第19話 怪人VS怪人(?)


 「な、なんだと! お、お前達もグウルになってとでもいうのか! いや、違う!? なんだというのだ! 」



斡旋所の男が激しい身振り手振りをしつつわめき声を上げる。


驚いているのか困惑しているのか怒っているのか。


口を開く度に変わるものだから、忙しいやつだ。


初めて[怪人化]の姿を見たリアクションとしてはそんなものだろう。


その[怪人化]についてだが、俺は今回銀蝙蝠の因子を使用した。


今、俺は銀蝙蝠怪人というわけだ。


斡旋所の男がわめている間に、自分の体を見渡す。


どうやら、銀色の甲冑を着ているような見た目をしているらしい。


地龍の時みたいに、所々がトゲトゲしていて魔物らしさが出ている。


手や足の部分に爪もあって、攻撃に活かせそうだ。


同じ感じなのはそのくらいで、大きく違う点が一つある。


それは体が細くて軽く動きやすいこと。


因子の元となった魔物が影響しているのだろう。


この銀蝙蝠怪人の姿は、スピードを活かした戦い方が得意のようだ。



「どれ・・・」



手鏡を出し、自分の顔を向ける。


こうでもしないと自分の顔は見えないので、いつでも確認できるよう常に携帯していたのだ。


鏡に映る自分の顔は、蝙蝠の顔を意識したデザインの兜を被っているような感じだ。


ただ、実際の蝙蝠をそのままにしたものではなく、耳の部分は蝙蝠の翼の形になっている。


うーん、いいじゃん。


恰好の良い姿で満足だ。



「くっ、そうか! それはスキルだな! ずっとスキルが使えることを隠していたのか! お前、何が目的だ! 」



なんかまだ斡旋所の男がわめいている。


さっさと攻撃を仕掛ければいいのも。


グウル達もその場でジッとしていて、律儀にも斡旋所の男の命令を待っているようだ。


見た目に反して、なかなかお利口さんだな。


待たせているみたいだし、こちらから仕掛けるとするか。


俺は手に持っていた手鏡をポイッと放り投げる。


出来れば、あとで回収するつもりだ。



「・・・いや、まだにしよう」



やっぱり、まだ仕掛けるのはやめにしよう。


[怪人化]したのは、俺だけではないのだ。


ビショップがどうなったか気になる。


自分以外の怪人化を見るのは始めてた。


どうなったか非常に気になる。


ということで、せーの、



「エッッッ!? 」



ビショップが立つ隣に顔を向けた瞬間、俺はまるで石にでもなったかのように固まった。


まず、[怪人化]したビショップは俺のように甲冑に全身を身に包んだ姿ではなかった。


人というか元の女の子の姿とほぼあまり変わらない。


違うのは、使用した因子である山羊の魔物の身体的特徴の一部が体に追加されていること。


肌や目の色が普段と違うということ。


着ている服が変わっていることだ。


あれ? あまり変わらないと思ったけど、けっこう違うところあるね。


まず、山羊の魔物の身体的特徴だが頭から山羊の魔物と同じく二本一対で後ろへと反り返った角が生えている。


耳は位置は変わらないが形状は山羊のものになっており横に長く、時よりピコピコと動いてる。


背中には黒い翼が生えており、今は畳んだ状態だが広げれば身長を超えそうなほど大きく、空を飛ぶことが出来そうだ。


お尻というか腰には山羊の黒く小さな尻尾がちょこんと生えている。


続いて、肌の色は山羊の魔物の体毛が黒かったせいか黒くなっている。


普段より黒くなったとか、暗めな褐色ではない。


完全に黒色で、艶があるというか僅かに光を反射しているのかテカっているように見えた。


目は白目だったところは黒く、瞳の部分は黄色。


瞳孔は丸から、横長の形になっている。


これらの身体的特徴は、今の怪人状態の彼女が人の形をしていながら異形であることを強調するものであった。


さて、最後に服装なのだが、俺はこれに一番驚いたのかもしれない。


まず上半身はというと、胸のところを黒地の筒状のトップス。


なにこれ?なんていう服なの? 筒状だからチューブトップとか?


とにかく、大事なところだけを隠してい感じだ。


腹というかへそは丸出しである。


そこから上の肩のあたりも露出しているかと思えば、赤地のケープを羽織っていた。


腕には、二の腕の辺りから手首のところまでを黒地の筒状の布が覆っている。


さっきから名前のよく分からないパーツが多い。


アームカバー的なものなのだろうか。


動かせばヒラヒラと揺れ動き、なかなか様になりそうだ。


下半身はというと、腰は前と後ろに黒地の長い布が垂れ下がっている。


下着はつけているものの、横から見ているからもう丸見えである。


というか、黒い紐の結び目が見えるのだが、ひょっとして紐パンか?


エロい、エロいよ。


なんちゅーもんを履いているんだ、この娘は。


靴はヒールになっており、山羊の蹄を意識したものなのか先端が二股に分かれていた。


ゲームやアニメに出てくるような踊り子のような服装である。


まとめると、露出が多くてエロかった。


こんなにエロくなるとは思わなかったので、固まるほど驚いたというわけだ。


今はまだ幼いが成長して、さらに大人の体つきに近づけば、もっとすごくなるかもしれない。


全体的な見た目は、俺の部下としては異形感が足りないところだが、まあ女の子だしヨシとしよう。


これはこれで悪の女幹部っぽいしな。


しかし、こんな露出の多い見た目になってしまったのだが、本人は気にしていないのだろうか?


