第27話 来訪者
バンディッドは俺の部下に加わってから数日後の朝。
俺はジャンクフィールドの雑兵斡旋所に来ていた。
「ほらよ、終わったぞ」
ここに来た目的は、依頼を受けに来たわけではない。
依頼が終わったので、その報告に来たのだ。
「あ、あんた達か。相変わらず、こんな難易度の高い依頼でも軽々とこなしてくるな」
斡旋所の受付の男が唖然としながらも、報酬の金が入った麻袋を渡してくる。
この男は、俺が廃坑前で処した男は別人である。
こうして誰かが代わって斡旋所の管理をするので、あの男がいなくなったとしても斡旋所が潰れることはない。
どこの誰がやるのかという詳しいシステムは知らないが。
「当然です。何故なら、サタトロン様ですから」
「そーゆーこと! ま、アタシ達も頑張ったけどねん」
報酬を受け取る中、俺の後ろに立つビショップとバンディッドが得意げに何かを言っている。
依頼には、この二人も連れていた。
二人のいるおかげで、斡旋所で受ける依頼はすぐに片が付く。
特に魔物討伐の依頼はとりわけ速く済むようになった。
二人共、[因子付与]のおかげで戦闘力が高まっており、手加減をしていてもこの辺の魔物では相手にならないほど強いからだろう。
間違いなく他のどの雑兵達よりも強い。
そいつらが束になっても二人には敵いっこない。
なんなら、このジャンクフィールドでの最強は二人のうちどちらかになるだろう?
[怪物化]や[怪人化]した状態の話ではなく、素の状態の話である。
いや、参っちゃうね。
俺?
俺はというと、素の状態はクソ雑魚だからな。
一位と二位のどっちかに二人がいるとして、俺は三位・・・いや、もう十位以内に入っていればいいなぁ。
あの時、宿屋で暴れる二人を[怪人化]して、やっとのことで止められた。
[怪人化]してだ。
素の状態では、二人に勝つことはできない。
悲しいことに総帥である俺より部下の方が強い。
俺よ、これでいいのか?
ちなみに、ビショップは口元に黒いスカーフを巻いて顔を隠したままだ。
外に出るときはいつもそうしている。
恐らく、俺がもういいぞと言うまでやめないのだろう。
適当なところで、ビショップにもうスカーフを巻かなくてもいいことを言うとするか。
ヘッドスキンも情報屋もどうにかなったし、もうしなくてもいいだろう。
「あ、あんた、後ろの二人に褒められてるんじゃないのか? なんでそんな暗い顔してんだ」
斡旋所の受付の男に心配された。
どうやら、素の状態で二人の喧嘩を止められなかった俺の心境は顔に出ていたらしい。
「いや、心配なさんな。かろうじて、部屋が壊れる前に二人を止めることができて、なんとか宿屋から追い出される事態が回避できた」
「な、なに言ってんだあんた? 」
斡旋所の受付の男は、俺の変な奴を見るような目で見てくる。
だろうな。
俺はそれから「邪魔したな」と斡旋所の出口へと向かった。
ビショップとバンディッドの二人も俺の後に続く。
「相変わらず、べっぴんだな。あの二人」
「片方がどこか気品があって、もう片方は野性感がありながらどこか妖艶。どちらもそそるな」
斡旋所の中を歩いていると、斡旋所の男達のそんな声がチラホラと聞こえてくる。
ビショップとバンディッドの見た目は、総帥である俺が
斡旋所だけでなく、町を一緒に歩いていると今のような二人の容姿を誉める声が聞こえてくる。
「もう少し歳が高ければ・・・」
「バッカ、今がいいんだろうが! 」
「へへへ、たまんねぇぜ! 」
中には誉め言葉?と疑問に思うようなこと言う輩もいるのだが。
まあ、いいものだ。
自分のことではないが、部下を誉められては鼻が高くなるというもの。
ふはは、どうだ? 俺の部下達は可愛かろう。
と、いい気になっているのは俺だけのようだ。
当の本人達は、どこ吹く風といった感じで全く反応はない。
彼女達には、彼らの誉め言葉が響かないのだろうか?
