第30話 嵐の前の静けさ
「バンディッド! よく俺のいる場所が分かったな! 」
テントの生地に隔たれた先、つまりテントの外にバンディッドがいる。
俺は彼女に向かって話しかけている。
「調査でこの騎士共のキャンプを見てたら、総帥が連れてこられたのを見たんだよ」
どうやらバンディッドは、この辺の近くで騎士達の様子を伺っていたようだ。
「そんなことより大丈夫!? 総帥、何も悪いことしてないのに、滅茶苦茶痛めつけられてたじゃん!? 」
バンディッドの血相をかいたような声が聞こえてくる。
俺がテントの中でリオに鞭で痛めつけられたことを知っているようだ。
そして、俺のことを心配してくれているらしい。
有難いことだが、心配させっぱなしは気の毒だ。
得た情報を聞き出したいところだが、まずは安心させるとしよう。
「ああ、大丈夫だ。死にはしない。あとで治療薬をぶっかければ、すぐに治るだろう」
「本当? よかった~」
バンディッドの安堵したような声が聞こえてくる。
心配させてしまったようだが、少しは安堵しただろうか。
これで大丈夫だろう。
「あはっ! 少し待ってて総帥! 今から総帥を痛めつけた女とその他を皆殺しにしてくるね! 」
全然大丈夫じゃなかった。
声はいつのように軽い感じなのだが、滅茶苦茶怒っているらしい。
バサバサとテントが揺れ動いていることから、バンディッドから強風が放たれているよう。
風の魔法でも使う気か?
なにはともあれ、バンディッドからは明確な怒りを感じる。
総帥がいいようにされて、部下が怒ってくれるのは素直に嬉しい。
だが、待ってくれ。
まだ皆殺しにするのは早い。
頼むから、その低すぎる沸点と少しは我慢するということを覚えてほしい。
「待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て! 」
今にも飛び出していきそうなので、俺は必至にバンディッドを止める。
待ての一回では、止まりそうもないので何回も言ってやった。
十二回くらい言ってやった。
あのビショップとこいつの喧嘩を止めるときに俺は学んだのだ。
こいつらは一回言っただけでは、言うことを聞かないと。
「えー? マジで言ってる? 怒ってないのぉ? 」
そのかいあってか、バンディッドは止まってくれたようだ。
なにか不満げではあるようだが、今回は不問とする。
言うこと聞いてくれてありがとう!
「多少なり怒ってはいるさ。だが、段取りというものがある。まず、お前が得た情報を話してほしい」
「うーん、総帥がそう言うのなら、一旦我慢。えーとね、まずは・・・」
バンディッドが騎士達についての情報を話す。
まず彼女の口から出たのは、騎士達の目的。
それは、貴族殺害の容疑者と殺害された貴族の娘であったビショップの捜索。
リオから聞いた話と同じであった。
どうやら、俺はバンディッドの仕事を一つ奪ってしまっていたらしい。
申し訳ないことをしたと、俺は思っているのだが、
「そういえば、さっきそんなことを言ってたね。さっすが総帥! ウェーイ! 諜報なんかもお手の物! フゥー! 」
バンディッドは誉めてくれた。
パチパチと拍手の音も聞こえてくる。
素直に嬉しい。
だけど、騎士達に見つかりそうだから、もう少し静かにしてもらいたい。
それから、次にバンディッドの口から出たのは、この騎士達の拠点の場所と部隊の規模。
まずは今俺達のいるこの騎士達の拠点は、ジャンクフィールドから少し離れたところにある林の近くにあるらしい。
そういえば、俺がリオに捕まってから、ここに連れて来られるまではそんなに時間が経っていなかったな。
俺を林の中に誘導していたのは、拠点に連行させやすいようにするためだったようだ。
改めてそのことを理解すると、本当に俺はリオの思惑通りに動いていたということで、自分がすごくマヌケに思える。
情けない。
総帥として大いに反省する。
次に部隊の規模だがリオを隊長として、だいたい五十人くらいとのこと。
けっこう多いなと思ったがバハが抱える騎士団全体の人数からすると、ほんの一部らしい。
ひとまずは五十人。
それで、ここに残っているのはリオを含めて二十人くらいで、他はビショップの捜索に出ていて拠点を離れているとのこと。
先ほどの騎士の報告によれば、ビショップに攻撃を受けたのか連絡が途絶えた騎士達がいるらしいな。
そいつらを引けば、もう少し少なくてざっと四十五人前後だろうか。
ビショップが合流すると踏まえて、こちらが三人、相手が四十五人程度。
数で見れば不利だが、こちらは[怪物化]か[怪人化]のスキルで一人当たりの戦闘力は並みの者ではない。
