第3話
アパートに帰り、居間に上がってしゃがみ込んだ。私はとめどなく涙が溢れてきて、声を出しながら泣いた。
自分がこのような姿で会っていることに悲観的に陥ってしまっている。
「随分泣く人だな。そんな可愛い顔しているのに、勿体ない」
目の前に別の黒づくめの男性が立っていた。
「貴方は誰?」
「はい、ハンカチ。あまり泣くとお姉さんにも失礼だ。」
「ありがとう。もしかして貴方もスケジューラーさん?」
「ええ。申し遅れました、僕はスケジューラーのナンバー158です。31が他の人を見ている間、僕がサブとして貴方につきます。よろしくお願いします。」
ナンバー158。31よりもやや小柄な背丈の男性だ。
「ところで、ちょっと気になる事があってね。一緒についてきてほしい」
「どこへ?」
「まず、若菜さんの身体から離れてくれ。病院に向かう」
「病院?さっき行ってきたばかりなのに…」
「見てもらいたいものがある。君の目で確かめてほしい」
158は両手を握ってきてと言われたので、手を繋いで目を瞑った。
その直後、目を開けると病室の中に入っていた。婚約者の圭吾がいる。もう1人ある女性がいた。親友の里依紗だ。
2人とも見舞いにでもきたのだろうか。
「まさか、上手くいくと思っていなかったわ。貴方の言う通りに物事が進みそうね」
「まだ分からないが、このまま亡くなってくれれば、彼女の遺産の一部が俺の元に入ってくる」
一体何の話をしているのだろうか。遺産が彼の元に…パパはこの人に何かを契約でもしたのだろうか。
「残念だが、彼は財産目当てで君と婚約したんだ。金を手に入れれば隣にいる君の親友と一緒になるとの事だ」
「そんな!そんな事、酷い。その目的で私と婚約したなんて、信じられない。ねぇ、どうにかして止める事はできないの?」
「君のミッションが達すれば全ては変わる。ただし、君への財産争奪する事には変わりはない」
「そんな人だと思わないで付き合っていた。じゃあ私と一緒になる事は全て財産目当てだったのね」
「これから事故現場に行く。ついてこれるか?」
「ええ」
再び手を繋いで目を開けると、当時の信号機のある交差点の前に来ていた。
「検証を行う。…向こうの走行車を見て。」
振り向いた先から加速をつけて一台の乗用車がこちらに向かってきた。私が渡ろうとした瞬間に勢いよく身体が当たり道路脇に横たわった。
横転した車に近づいて運転席のドアを開けてみると、見たことのある人物が頭から血を流して意識を失っていた。
「この人、パパの会社の役員の人よ。どうして私を
「全て君の婚約者の海東から命じられて君を狙った。彼は即死だ。…魂が出てきた。」
役員の身体から魂が出てきて、彼も自分の姿を見て喪失した表情を浮かべていた。
すると、別の黒づくめの人物が彼と共にどこかへ消えてしまった。
「宿命で亡くなった人間は魂が出て行くと、あのように岐路の部屋へと導かれる。」
「岐路の部屋?」
「人間界で俗に言われる、天か地獄の行き先を決められる場所だ」
「私もミッションが失敗したら、行く場所なの?」
「あり得るね。まずは何としてでも本物の涙を集める事だ」
「158。ご苦労だったな」
「来るのが遅いよ。難航したようだな。」
「31さん。158さんが話した事は本当なの?」
「ああ。婚約者の素性が分かったところで、48日以内に実行してもらうよ。これで、実感できたかな?」
「はい。何としてでも涙を集めるわ」
「では、僕はこれで。またね、由愛さん」
「158のやつ、君に変に手を出そうとしなかったか?」
「それはないわ」
「時々羽目を外すところがあるから、気をつけるようにしてくれ。…何か質問でもある顔だな。何?」
「お姉さんの知り合いなのかな。一緒に見てもらいたいの。来てくれる?」
あの一戸建ての家の前に着いた。辺りが暗くなってきて、家の中から灯りがついていた。
「彼女の同級生のようだな。」
「同級生?お姉さん、どうしてここを眺めていたのかな?」
「知らなくてもいいだろう。今日は自宅に帰りなさい」
「何か知っている?」
「余計なことは知らなくていい。さぁ、帰りなさい」
渋々心残りがあるなか、私は彼女のアパートに帰ろうとした。
通りを歩いていると、コンビニエンスストアの前に着いた。お姉さんが店内にいた。
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