第34話 激闘の末
召使いと名乗る男と戦闘してから、どれだけの時間が経ったのだろうか。
体感的にはかなりの時間が経ったように思える。
だが、まだ日が完全にひずみ切っていないところを見ると、それほど時間は経っていないようだ。
まだ俺は召使いの攻撃を防御するのみの防戦一方の状況。
召使いの攻撃を受け止め、一際強力なスキルは躱してここまでなんとかなっている。
時折、周囲を見回して他の戦闘の状況を確認する。
バンディッドは、前見たときと変わらず蟷螂の魔物と空で追いかけっこを継続中。
今すぐにでも援護に行きたいところだが、絶賛取込み中で助けにいく余裕はない。
申し訳ない。
ビショップはというと、グウルとなったリオもといリオグウルと戦闘中。
リオグウルは、骨の剣となった両腕をブンブン振り回してビショップに迫る。
対して、ビショップは[怪人武装]によって、巨大な角となった両腕でリオグウルの骨の剣をはじき返している。
なかなか攻めに転じていないようだが、俺の殺すなという命令を忠実に守っているのだろう。
嬉しいことだ。
だが、よく見るとビショップはイラついたような表情をしている。
リオグウルは、グウル化したこともあってか人間の頃より攻撃は単調になってがいるものの、体は頑丈でパワーもある。
[怪人化]したビショップの方が強いとは思うが、殺さないという制限があれば力は拮抗するようだ。
それが気に入らないと想像する。
恐らくは、本当は勝てるのに苦戦せざるおえない状況に苛立っているのだろう。
本当に申し訳ない。
それにしても、今のリオグウルは見るに堪えんな。
むき出しになった筋肉の
かつてのリオは、騎士というだけあって剣の一振りにも洗練されたものがあった。
それが今では、その片鱗すら見られない。
ヘッドスキンの時とは違って理性がないようだ。
斡旋所の男が引き連れていたグウルやヘッドスキンの部下共も、こんな感じだったが同じ部類なんだろうか。
予想するに、理性をなくす代わりに、その分身体能力が上がっているという感じか。
デメリットのような気がするが、無理やりこちらの言うこと聞かせられるかつ、捨て駒の扱いであれば特に気するようなことでもないか。
粗末なものだ。
グウル化したヘッドスキンとリオグウルを見て、グウルの底が見えてきたような気がする。
俺の[因子付与]の方が遥かに優れていると言えるだろう。
しかしだ。
粗末なものとはいえ、人を化け物に変えるなんてことは滅多なことではない。
魔物を使役する力もそうだ。
きっと、俺が本格的に組織を立ち上げた後に大きな障害になるに違いない。
今後の備えとして、この召使いとやらから多くの情報を得たいものだ。
そのためには、なんとしてでもこの戦いを制さねば。
・
・
・
戦いはまだ続いている。
状況は以前と変わらず、俺が召使いに押されている状況だ。
つまりは、状況を覆そうにもその機会に恵まれない状態が続いているということ。
これは良くないことだ。
何故かと言えば、俺の体力がそろそろヤバくなってきたからだ。
そろそろこちらから動かないと体力が尽きて一気に押されてしまう。
見れば、召使いのやつは疲れたなんて素振りは見られない。
クッソ重そうな大剣を片手でブンブン振り回しているのに。
化け物か?
そういえば、もう片方の手は一向に出さないのな。
黒い外套の中にあるんだろうが、一度も見たことが無い。
何故使わないのか。
大剣も両手で振れば強いだろうに。
意図的に使わないようにしているのか。
あ、あれ?
