第40話 矮小なる悪徳貴族の末路
リオは手にした大剣を背に戻す。
「ふぅ」
それから、一仕事終えたと言わんばかりに息を吐いた。
その仕草から読み取れるように、彼女は一仕事終えたところであった。
与えられた仕事を全うしたのである。
しかし、彼女の雇い主であるバハには理解できなかった。
何故、リオは同僚である二人の騎士を殺したのか。
殺した上で、何故そのようにやり切ったような表情をしているのか。
バハには何一つ分からなかった。
「フハハ! いい顔だ。マヌケ面を見せてくれる」
どこからともなく声が聞こえた。
この声はリオやバハのものではない。
少年の声であり、この場にそのような声を出す人物は見当たらなかった。
「俺だよ。俺が喋っているんだ」
「なっ・・・なんだと!? 」
またもや少年の声が発せられた時、バハは驚愕した。
驚くべきことに、リオによって倒された赤い龍がむくりと起き上がったのである。
そして、少年の声は赤い龍から発せられていた。
一体どういうことなのか。
その問いすらも口に出せず、バハは赤い龍を見上げて口をパクパク動かすのみ。
「良いリアクションだ。だが、そんな調子じゃあまともに話せないな。[怪人化]」
赤い龍の姿に異変が現れる。
徐々に体が小さくなっていくかと思えば、赤い龍を模した甲冑を纏う人の姿になった。
「これからどうだろうか? さっきの姿よりも話しやすくなっただろう? 」
そう言って、赤い龍の甲冑を纏う人物がバハの元へと歩み寄ってゆく。
ゆっくりと近づいて来るその赤き異形に対して、バハはただ体を震わせて見ているだけしかできなかった。
やがて、その赤き異形はバハの目の前にまで来ると、その歩みを止める。
近くにいたリオはいつの間にか跪いていた。
まるで、主君に仕える騎士のように。
「お、お前は一体何者なんだ・・・? 」
振るえる声でバハは、問いかける。
「・・・サタトロン。お前はバハだな? ようやく会えたな」
すると、赤き異形もといサタトロンは嬉しそうな声で、そう答えたのであった。
・
・
・
俺は目の前で、情けなく地面にへたり込む男を見下ろす。
この男がバハか。
ビショップの両親を殺害を企てた黒幕。
散々俺を振り回してくれた憎き敵。
そいつが今、俺の目の前にいる。
話に聞いたとおりの美形の青年だ。
だが、今は・・・ククッ、怯え切った表情で台無しになっている。
いい気味だ。
「ようやく・・・会えただと? 」
心の中でこいつをあざ笑っていたら、そんなことを言ってきた。
少々腹立たしいことに、俺がどれだけ会いたかったかを知らないようだ。
まあ、無理もないことか。
こっちの素性は知らないんだろうし、ビショップを助けた人物は彼女ごと死んだとデストロイヤーに報告されている。
誰?と思われるのは仕方のないことだ。
「お前が殺害した貴族。その娘はまだ生きているぞ」
だから、ここで知っておいてもらうとしよう。
自分がどれだけ愚かだったことも含めてな。
「な、バカな! 奴は、奴らは死んだと報告が・・・」
バハの言葉は唐突に途切れた。
「リ、リオ・・・」
彼はハッと何かに気づいたかのようにデストロイヤーを見ていた。
「お、お前、嘘をついていたのか・・・こいつに寝返っていたというのか。任務から帰ってきたときにはすでに・・・」
バハは悔しそうな顔をする。
ここで、デストロイヤーが嘘の報告をしたことに気づいたようだ。
そして、俺の味方になったことにも気づいたようだ。
そうだよ。
こいつはもうリオなんかではない。
俺の部下のデストロイヤーなんだよ。
「そうか! お前だな? アイブックスの娘の命を拾ったのは! 」
バハは、俺がビショップを助けた人物であることにも気づいたようだ。
説明の手間が省けて助かった。
「ああ、そうとも。それと大変だったぞ、色々と。同業者に命を狙われたり、やってきた騎士様に拉致られたり。お前なんかに関わってしまったばっかりに」
「ああ、それがどうした!? 俺は貴族! その中でも秀でた才能を持ち、いずれは大貴族になるこのバハ・ベイルの邪魔をしたんだ! 挙句の果てに、俺の出世がかかっている計画を・・・俺の騎士団を・・・死んで当然のことをお前はやらかしたんだよ! 」
声を張り上げて、俺のことを罵倒してくるバハ。
俺の正体を知って、何かしらのエンジンがかかったということだろうか。
しかし、この状況でこの態度は周りが見えていないにもほどがある。
「そうか、そうか。それで? 今、俺を殺すとでも? 」
「そうだ! 来い! 出てこい! 」
バハはキョロキョロと周りを見ながら、何者かを呼び続ける。
「えっ!? 」
やべ。
素で驚いてしまった。
ここまで追い詰めて、まだ味方がいるとは思わないじゃん。
なんだ? どこかに騎士がいるのだろうか?
