第2話

スケジューラー。ナンバー31と名乗る男性は私を連れてある場所に着いた。


古びたアパートの一室に入り、しばらく待っているとある女性がドアを開けて中に入ってきた。


「この人は?」

「これから48日の間、彼女の身体を借りて涙を集めてもらう。」

「このおばさん…いやお姉さんか。この人の中に入って行動しろって事?」

「ただし彼女の体力にも限度があるから、ある一定の時間が来たら身体から出てもらう」


部屋の中を見渡してみた。あまり物は置いてなく、かなり質素な暮らしをしている人だという印象だ。


なんだか、さびしそうな雰囲気だ。


家族はいないのかしら。彼女は疲れた顔して、布団を敷き、明かりをつけたまますぐに眠ってしまった。


「取り敢えず今日はここにいろ。この人が起きたら、身体に入るんだ。」

「この人の名前は?」

「吉住若菜。30歳だ」

「選んだ理由は?」

「彼女はここから近くのコンビニエンスストアで働いている。主にこの時間帯に帰宅するから、日中はほとんど出歩かない。丁度良いと思い選んだ。」

「朝起きたら中に入ればいいのね」

「君にこれを渡しておく」

「何?スマホ?」

「何か危険を感じた時にそこに表示してされているボタンを押してくれ。すぐに駆けつける」

「分かったわ」


そう言うと31は姿を消した。


私はしゃがみながら女性の寝顔を見ていた。手渡された機器を持ち、試しに来てくれるのかボタンを押してみた。


「何かあったか?」

「本当だ。すぐに来てくれるのね」

「全く。遊びじゃないんだ。僕も他の任務がある。余計に呼び出すのはやめてほしい」

「ごめんなさい。私も眠るわ。おやすみなさい」


再び彼は姿を消した。畳の上に横たわって私は眠りについた。


翌朝、目を覚ますと隣に眠っていた彼女が既に起きていた。どこかに出掛けるようだ。後をついていこう。


しばらく追いかけていくと、誰かの家の前に立ち止まった。モデルハウスのような大きな一戸建ての家だ。この人の知り合いの家なのだろうか。彼女は物憂げな表情をしながら見つめた後、再び歩き出した。


大通りに出ると向かった先はスーパーだった。

いくつか食材などを買って、店から出てきて、同じ道を歩いて行った。自宅に着いて冷蔵庫の中に買い出しの物を入れた後、畳の上に座り込んだ。


ずっと浮かない顔をしている。

もしかしたら過去に何かあったのだろうか。


そうだ、彼女の身体を借りるんだ。


私は胸を手を当てて深呼吸したあと、身体に移り込んだ。


「…凄い。中に入れた。鏡は…このお姉さんだ。そうだ、病院に行かなきゃ」


私は彼女のバッグを持ち、病院へと向かった。病室に着くと、誰も来ていなかった。昏睡している自分の身体を見て胸が締め付けられた。

手を握りしめて顔を眺めていると、ドアを叩く音がした。


「貴方はどちら様ですか?」


ママだ。看病に来てくれたのだろう。


「私、由愛ゆあさんの友達の吉住若菜と言います。事故に遭ったと聞いたので、お見舞いに来ました。」

「それはありがとう。まだ娘は目が覚めない状態なので、話しかける程度なら会話しても良いわよ」

「はい。あの、お母様は体調はいかがですか?」

「何とか持ち堪えているわ。今回の事でショックがあるから、これからどうなるかわからないのよ」

「意識が戻ると良いですね」

「彼女を信じているわ」


ママ。私はここにもいるのに、抱きしめる事もできないなんて悲しいよ。

誰かの足音が聞こえてきた。ドアが開くと、婚約者の彼氏が青ざめた表情で中に入ってきた。


「由愛の意識は?」

「まだ戻らないの」

「そうか。…どうして、こんな事に…?」


海東圭吾。私のパパが代表を務める会社の役員で、紹介された事がきっかけで婚約することとなっている。


皆んな、私の為に辛そうな表情をしている。


「私、今日は失礼します。また来ても良いですか?」

「ええ。良かったら貴方の連絡先を聞いてもいいかしら?」

「はい。…携帯、番号はこれです」

「…ありがとう。お気をつけてお帰りください」

「失礼します」


ママ、圭吾さん。私はここにいるのに、何も言えないなんて辛いよ。


でも、掟を破ったら、命が短くなるかもしれない。早く涙を集めないと。

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