隊長であるリオも敵ではないだろう。
そうすると、部下の騎士達の実力が気になるところだ。
「騎士に強いやつはいるか? リオ・・・さっきここから出て行った女以外に」
バンディッドに騎士達の実力を把握しているか聞いてみる。
すると、
「うーん、いないよ。あたし一人でも[怪人化]か[怪物化]すれば
とのこと。
かなり余裕っぽい。
ならば、バンディッドにはビショップと合流して、ここに捜索に出ていた騎士達を引きつれてもらいたいところだ。
それでこの部隊全員が集まったところで戦闘開始。
遠慮なく[怪物化]か[怪人化]を使って、増援を呼ばれる前に早々に殲滅。
これでいいだろう。
早速バンディッドには動いてもらいたいところだが、その前に気になることがある。
「よくバレずにここまでこれたな。ここは拠点の端っことかなのか?」
それはバンディッドが俺のところまでこれていることだ。
騎士の拠点なんて近づくことさえ至難の業であるはずだ。
見張りがいるはずだからな。
残っている人数が二十人というのは、決して少なくない数であり、その人数の目を盗んで拠点の中に入るなんてのは不可能に近いはず。
だが、バンディッドは敵の拠点のどこかにいる俺と、こうして話をしている。
一体どうなっているのか気になったのだ。
「あれ、知らなかったっけ? [隠密 中級]っていうスキルがあるの。ただの[隠密]じゃなくて、そのワンランク上の[隠密 中級]! へへーん! 」
たぶん、テントの外でどや顔をしているのだろうが、見れなくて残念だ。
[隠密 中級]?
[隠密]はともかくとして、[隠密 中級]なんてスキルがあるのだろうか?
バンディッドの言葉を疑うわけではないが、確かめてみるか。
少し離れているのだが出来るか?
バンディッドのスキルウィンドウオープン!
――――――――――――――――――――――――
バンディット
アクティブスキル
●[怪物化]
●[怪人化]
●[アクセル]
●[風破魔法 初級]
●[八つ裂きの舞い]
●[スラッシュ]
●[アクロバット]
●[回転斬り]
●[突撃蹴り]
●[索敵]
★[トルネードスマッシャー]
パッシブスキル
●[速度増幅 初級]
●[属性耐性<風破> 初級]
◆[空間認識【音】]
●[隠密 中級]
――――――――――――――――――――――――
あった、本当だったわ。
たしか情報屋の時は、[隠密]を持っているようなことを言っていたような気がする。
[隠密 中級]なんて言ってなかったから、[隠密]だったはずだ。
そうすると、[因子付与]によって[隠密 中級]に昇華したのだろうか?
なんにせよ、この[隠密 中級]というスキルのおかげで見つからないようだ。
どの程度まで見つからないのかは定かではないが、こうして俺と話していたり、ウェーイ!なんて少し騒いでも大丈夫らしい。
諜報だけじゃなくて、敵に気づかれないのだから先制攻撃なんかも簡単に出来て戦闘面でも活躍しそうだ。
しかし、[怪物化]も[怪人化]もしていないのに、ビショップと同じくらいにスキルがあるのな。
それにこのトルネードスマッシャーというやつは、カオスブラストのような強力なスキルになるのだろうか?
なんにせよバンディッドもビショップに負けず劣らすということで。
うーん・・・良いことだ!
さて、聞きたいことはもうないし、バンディッドに指示を出すとしよう。
「聞きたいことは以上だ。それでバンディッドには、これからビショップと合流してもらいたい。場所は分かるか? 」
「余裕っしょ・・・って言いたいところだけど、簡単にはいかないかなー。でもでも、ちゃんと探してだしてみせるよ。それで? それからどうするー? 」
「捜索に出ている騎士を引きつれて、ここまで来てほしい。そして、この部隊の騎士達が全員集まったところで殲滅開始だ。好きに暴れるがいい」
「あはっ! 好きに暴れてもいいの!? りょうかーい! じゃあ、張り切って行ってくるし! 」
その言葉の後、テントの外から感じていたバンディッドの気配が消えた。
まるで、先ほどから誰もいなかったかのように静かになる。
外も静かだ。
拠点に残っている騎士達は、バンディッドに気づくこともなく見張りなどの作業をしているのだろう。
だが、じきに騒がしくなるだろう。
その時、俺もやっと動くことができる。
散々痛めつけてくれたのだ。
たっぷりと礼をしてやらねばな。
楽しみで仕方がないよ。
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