そう思い、デストロイヤーに顔を向けてみる。
何か知ってる?
「そ、そんなものいないはずですわ」
すると、彼女はふるふると顔を横に振った。
その焦ったような素振りから、本当にいないのだろう。
じゃあ、こいつは一体誰を呼んでいるというのか。
「おい! 近くにいないのか!? お前が望む手ごわい相手がここにいるんだぞ! なあ、出て来いよ! 召使い! 」
「「えっ!? 」」
俺とデストロイヤーの驚愕の声が重なる。
バハが呼んでいたのは、まさかの召使い。
奴は俺が倒し、すでに死んでいる。
いくら呼んでも来るはずはない。
それなのになんで召使い?
と思ったが、ひょっとしたら召使いが殺害された報告も嘘だと思っているのかもしれない。
はたまた、召使いが死んだという報告を信じていないのかもしれない。
どちらにせよ、死人に頼るとか無様すぎて見ていられなくなってきた。
というか、自分の都合の良いことが起こると疑いもなく思い込んでいるように見えてきた。
なんかムカついてきた。
「うるせぇ! 来ねぇよ、バーカ! 」
[怪人武装]により、銃に変形した右腕から光線を撃ちだす。
狙いはバハの右腕。
少しお灸をすえてやろうと思ったのだ。
光線は真っすぐ伸び、地面に命中。
手加減の無い威力で放ったものだから、命中した地面にはサッカーボールがちょうど埋まりそうなくらいの穴ができあがる。
「ひいっ! 」
バハが悲鳴を上げる。
だが、奴の右腕は健在。
それどころか無傷。
う、うわあああああああ!! 外しちゃったよ!
相手は見るからに戦闘の経験の無いド素人。
そんなやつに、この至近距離で外すとか・・・
「・・・総帥様? 」
なにしてんの?
と言わんばかりの不思議そうな目で、俺を見てくるデストロイヤー。
や、やばい!
これでは総帥としての威厳が死ぬ!
そ、そうだ!
「・・・今のは軽いお遊びだ。次は当てる」
わざと外したことにしよう。
「なるほど」
デストロイヤーは納得したようだ。
セーフ。
「ひ、ひいいいいいいっ! 」
心の中で一息ついていた中、バハが手足をばたつかせて俺から離れてゆく。
立てないんだろうか?
這って動くさまは、まさしくゴキブリのようだった。
「この化け物め! 召使いも何故出てこない! どいつもこいつも俺の邪魔ばかり! 」
そう喚くとバハは、スッと立ち上がった。
なんだよ、立てるじゃん。
そして、奴の手には何かが握られていた。
形からして小瓶。
いや、香水入れか?
それは彼の手に二つあり、二つ共にキャップが外される。
香水入れからモクモクと紫色の煙が噴き出される。
紫色の煙は、小さい小瓶には収まらないほど大きく広がっていく。
煙幕か?