そんなことを考えていると、召使いの攻撃が緩くなってきた。
大剣の振りが若干遅くなり、威力も下がっているように感じる。
疲れてきちゃった感じなんだろうか。
いや、それともこちらが動くのを誘っているのか。
いやいや、時間が無いんだ。
もうどちらでもいい。
出たとこ勝負で決めるしかない。
ここから俺もスキルを使う。
[大打撃]以外は、実戦で使ったことはないが暇な時にどういうものかは詳細を確認しているし、実際に使って挙動も見ている。
出たとこ勝負とは思ったが、多少はマシなはずだ。
「[怪人武装]」
召使いの大剣を弾いた瞬間に、スキル[怪人武装]を使う。
このスキルは[怪人化]の状態のみ使用可能なスキルで、体の一部を武器に変化させるもの。
因子ごとに変わるようで、地龍怪人の場合は腕が武器に変形する。
左右それぞれで武器が違うようで、まず左は腕ごと剣のような武器になる。
西洋の剣のように両側に刃があり、切っ先は[怪人武装]前の時の左手よりも先にあり、普段よりもリーチがある。
右手は、左手と同じように腕ごと武器になっている。
普段の腕よりも一回り大きくなっており、筒状になっているのか先端部分には穴が開いている。
その形状は一見して、鈍器か盾に見えなくもないだろう。
「くらえ! 」
今、召使いは大剣を持った腕を弾かれて、正面はガラ空き。
胸を突き刺してやろうと、俺は左腕の剣を真っすぐに突き出す。
「甘い甘い! 」
結論から言うと攻撃は当たらなかった。
召使いが後ろへと跳んだことにより、俺の刺突は届かなった。
だが、それは想定内のこと。
「[クリムゾンパイル]」
すぐに追撃のスキルを使用する。
スキル[クリムゾンパイル]は、地面を隆起させて敵を攻撃するというもの。
範囲は俺を中心にして十メートルくらいで、高く空を飛んでいる相手には当たらない制約があるが威力には期待できる。
スキル使用直後、召使いの左右両側のそれぞれ地面が赤くなり、先端が尖った岩が隆起し、召使いを挟むように串刺しにかかる。
召使いは跳んでいる最中で、まともに身動きは取れないはず。
「ほう! 驚きましたが、まだまだ! 」
だが、これも通じなかった。
召使いは空中で横向きに回転しつつ、大剣を振り回して隆起した岩を粉砕した。
マジかよ。
[クリムゾンパイル]で決めるはずだったので、これは誤算だ。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。
「うおおおおおお!! 」
俺は雄叫びを上げて自分に気合を入れつつ、召使いの元へと走り出す。
[クリムゾンパイル]では仕留めきれなかったが、召使いの動きを止めることが出来た。
あとは、攻撃を当てればいいのだ。
「これで! 」
「終わるのはあなたです。[一刀両断撃]」
俺が左腕の剣を突き刺しにかかろうとした時、召使いは体の向きをこちらに向けて地面に着地していた。
そして、大剣を高く振り上げていた。
どちらの攻撃が先かという状況なのだが、どちらにせよあの大剣は振り下ろされる。
[一刀両断撃]というスキルがどのようなものかは知らないが強力なスキルであるに違いない。
まともに受ければ、恐らく死ぬことになるだろう。
悔しいことに、この一瞬の俺の選択は一つに絞られる。
俺は左腕の剣を頭上に掲げて、大剣を防御することにする。
「クククッ! 」
俺の防御する姿を見てか、召使いの小さく笑う声が聞こえてきた。
ただが、だたの剣で防御するだけでは防げないというのだろう。
そんなことは百も承知。
「[ロックプロテクション]」
召使いのスキルを防ぐため、俺はさらにスキルを使用する。
スキル[ロックプロテクション]は、半透明の薄い岩石の壁を対象を包み込むように球体状に展開するというスキルだ。
いわばバリアを張るスキルである。
半透明の薄い岩石の壁ということで一見して脆そうに見えるが、並みの攻撃ではビクともしない頑丈さを持っている。
最初からこれを使っていれば良かったじゃん。
と他の連中は思うのだろうが、長時間の使用は消耗する。
けっこう消耗してしまうのだ。
ちなみに、自分以外にも使用することが出来るので、味方がピンチになったときにも使える代物だ。
さらに、重ね掛けすることも出来るようで、
「[ロックプロテクション]、[ロックプロテクション]」
今回、三枚掛けした。
[一刀両断撃]という名前から、超強そうなスキルだと不安になったのだ。
程なく大剣は振り下ろされ、その巨大な鉄の刃が一枚目の岩石の壁に接触する。
「ぐうっ! 」
直接触れてはいないものの、大剣と岩石の壁がぶつかった衝撃がこちらにも伝わってきた。
ビリッと静電気でも発生したような感覚だ。
それで防げたかというと、ダメだった。
パリーンとガラスが割れるような音と共に、一枚目の岩石の壁は弾け飛ぶ。
次に二枚目。
これも一枚目と同様に砕かれてしまった。
最後の三枚目。
少し受け止めたみたいだが、これも例外なくはじけ飛んでしまう。
お、おい!? 嘘だろ!?