今後、彼女達の容姿を誉める機会があるかは分からないが、充分気を付けるとしよう。
「ねぇ、あの黒髪の子。よくない? 」
「ね! 今はまだ可愛い系だけど絶対イケメンになるよ! どこかで声かけちゃおうか! 」
たまにだが、俺への声もあったりする。
ここには数が少ながらも女性がいるのだ。
だいたいの俺に向けた声は、彼女達から聞こえるもの。
容姿については最近意識はしていないのだが、そんなに良い感じなのか?
と、嬉しく思うより疑問に思ってしまうのだが、ビショップとバンディッドも同じ気持ちなのだろうか?
しかし、女性のキャッキャッした声は聞いていて悪い気はしない。
「は? 」
「あ? 」
おっとぉ? なんだなんだ?
後ろから二人の苛立ちの声が声が聞こえたぞ。
お怒りオーラもビシビシと背中に痛いくらいに伝わってくるぞ。
こいつらと一緒にいるときに俺が褒められるような声があると決まってこれだ。
何故か二人は怒り出す。
なんで? 俺が褒められるのそんなに嫌?
少しへこむ。
「私の総帥に色目を使うとは、その口を焼いて塞いでやろうか」
「うっざ、アタシの総帥だってのに。あいつら、切り刻まれてバラバラにでもされたいの? 」
なんか後ろから二人が呟いているが怖くて聞けない。
なんだろう? 舐められているのだろうか?
だとしたら、もっと威厳のある総帥を目指して励めまなくては。
「おい、聞いたか? この辺に騎士の集団が来てたみたいだぜ? 」
ふと、耳に残るような気になることを言った声が聞こえた。
「騎士の集団か・・・」
その聞こえた言葉の一部を口ずさみつつ、俺は雑兵斡旋所を出た。
・
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「今日は別行動にしたい」
宿屋に帰る途中、俺は振り返って二人に言った。
「はっ! 」
「御意~! 」
唐突に言ったにも関わらず、二人は気持ちの良い返事をする。
こういうときは、ちゃんと言うことを聞いてくれるんだよな。
「まず、バンディッドは周辺を探ってくれ」
「探る? 一体何を? 」
「騎士がこの辺をうろついているっている噂を耳にした。それを確かめに行ってほしい。できれば、何が目的か分かるまでじっくりと調べてもらいたい」
ジャンクフィールドというかこの辺一帯は王都のどこかの貴族の領地である。
たいていの貴族は家ごとに騎士団を持っており、領内に騎士がいること自体はおかしいことではない。
だが、このジャンクフィールドの周辺においては例外だ。
ここは巡回の騎士ですら近づこうとしない。
それほど嫌われているのだ。
よほどのことがなければ、近づこうともしないだろう。
そのはずが、近くで見たという噂があるのだ。
きっと、この町に何かがあるのかもしれない。
それをバンディッドに探ってもらおうというのだ。
「それから、ビショップは、これで雑貨屋に行ってほしい」
ビショップに、金貨の入った袋を手渡した。
「金にも余裕が出来た。それで治療薬を大量に買っておいてくれ。終わったら宿屋で待機だ」
廃教会での戦いの後の治療で、ドバドバに持っていた治療薬を使ってしまったので今は残りが少ない。
いつあの時のような激戦があってもいいように備えておくべきだろう。
しかし、金がかかる。
回復スキルを持つ部下が欲しいところだ。
「承知しました。それで、総帥はいかがなさるので? 」
「俺は斡旋所に戻って、また何か依頼を受けるとしよう。まだ金はいる」
金が欲しい。
宿代や武器防具に治療薬と使い道は、考えればキリがない。
それらが目的とは言わないが、一番は貯金だ。
ここジャンクフィールドですべきことがなくなってきた。
そろそろ別の場所を拠点にしてもいい頃合いだろうと考えているのだ。
