第4話

コンビニエンスストアの中にすり抜けて入ると、お姉さんがレジに立っていた。

店頭には1人の客ともう1人店員がいた。


「523円のお釣りです。…ありがとうございました」


接客をするにもあの低いテンションのままなのか。この遅い時間に女性が働いているなんて、もう少し待遇を良くしたらいいのにな。


深夜24時。退勤の時間になると、彼女は店員に挨拶をして、店を出てきた。

彼女の後ろについて一緒に歩いて行き、自宅に着いて彼女が部屋着に着替えると、売れ残りの弁当を食べていた。


深夜2時。彼女が眠りにつくと、私も隣に寄りそうように眠った。


数日後、私は彼女の身体に移り、同級生だと言う家の前に来てみた。門の前に何かの張り紙が貼ってある。


「家政婦募集?」


もしお姉さんがこの家にいる同級生に会いたがっているのなら、一度顔を合わせるのもいいかもしれない。インターホンを押してしばらく待っていると、中から男性が出てきた。


「もしかして、吉住か?」

「え?」

「覚えてない?大学の同期だった、高梨だ。中へどうぞ」


玄関に案内されてリビングを抜けて、彼の書斎に入った。名刺を渡された。


高梨航大。一級建築士か。


「今は何の仕事を?」

「近くのコンビニで働いています」

「どうしてうちの家政婦の仕事に就きたいと考えているの?」

「もう少し時給や手当の良い場所で働きたいと思っていた時に、高梨さんの募集の張り紙を見つけました」

「そうか。なかなか決まらなくて困っていたんだ。ここには俺1人しか住んでいなくてね」

「ご家族は?」

「元気だよ。弟が近くに住んでいる」

「雇ってもらう事は大丈夫そうですか?」

「ああ。せっかく久々に会えたんだし、これも何かの縁かもしれない。来週から来れそう?」

「はい。よろしくお願いします。」


自宅に帰って本棚や引き出しから、大学時代に扱っていたものがないか探してみた。すると色紙やアルバムが出てきた。写真を見ていくと、確かにお姉さんと高梨が写っているものがいくつか載っていた。


高梨も久しぶりに顔を合わせて嬉しそうだったし、彼女にとって良い機会になりそうだ。


「余計なことをするなと言っただろう」


「31さん。だってお姉さん、会いたがっていた様子だから、良い機会だと思って…」

「他人の運命を変えることが君のミッションではないぞ。本来なら強制的に止めさせないといけないんだが…まぁ様子を見るしかないな。」

「また何か知っている事でもあるの?」

「意外と勘が良いな。とりあえず、来週出向いて働きながらミッションを続けてくれ」


31が姿を消すと、私も彼女の身体から出た。


「…なんか、身体が重たい。時間、もうこんな時間だ。支度しないと」


そう呟きながら彼女は職場へと向かった。

そうだ、今週で辞める事を伝えるんだ。

私は彼女の後をついてきて、コンビニエンスストアの更衣室にいる時に身体の中に入って、控え室にいた店長に辞める事を伝えた。


再び彼女の身体から出て自宅に戻ると、158が腕を組んで待ち構えていた。


「君も大胆な事をするね。」

「女の勘じゃないけど、なんかあの2人何かありそうなの」

「…俺、君の事気に入りそうだ。」

「え?」

「今ごろお姉さんがパニックになっているようだが?見に行く?」


158に連れられて再びコンビニに見に行くと、お姉さんと店長が揉めていた。


「私が辞めるって、本当に言ったんですか?」

「ああ聞いたよ。同級生で建築士の高梨さん?彼の元で家政婦の仕事に就くと言ったじゃないか。もしやふざけているのか?」


「どうします?相当パニックになってますよ。由愛さんがあんな事しなければ、こんな事にならなかったのにね?」

「どうしよう。お願い、あの店長さんを分からせてほしい。」

「仕方ないな。ここで待っていて」


158は片手の指を鳴らして、時間を止めた。店長の手を握ると、一旦時間が動き出した。


「お客さん?ですか?」

「ええ。吉住若菜の同級生の高梨と言います。こちらの手紙を読んでください」

「…あぁ、そうですか。是非引き取りたいと…わかりました。」

「彼女も宥めるようにお伝えください」


再び手を鳴らし、時計が動き出した。店長は手紙に書いてあった事情を理解した上で、お姉さんに説明すると彼女も多少は納得したようだ。


「渡した手紙って、何て書いてあったの?」

「僕が書いた言い訳文だ。全く、人使いの荒い事をして。あと40日だぞ。呑気にしていられませんからね」

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