第9話

49日を終え31とともに岐路の部屋へ入り椅子に座ると、彼から質問を受けた。


「俗名を教えてください」

「早宮隆弘です」

「早宮さん、49日間のお勤めはいかがでしたか?」

「家族や友人はみんな僕が亡くなった事をとても悲しんでいました。改めて人して生きられた事に意味があったんだと実感できました」

「事故の犯人に対してはどうお考えですか?」

「許されません。その人は猶予がついたみたいですが、終身刑ではないと言ってました。」

「そのままにして彼の報いを受け入れた方が、貴方も天の世界へ召される。…同意書にサインをしてください」


「永遠に人間界に勤めを課せる方法も考えられますか?」


「できなくもないが、貴方の魂は永劫に彷徨い続ける判定が下される場合がある。何を望んでいる?」

「スケジューラーになる。」

「スケジューラーは相当な任務を課せられるぞ。人間の情や世俗にも触れてはいけないんだ。」

「魂は人間だった頃の情が持てない?」

「そうだ。」


「失礼する」


「今判定中だ。何があった?」

「上層界からの指令だ。その男性の魂は人間の情を持ち合わせてスケジューラーとして真っ当してもらう。」

「本当に?スケジューラーになれる?」

「そうなると、この者の魂が無の世界へ堕とされてしまうのでは?」

「いや、ならない。早宮さん、人間や生き物の魂たちの為に、スケジューラーとして任務を果たしてくれますか?」

「はい。僕に出来ることを全身全霊で努めていきます」

「今から貴方はナンバー158として下界との役目を見ていってください」


***

「頼むから命だけは奪わないでくれ」

「永遠の闇に葬る。それがお前の宿命さだめだ」


158の瞳が青く光り、背中から剣つるぎを抜き振り下ろすと、バイクのマフラーが荒く噴き、加速をつけて走り出した。

男は身体が崩れて伏せると、158が剣で斬りつけた。


そこへ31が現れて、手をかざして剣を取り上げた。


「邪魔するな!」

「もう十分だ。こんな真似をする為にスケジューラーになったのか?みっともないぞ」

「くっ。」

「止めろ!何だこの青い炎は?…刺したのか?」


31が男の前に立ち、炎を消した。


「済まない。貴方の命を削るところだった。忠告がある。また近いうちに他の者に狙われる可能性がある。くれぐれも気をつけるようにして」

「わ、分かった」


男はそこから腰が引けるように逃げ去った。


「158。上層界から呼ばれている。早く行きなさい」


158が姿を消した。31が地面に手をつけると、停止していた時系列空間が時を刻み出し、通行人や車体が動き始めた。


上層界の部屋では審判員らが158を囲んで審議をしていた。


「やはりこうなると思いましたよ。手荒な事はするなと口酸っぱく言いましたよね」

「こうなった以上はスケジューラーの称号が罰せられる。私は同じような事をしたとしても…あぁ身震いが止まらない」

「のうのうと言ってられるな。158。貴方は特異なケースでスケジューラーになった。先程の男性に怨念に近い情を抱き短命にしようと試みた。なぜそこまでしなければならなかった?」



「あれは怨念ではない。軽い仕返しだ。」

「任務から背いた行為だ。始末書だけでは済まない」

「審判長。この通知書が届いています」

「…158。運が良いと思いなさい。今は橘由愛の30日間の任務だけに没頭せよと通達が来た。その間にも暴走する真似はしないようにしなさい」

「ありがとうございます」


審判員達はどよめいていたが、158は引き続き私に協力をしてくれる事となった。

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