第6話
「いつになったら目を覚ましてくれるのかしら…」
「おばさん、由愛は必ず目覚めてくれるよ。何か反応してくれればいいのに。由愛、私達の声、聞こえているよね?」
友人は私の幼馴染み。彼女は近所に住んでる事もあり、よく家同士を行き来していた。高校が別になった事もあり、しばらくは疎遠になっていたが、事故の事を知り駆けつけてくれた。
「貴方達、昔はよく遊んでいたものだったわね。まさか、こんな事態になるなんて思いもよらなかった。由愛、貴方は皆んなに愛されている人よ。お願いだから、早く目を覚まして…」
すると、2人の頬から涙が伝っていた。
私は慌てて31に涙を取りたいと言ったが、魂の状態では見えていないから採取できないと告げられた。ここに何としてでもお姉さんを連れて来る方法はないだろうか。
自宅に戻るとお姉さんが夕食の支度をしていた。私は彼女の身体に移り、再び病院へ向かうと婚約者の圭吾の姿を見つけた。病室の中へ入っていくと、そのドアの背後から覗くように様子を見ていた。
「花束凄いな。由愛、君がこうなってから俺はずっと何かできる事はないだろうかと、毎日悩んでいる。皆んな待っているんだ。…頼むから目覚めてくれよ。」
彼の目から涙が流れていたので、機器のボタンを押して31を呼び出した。手を差し伸べようとしたその時、31は私の手首を握ってきた。
「若菜さん、僕の声が聞こえる?」
「ええ。何故聞こえるの?」
「彼に聞かれない為だ。それより、彼の流した涙は偽物だ」
「演技をしているって事?」
「そうだ。君の為に涙を流す人間ではない。だから近づくな」
「何の為に涙を流したのかな?」
「彼はどうやら出世欲が強いみたいだ。君がいなくなれば金も名誉も手に入れる考えがあるようだ」
「どこまでつきまとう気だろう。」
「君が目を覚ましてからでないと行動に移せないようだが…今こうしている間も、何か企みがあるかもしれない。気をつけろ」
「…失礼します」
「ああ。すみません、急にこのような顔を見せてしまって。貴方は?」
「はじめまして。橘さんの友人の吉住と言います。お見舞いに来ました」
「僕は由愛の婚約者の海東と言います」
「婚約者さん、ですか?」
「ええ。来月挙式を控えていたんですが…今回事故に遭いこのような状態になるなんて。本当に驚いてます」
あまり悲しんでいる素振りではなかった。31が彼の企みに気をつけろと言っていたが、何のことだろうか。圭吾は諸用があるので、由愛に声をかけてあげてほしいと言い、病室を後にした。その後にママが再び病室に来ていた。
「吉住さん?もしかして若菜さんかしら?」
「何故私の名前を?」
「貴方のお父様が製薬会社にお勤めになっていたでしょう?主人の会社と取引があってお世話になったの。…もうだいぶ前ね。お元気そうで何よりだわ」
31は事前に知っていて、お姉さんを選んだと言っていた。
「あの、由愛さん何か反応はありましたか?」
「全くない。呼吸は安定しているんだけどね。私達の声は聞こえているとは思う」
「2週間経ちましたか?」
「ええ。主治医も油断できない状態だから、覚悟はしていてほしいと言っていたわ。」
ママの顔色があまり良くない。
「由愛さん、お父様とお母様に早くウェディング姿を見せたいって言っていました。友人達にもたくさん来て欲しいって待ち侘びていますし」
「実家から離れるのは寂しいけど、この子が自立したいって言い出した時、とても嬉しかった。圭吾さんも頼もしい方ですし」
「愛されているんですね」
「退院ができたら若菜さんも挙式に参加してくださる?」
「ええ。是非」
「由愛、たくさんの方に祝福してもらえそうで良かったわね…皆んな、貴方の声が聞きたいのよ…」
ママが目に涙を浮かべていた。
予め31からもらった涙を入れる箱を頬に近づけると、箱が光を放ち1粒の涙が入った。
ママにティッシュを渡すと目を拭いていた。
すると31が現れて頷いてくれた。
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