そう思い、バハを注視していたが特に逃げるといった動作は見られない。
やがて、紫色の煙は徐々に薄くなってゆき、そこに先ほどまでいなかった存在が姿を現す。
「ハ、ハハハ! 俺にはまだ力が残っているんだよ! 」
勝ち誇ったかのように声を上げるバハ。
現れたのは二体の魔物。
どうやらバハは、魔物を召喚したらしい。
「なるほどね」
そのことに対して俺は驚くこともなく、ただ納得した。
魔物を使役する術。
召使いが言っていたのは、このことのようだ。
方法は分からないが香水入れのような道具に魔物を封印。
封印から解き放つことで、魔物を使役できるようだ。
現れた魔物が暴れることなく、まるで指示を待っているかのようにじっとしていることからそうなのだろう。
何度か俺もこの辺では見られない魔物に襲われたが、その時もこの道具が使われたに違いない。
そして、現れた魔物だが二体共にベアウルフ。
でかい熊みたいな狼の姿をした魔物だ。
正直な感想と言うとガッカリだ。
だいたい使役されていた魔物はこの辺にはいないし、レアな因子を持つ魔物ばかりだった。
それが今目の前にいるベアウルフは、普通にこの辺にいるしレア因子は持っていない。
はっきり言って、何の旨味の無い雑魚だ。
さて、どうしたものか。
「俺はなぁ! 魔物を使役することが出来るんだよ! 」
ベアウルフが大したことのない魔物であることを知らないのか、バハは勝ち誇っている。
サクッと倒してしまうのは気の毒だろうか。
ちょっと苦戦するふりをして、バハが最高に盛り上がったところで倒した方がいいかな?
「総帥様、あのような雑魚。ワタシにお任せを」
悩んでいると、俺の前にデストロイヤーが立った。
背に担いだ大剣を手にしており、いつでも戦えるようにしている。
お、頼もしいな。
どうしようかな?
俺が相手をするまでもないと任せてしまおうか。
「さあ、やれ魔物共! あいつらを八つ裂きにしろ! 」
バハが二体のベアウルフに指示を出した。
もうちょっと悩みたかったが、流石に向こうは待ってはくれないよな。
仕方がない。
もうデストロイヤーに任せてしまうか。
そう決めたのだが、
「・・・いや、いい。成り行きに任せるとしよう」
やっぱりやめた。
「承知」
俺の言葉の意図を理解したのか、デストロイヤーは大剣から手を離す。
「グオオオオオ!! 」
二体のベアウルフが雄たけびを上げる。
バハの指示を受け、俺達に攻撃を仕掛けようというのだろう。
今にも飛びかかろうというその時、ドシンと大きな音が周囲に響き渡る。
地震のような大きな地響きも発生した。
空から何かが高速で降ってきた。
ひょっとしたら、バハにはそう見えていたのかもしれない。
「な、なんだ!? くそっ! どうなっている!? 」
いや、見えてなかったようだ。
しかし、実際に空から降ってきたのは事実。
なかなかの重量と速度で落下しており、激突した地面は割れ、周囲に砂煙が舞い上がる。
「やったのか!? おい! 魔物共! どうなっている!? 」
なおもバハの喚き声が聞こえてくる。
今は、舞い上がった砂煙が周囲に漂っており、視界が悪い状況だ。
ちなみに、俺も砂煙で周りが見えない。
だが、何が起きたかは分かっている。
デストロイヤーも分かっていることだろう。
この場において、バハだけが状況を理解していなかった。
やがて、砂煙が晴れると二体のベアウルフは死んでいた。
二体とも血溜まりの上で、ぐったりと倒れ伏していた。
「あ・・・あ・・・」
バハは驚きで声もまともに出せないようだ。
今日で何回この顔を見ただろうか。
流石に飽きてきた。
それで、バハは何に驚いたかといえば、ベアウフルが即死したことだろう。
いや、違うか。
確かにそのことにも驚いているのだろうが、今バハはベアウルフを見ていない。
奴の視線はその上。
二体のベアウルフをそれぞれ踏みつけている山羊の魔物と銀蝙蝠の魔物を奴は見ていた。