「ぐうおおお! 」
そして、岩石の壁がなくなったということで、左腕の剣で受け止めた。
ビリビリと体中に振り下ろされた大剣の衝撃が走る。
体がバラバラになりそうだ。
大型トラックに轢かれたときも、そんな感じになると聞くがそれが上から降ってくるようなものだろう。
防げなかったとはいえ、[ロックプロテクション]で威力は落ちているはずだ。
それでもこのダメージ。
気を抜けば、いつでも膝から崩れそうになる。
だが、俺は耐えた。
耐えたのだから、反撃しなければならない。
「うおおおおおおお!! 」
今、召使いとは至近距離。
その脇腹にダメージを与えようと、右腕を大きく振り回す。
俺の渾身の一撃。
「おっと」
だが、その一撃は当たらなかった。
召使いの片手――右手は大剣を手にしたまま。
ここまで姿を見せなかったが左手が俺の右手の武器を受け止めたのだ。
「流石です。このわたくしめの左手を使わせるなど。いやはや、あなたはお強い。ここにわたくしめが来て良かった。でなければ、あなたはもっと強くなっていた」
うるせぇ。
そう心の中で呟きつつ、右腕に力を入れて召使いの左腕を押し続ける。
「せめてもの賛辞を・・・ということで、わたくしめの最強のスキル。[リベンジャー]でトドメを・・・と何をしているのです? 」
召使いは、もう勝った気でいるのだろう。
今口にした[リベンジャー]というスキルを使えば、即座に俺を殺すことが出来るに違いない。
召使いは油断しているのだろう。
それは無理もないことだ。
この右手が鈍器にしか見えていないのだろう。
この右手の武器は鈍器などではない。
「俺の勝ちだ」
召使いの左腕を押し続け、右腕の武器の先が召使いの左胸に触れた瞬間、
「サタトロンファイア! 」
俺の右腕の武器の銃口が火を噴いた。
銃口からは赤い光線が放たれ、召使いの左胸を貫く。
この右腕は鈍器ではなく、銃あるいは砲台であったのだ。
木の幹を貫くほどの威力の光線を出すことが出来る。
俺の前にいた世界では、一目見ればこれが射撃武器であることは理解できただろう。
ゲームとかアニメで、腕を銃や砲台にして戦うキャラがけっこういるからな。
だから、俺にとっては召使いがこの右腕を射撃武器か疑わないか賭けであった。
だから、これが最後の攻撃となったわけだ。
結果、射撃武器だとは思わなかったようで本当に良かった。
「ぐふっ!? 」
バサリと召使いの顔を覆っていたフードがめくれ上がる。
顔が見れると思ったが黒い包帯のようなものをグルグルと巻いており、どのような顔をしているかは結局分からなかった。
グルグルに巻かれた口元の部分はわずかに赤くなっており、吐血しているようであった。
いや、そこを見なくても召使いがダメージを受けているかは判断できた。
俺が放った光線が通った場所、召使いの左胸とその周辺は風穴が空いていた。
召使いは、上半身の約半分ほどを失っていた。
大剣を振り下ろす力はなくなり、立つ力も無くなったのか召使いは俺の目の前で崩れ落ちた。
うつ伏せに倒れ伏す召使いを見下ろす。
じきに死ぬのだろうが、まだ息があるようであった。
しぶとい奴だ。
何にせよ召使いに勝つことが出来た。
俺も満身創痍に近い状態で辛勝といったところである。
・
・
・
「ふっ、強敵・・・だったぜ」
よっこらしょと腰を下ろして、息をつくと俺。
いやーこの召使いと名乗る奴は強かったなぁ。
さて、死ぬ前に色々と教えて・・・っと、ゆっくりしている場合じゃなかった!
ビショップとバンディッドの戦いはまだ続いており、彼女達を援護しなければ。
まずは、ビショップの方。
俺は立ち上がると、ビショップの方へと駆けだす。
「ビショップ! リオグルウの動きを止めろ! 」
リオグウルに近づく前に、ビショップへ指示を出す。
ビショップは「はい!」と元気よく返事をした後、リオグウルの両腕を自身の両腕の[怪人武装]である角で叩き落とした。
そのビショップの対応により、リオグルウは四つん這いの状態になる。
「でかした! あ、よいしょおおおおおお! 」
リオグルウの背後から近づき、[怪人武装]を解除。
右手に因子を纏わせて、ブスリと奴の背中から[因子付与]を行う。
「グオオオオオオ!! 」
人だったとは思えない獣のような雄たけびを上げるリオグウル。
苦しんでいるのかバタバタと腕を振り回し暴れ始める。
巻き込まれるのはごめんだと、俺とビショップは奴から離れる。
ほどなく奴の体は金色に光り出した。
どうやら付与された因子の適応が始まったらしい。
グウル化した奴に効くのかが分からない。
ひょっとしたら、適応出来ないのかもしれない。
だから、今回は試しにやってみたという
使った因子の適当なものを使ったしな。
今持っている中で一番レアな金獅子の因子は・・・な、無い!?