「なるほど。では、こちらの用事が終わり次第合流いたします」
言うと思った。
さっき俺、終わったら宿屋で待機だって言ったじゃん。
「あ、ズルい! アタシもさっさと調査を終わらせて、総帥と合流するー! 」
言うと思った。
さっき俺、じっくり調べてほしいっていったじゃん。
と、こうならないようにしようとしたのだが無駄だったようだ。
ビショップと行動しようとするとバンディッドがついて来たがると思って、宿屋で待機するよう言ったのに・・・
ビショップはともかくとして、バンディッドは早くに調査を切り上げられてしまうと、あまり情報が集まらなくなってしまう。
「いい! 今日は俺は一人で行動する! ビショップは買いもの! 終わったら宿屋で待機! バンディッドは調査! じっくり調査! いいな! 」
「しかし・・・」
「でもさぁ・・・」
強めに言ったつもりなのだが、こいつらまだ食い下がろうとしてくる。
ここで、納得してくれよ~。
「く、くどぉい! 俺の命令が聞けないというのか! 」
仕方なくより強い口調で言ってみる。
「「はっ、はい! 」」
それが効いたのか二人は慌てた様子で返事をすると、それぞれの目的を果たすために散った。
二人は俺のことを思って、合流しようとしたのだろう。
その思いを無下にするような真似をしてしまい、かなりへこむ。
「・・・待てよ? 」
思い返さば、さきほどの俺の物言い。
すごく悪の親玉っぽくなかった?
いや、すごくっぽかったね!
まさか、自然とそんな悪の総帥ムーブが出来るなんて、俺も成長してるってことじゃん。
「ククク、ハハハ! 」
そう思うと元気が出てきた。
ここはいっちょ高笑いでも、
「な、なんだあいつ? 」
「やべぇ、気でも狂っってのか? 」
と、思ったが周囲を行き交う人達の俺を見る目が頭のおかしな奴を見る目になっているような気がした。
しまった、少し目立ちすぎたか。
俺も雑兵斡旋所に向かうとするとしよう。
ともかくここからさっさと離れなければ。
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「うーん・・・」
俺は雑兵斡旋所に来てから悩んでいた。
掲示板に今日の依頼の書類がいくつか張られているのだが、どれにしようか迷っているのだ。
どう依頼を受ければ、より金が儲かるかだ。
「魔物討伐は時間がかかるが単体の報酬はデカい。素材の入手はかかる時間は短い場合が多いが単体の報酬は少ない。どう組み合わせれば・・・」
一日の時間は限られている。
その限られた時間でベストな選択をするために、こうして長考しているというわけだ。
「あの・・・」
「この素材の依頼、報酬たっかいなぁ。でも、この草、どこに生えてるんだっけか・・・」
「あの・・・もしもし? 」
「うおっ!? なんだこれ!? これその辺にいる魔物の討伐のくせに報酬が高い・・・って、こらこらーっ! 勝手に持っていくな! それは俺のだぞ! 」
「あの! 聞こえますか! 」
「うおあっ! な、なんだ!? 」
突然、横から大きな声をかけられたものだから驚いてしまった。
見れば、その声の主は少女。
俺よりも少し背の高く、恐らくは年上なのだろう。
「やっと気づいた。あの、少しよろしいですか? 」
「あ、ああ、俺? 」
「はい。あなたにお願いしたいことがあるのです」
どうやら、何か俺に頼みたいことがあるらしく声をかけたようだ。
しかし、こいつは一体どこの誰なんだ?
この少女とは面識はなく、今が初対面である。
そんな見ず知らずの相手に、何を頼もうというのか。
怪訝な顔をする俺に対して、少女は何かを期待するようなキラッとした目で俺を見てくるのだった。
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