。
片手が震えているのをもう片方の手で押さえた。ひと息吐くと酸素マスクを外してボンベを閉じた。ベッドサイドモニタの音が鳴り出した時、彼女は咄嗟に部屋から出ていった。
数分後看護士が来て処置をするとモニタが正常値に整った。
「何であんな事を?」
「海東が仕組んだ。彼の指示でやったんだ」
「酷い。そこまでして狙っているなんて…圭吾さんを止める事はできないの?」
「僕らは手は出せない。だから早いうちに涙を集めてくれ」
「私、お姉さんの身体を借りる」
「どこへ?」
「里依紗に直接聞くわ」
高梨の家から出てきて歩道を歩いているお姉さんがいた。彼女の身体に入り、即座に里依紗に連絡をして待ち合わせることにした。
カフェに向かい、中へ入ると里依紗に挨拶をして椅子に座った。
「さっき病院に行ってきたの。そしたら由愛さんのマスクが外れていたのを看護士が気づいて処置したみたい。」
「何か、疑っている?」
「院内にいた人が貴方を見かけたの。病室で何があったの?」
「…苦しんでいる由愛が可哀想だと思った。このまま意識を取り戻せなかったら圭吾さんの約束を果たせないと思って…」
「約束?」
「彼と、結婚する事にしたの。お腹に子どもがいる」
「産むの?」
「ええ。だから早く片付けて全てを済ませたい。彼から由愛を
「お母様から聞いた。貴方達は親友だと…?」
「私、あんな怖い事したくなかった。由愛は大事な人よ。本当は彼女には目を覚ましてほしい。」
里依紗の目から涙が出てきた。立ち上がってハンカチを渡す素振りをして、箱を近づけると光が放った。
「…ごめんなさい。この事誰にも言わないで。圭吾さんと別れても産みたいくらいなの。この子を守りたい」
「貴方の思いは分かったわ。もし圭吾さんから何か命令されても由愛さんには手を出さないようにして」
店の外へ出てしばらく街並みに沿って歩いた。
自分の命と2つ目の涙はとどめる事はできた。しかし、圭吾の企みには怒りが鎮まらなかった。
自宅に帰る途中に高梨の家の前に辿り着いた。
2階の寝室の明かりがついていた。家から離れようとした時、高梨が私の姿に気づいて呼び止めた。
1階へ降りてきて、玄関が開き彼が中に入ってと声をかけた。
「飲み物を入れる。コーヒーでもいいかな?」
「はい」
リビングのソファで待っていると、マグカップをテーブルに置いて差し出した。
「君の仕事が早いから助かっている。俺も先方に設計図を渡したらOKをもらえたんだ。ひと段落ついたよ」
「スムーズに進んで、良かったですね」
「あれから体調はどう?」
「大丈夫です。こないだ、粗末な部屋を見せてしまって申し訳なかったです」
「あの家は長いの?」
「数年は経ちます。前にいた所で家賃が滞納してしまって追い出されたんです。それで今の所に移ってきました」
「ちょっと相談があるんだが…」
「なんですか?」
「この家に空き部屋がいくつかある。だから、君が良ければここに…住んでもいいよ」
「え?」
高梨のスマートフォンが鳴り電話に出た。
男の人の声が漏れてくる。あと十数分でこちらに向かってくるみたいだ。
しばらく待っているとインターホンが鳴り高梨が出迎えて誰かが入ってきた。
「貴方、由愛の友人の?」
圭吾だった。私は目を丸くして驚いた。
「紹介する。圭吾さんは俺の大学院時代の先輩なんだ。2人とも知り合いだったんだね」
「ああ。家政婦さんって貴方だったんですね」
「ええ。まぁ…」
私は彼を睨んだ。彼も何かに気付いたのか、目を合わそうとしなかった。
「航大にうちの上役から設計の依頼が出てきたんだ。…これ書類。どう、引き取る事はできそうか?」
「他の依頼もあるから、検討させてください」
「それにしても、だいぶ片付けていて良いな。吉住さんに俺の所も頼みたいくらいだ」
「圭吾さん、申し訳ない。これから外出するので。明日以降に僕から連絡します」
「それじゃあ俺帰るよ。吉住さんも失礼しました」
圭吾が帰るのを見送り、高梨が先程の住み込みの件を検討していて欲しいと話した。
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