「バカ・・・な。俺の魔物をたった一撃で倒した・・・のか? 」
放心気味にそう呟いたバハ。
空から急降下し、その勢いでベアウルフを踏みつけて圧死させた。
そのことをようやく理解したようだ。
「そ、それに、その魔物共は町で暴れていた・・・ま、まさか・・・」
山羊の魔物と銀蝙蝠の魔物。
バハは、ビショップとバンディッドが俺の部下であることに気づいたようだ。
「ご苦労。良いところに来たな。それと悪いな。少し後ろで控えていてくれ」
その通りと言わんばかりに俺は、ビショップとバンディッドに指示を出す。
すると、二人は魔物の姿のままノシノシと歩き、俺の後ろに立つ。
デストロイヤーも俺の後ろへと下がってくれる。
よしよし、良い感じだ。
この立ち位置なら三人を俺が引き連れているように見えるだろう。
「な・・・」
そして、さっきまでの威勢はどこへやら。
バハは力なくその場にへたり込むと、放心した様子で俺を見上げる。
目の前に映るのは、強力で巨大な魔物と裏切った騎士を統べる異形。
騎士団を壊滅させ、自分を
そのように見えているだろうか。
体を震わせてパクパクと声を出そうにも声になっていない今の彼の状況を見るに、少なくとも恐怖しているのは間違いないだろう。
奴が何を言わんとしているか待っていると、
「・・・お、お前は・・・お前達はなんなんだ・・・」
と聞こえてきた。
このタイミングで、それを聞いてくるとはな。
いいよ、才能あるよ。
途中で退場する木っ端な悪役。
俺達という真の悪の組織の引き立て役のな。
さて、そこまで引き立てられたのなら名乗らなければいけないだろう。
その準備は出来ている。
[怪物化]して暴れているときに考えていたんだ。
「俺は・・・俺達は怪人結社サタトロン。世界征服を目論む悪の組織だ」
怪人結社サタトロン。
それが俺達の組織の名前だ。
「「「え!? 」」」
俺の後ろから驚いたような声が聞こえてきた。
あと、なんかソワソワしているような気配も感じる。
俺の口した組織名について何か言いたいことがあるのだろう。
自分の名前を組織名にした理由とか気になるんだろう。
気持ちは分かる。
すごく分かる。
だけど、それは後! 後だからな。
「怪人結社・・・世界征服・・・? 」
ぶつぶつと俺の口にした言葉を呟くバハ。
それから、俯いては体をプルプルと震わせる。
あまりにも恐ろしくて震えているのか。
それとも、他の連中のように俺の世界征服の野望をあざ笑うか。
どう反応しようが構わないが、あまり人を待たせてほしくはないな。
「・・・な」
「ん? なんだって? 」
なんか言った気がするが声が小さくて聞こえなかった。
「ふざけるな! ふざけるな! ふざけるなあああああああ!」
バハは声を荒げて叫び出した。
ビックリした。
あと、これは意外。
笑うでもなく恐怖するでもなく、まさか怒るとはな。
「世界征服だと!? 出来もしないことをほざくんじゃあない! この世界がどれだけ広いか知らないのか!? バカバカしい! そんなバカみたいなことを本気でやろうとしているのか!? そんなことのために、まだ現実味のある俺の野望を・・・大貴族になる目標をぶち壊したのか!? ふざけるなよ・・・ふざけるなよ下民風情があああああああ!! 」
バシバシと拳を地面に叩きつけながらバハは言う。
顔は真っ赤で、口調も今までになく荒い。
相当お怒りのようだ。
誠に心外ながら、俺がふざけて言ったのだと捉えられてしまったようだ。
「はあ・・・はぁ・・・」
言いたいことを全て吐き終えたのだろうか。
「おい! リオ! 」
いや、まだだった。
何を思ったのか急にバハは、デストロイヤーに話しかけてきた。
「・・・へ? 」
「ここで全部殺せ! そうしたら、全部許してやる! 俺の騎士団に正式に入団することも取り次いでやる! いいだろう? 俺の騎士団に入ることが夢だったもんな! お前! 」
何を言うかと思えば、デストロイヤーに俺達を殺すよう命令してきた。
なんで?