お、落としちゃった?
いや、そんなわけはない。
あ? ああ! ああ・・・使っちゃったかぁ・・・
どうやら、リオグウルに金獅子の因子を使ってしまったようだ。
まあ、いいだろう。
適応すればの話だけどな。
「ビショップ、ここでリオを様子を見ていろ」
「はっ! 総帥はいかがされるので? 」
「バンディッドの援護をしにいく」
と、ビショップに背を向けたのだが、肝心のバンディッドはどこだ。
いた。
蟷螂の魔物に追われながら、空をビュンビュン飛び回っている。
「[怪人武装]」
高い位置にいて、援護は容易ではないが[怪人武装]の右腕なら届く。
蟷螂の魔物に右腕の銃の照準を合わせて、サタトロンファイアを発射。
一発では当たらないので何度も撃つ。
何発かが蟷螂の魔物に命中する。
だが、倒すには至らない。
目標の蟷螂の魔物は俺から離れたところにおり、撃ったサタトロンファイアは飛距離を上げている分威力が抑え気味になっているのだ。
それでも、蟷螂の魔物を怯ませるくらいは出来たようだ。
俺の攻撃を受けて、蟷螂の魔物はフラフラとよろめき、速度も落ちる。
「今だ! バンディッド! 一気に仕留めろ! 」
「総帥! 援護サンキュー! [怪人化]」
バンディッドは[怪人化]し、魔物から怪人の姿になる。
少し準備がいる感じか。
俺は、右腕の銃による蟷螂の魔物への攻撃を継続する。
「くうううらええええええ!! [トルネードスマッシャー]」
バンディッドは、フィギュアスケートの選手のようにクルクルと空中で高速回転。
彼女の周囲に吹き荒れる銀色の強風はやがて、銀色の竜巻へと変化する。
ギュルルと耳をつんざく風切り音が地面の俺にも聞こえるほど、あの銀色の竜巻の勢いは凄まじいものらしい。
それからバンディッドは銀色の竜巻を纏ったまま、縦横無尽に空を飛び回り、蟷螂の魔物に突撃。
バンディッドは横から突撃したかたちになる。
彼女の纏う銀色の竜巻も従来の竜巻のように縦ではなく横向きだ。
まるでドリルだ。
ガリガリと尖った先端で蟷螂の魔物の体を削りながら、徐々に穴を広げていく。
そして、銀色の竜巻が通り抜けたときには蟷螂の魔物は粉々になって霧散していた。
なるほど、これがトルネードスマッシャーか。
ビショップのカオスブラストと同等の強力なスキルなのだろう。
今回は蟷螂の魔物一体だけに使ったが、あと十体、いや二十体いたとしても全て粉微塵にするほどの突破力はあるだろう。
ん? ビショップのカオスブラストと同じ?
ということは、消耗もかなり激しいのか?
なんて思っていたら、バンディッドが纏っていた銀色の竜巻が徐々に晴れていく。
回転の勢いも無くなっていき、バンディッドは翼を広げることもなく落下を始めた。
けっこうな高さだ。
さらに[怪人化]も解除されたようで、地面にでも落下すればタダでは済まないだろう。
だから、
「うおおおおおおお!! 」
受け止めるべく必死にバンディッドの落下地点へと向かう。
召使いとの戦闘でヘトヘトになった体を酷使しながら。
「ウッ! 」
急いだかいあって間に合ったか?
地面に激突する直前で、彼女の体に突進するかたちで抱き留める。
突進の勢いを殺せずにゴロゴロと地面を転がってしまうが、バンディッドの体は守った。
どうだ?
生きているか?
「う~ん、そうすい~だいすき~・・・」
大丈夫みたいだな。
これでようやく終わった。
俺達三人は無事。
召使いは倒した。
リオには[因子付与]をすることは出来た。
けっこう満足だ。
このままぶっ倒れてもいい。
というか、もう楽になりたいのでぶっ倒れたい。
だが、まだやることが残っている。
そのやり残しを終わらせるために、俺は倒れた召使いの元へと向かった。
バンディッドは、大丈夫そうなので置いておいた。
後でビショップと合流したら、拾ってくるように言っておこう。
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