デストロイヤーはもう俺達の仲間だぜ?
それは理解していたように思えたのだが・・・
「え・・・いや、別に。もう興味ありませんわ! 」
当然の如く命令を拒否するデストロイヤー。
彼女の顔が引きつっているのも相まって、かなり嫌そうなのが伝わってくる。
「そうか! そうだよな! ずっと騎士団に入りたいって、俺に憧れてるって言ってたもんな! ハハハハハハハ! 」
「え? ちょっと・・・話が通じませんわ」
困惑した表情で、俺を見てくるデストロイヤー。
いや、俺に振られても困るんだが・・・
というか、意味不明を超えて怖い。
本当にバハの奴は錯乱しているようだ。
「リオ? 誰だ? ここにいるのは、俺の部下。デストロイヤーだ」という言って、お前の部下は俺が奪ってやったぜ宣言をしたかった。
したかったのだが、今言っても奴の心には全く響かないだろう。
あとビショップのこととか、もっと言ってやりたいことがあったのだがな。
仕方がない。
ここで終わりにしよう。
俺は[怪人武装]によって剣になった左腕を軽く振った後、バハの元へと歩き出す。
この左腕の剣でトドメを刺すつもりだ。
「そうさ! みんな俺に憧れてる! 俺のようになりたいと羨望の眼差しを向けてくる! 俺は人の上に立つべき選ばれた人間なんだ! 」
ゆっくりと近づいていく中、バハはなおを喋り続ける。
聞くに堪えないな。
今、そんなことを言ってどうにかなるとでも思っているのか。
いや、それを考えるのは無駄か。
奴は錯乱しているんだ。
真面目に聞くだけ損だ。
「ここで終わる人間じゃないんだ! そうだ! ここで終われないいいいいいい! 」
「なに? 」
あと一歩のところで、バハの目の前に辿り着く時。
奴は行動を起こした。
魔物を召喚する道具と同じように、何かを取り出したのである。
それは赤い球のようなもの。
「それはグウルの・・・」
バハは、その赤い球を自分の首筋に押し当てた。
赤い球は、人をグウル化させる道具。
つまり、自分をグウル化させるつもりなのだろう。
冗談じゃない。
「もう終わりだよ。お前は」
左腕をバハの胸に目掛けて振るう。
今の俺の左腕は剣そのもの。
奴の胸の肉を切り裂く感覚をじかに味わう。
確かにバハの胸の切り裂いてやったのだ。
「ハハハハハハハ! 」
だが、バハは笑っていた。
切り裂かれた胸には大きく広い傷ができ、大量の血がそこから噴き出しているにも関わらず。
「ハハハハハハハ! 」
体に力を入れることもままならなくなったのだろう。
笑い声を上げたながらも、バハは力なく倒れ伏した。
「ハハハ・・・ハ・・・」
それから、彼の笑い声は徐々に弱くなっていく。
「サタ・・・トロン・・・」
最後に俺の名を口にした後、バハは静かになった。
グウル化する気配もなく動かなくなった。
「・・・やっと、終わったか」
動かなくなったバハを見下ろす。
奴の顔には苦痛のようなものは感じられず、笑ったままの表情で固まっていた。
これが一国の大貴族になるだけのために、多くの人を巻き込み殺した男。
ちっぽけな野望すら叶わずに、現実から目を逸らし、最期は頭の中の理想の世界に逃げた哀れな人間の結末。
無様なものだ。
こうはなりたくないものだ。
「地獄でよく見ておくことだな。本当の悪の組織の生き様というものを」
唾を吐きかけるかの如く、そう吐き捨てると俺は歩き出す。
そう遠くない場所に行くつもりだ。
ビショップ、バンディッド、デストロイヤー。
この三人と別れる前に少し話しておきたいことがあるからだ。
大事な話になる予定だ。
それを話している間、バハが視界に映るところにいたくはないと思ったのだ。
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