「こ、こんな格好では戦えません! 」とか言われたら大変である。


今後の活動に支障が出るので、何か検討をしなければいならない。


と、思ったがビショップは前方の斡旋所の男を睨みつけ、低く唸り声を上げている。


気にしてなさそうだ。


なら、いいかぁ!


ビショップがどんな姿になったか見れたことだし、斡旋所の注意を向ける。


視線を外していたどころか、声も聞いてかなったわ。


今、どのあたり?



「ふ、ふん。何も言わないか。まあ、いい。ここでお前達は今度こそ屍になるのだ! やれ、お前達! 」



斡旋所の男は俺達に向けて、指を差す。


それと同時に攻撃の命令も出したようで、一斉にグウル達も動き出した。


あ、ちょうどいいところだったわ。


よかった、よかった。


さて、この銀蝙蝠怪人の力と山羊怪人となったビショップの力を見させていただくとしよう。





 俺とビショップは二手に分かれて動き出す。


俺についてきたグルウの数は五体。


ちょうど半分半分で戦うことになったようだ。



「キシャア! 」



一体のグウルが俺の目の前に接近。


その五本の長く鋭い爪を振り上げる。


爪で俺を切り裂こうというのだろう。


そうはいかんと、俺は後ろへ跳躍して躱すことにする。



「・・・!? 」



その直後、俺は驚愕した。


この銀蝙蝠怪人の状態なら早く動けると思っていたが予想以上だった。



「キギッ!? 」



グウルも驚いた様子である。


奴は俺以上に驚いたことだろう。


なにせ、腕を振り下ろす前に俺がもう攻撃の届かない位置にいるのだからな。


瞬間移動でもしたかのように見えたに違いない。



「キャシャア! 」


「ギギッ! 」



その一体と他の四体のグルウは、俺の周囲を問い囲みだした。


まともやっても攻撃が当たらないと、袋叩きしようというのだろう。



「いけーっ! やれーっ! 殺せええええええ!! 」



遠くで斡旋所の男の叫び声が聞こえる。


俺を取り囲んだことで、自分達が優勢だと思っているのか嬉々としたものだった。


適当に応援しているところから、グウル達に命令はしていなさそうだ。


そうなると、このグルウ達は見かけによらず知能があるらしい。


まあ、見たところ獣並みってところのようだが。


そんなことを思いつつ、呑気の構えているとグウル達の攻撃が始まった。


まずは、俺の後ろにいるグウルから、右腕の爪による攻撃が来るので前に移動して躱す。


次に右側のグルウから左腕の突起物による攻撃が来るので左に移動して躱す。


その次は、前方と左側から同時に攻撃が来るので、足に力を溜め高く跳躍。


背後から追撃しようとしてきたグウルを飛び越え、地面に着地した頃にはグウルの包囲網を抜けていた。



「すげぇ! 速く動けるし、どこから攻撃が来るのかも分かる! 」



速いだけではない。


目で見なくても、グウル達の立ち位置やどのように動いているのかが手に取るように分かるのだ。


これは因子の元となった銀蝙蝠の魔物の能力によるものだろう。


自分がやっている実感はないのだが、恐らくは常に超音波を放ち続けることによって、周囲の物体の距離と形を把握しているのだろう。


これは一種の空間認識能力とでもいうのか。


さらに集中すれば筋肉の細かいうごきですら把握することができ、次にやろうとする動きの予測さえも可能のようだ。


速さに特化した怪人かと思ったが、それだけではなかったようだ。


少し戸惑ったが、だんだんとこの空間認識能力に慣れてきた。


最初は大きく身を動かして躱していたが、今ではヒョイヒョイと小さな動きで奴らの動きを躱している。


余裕だ。


余裕すぎる。



「ふわぁ・・・」



おっと、今日は朝早くに出たものだからか欠伸が出てしまった。


欠伸が出るほどに俺は余裕だった。


うーん、どうしようか。


このまま、グウル達を倒しても勿体ない気がする。


何かいい感じの倒し方はないだろうか?


こうビシッと決めて、残る斡旋所の男をアッと言わせてやりたいものだ。


あ、そうだ。


このままビショップの戦闘を見物するとしよう。


山羊怪人でどんな戦い方をしているか気になるし、見ている間にこちらのグウル達を倒す方法も思いつくだろう。


よそしながら戦うのはよくないって?


見てなくても攻撃を躱せるので心配無用だ。



「[怪人武装]! 」



ビショップに目を向けると、ちょうどスキルを使用することろだ。


というか、もう残り三体になってる。


一体は真っ黒に焦げた死体になっており、プスプスと煙が上がっている。


もう一体は、太い氷の棘で体を串刺しされた状態で転がっている。


どうやら、火炎魔法と氷結魔法の別の方法でそれぞれ倒したらしい。


残る三体はというと、こちらも別の方法で倒すつもりのようだ。


しかも、今度は魔法じゃないらしい。


使用したスキルの効果なのか、彼女の両腕は黒い大きな角に変形。


その形状は湾曲しており、先端は鋭く尖っていた。


フックのようであり、ショーテルという湾曲した剣のような形だ。


その変形した角を振り回し、一体、また一体、そして最後の一体を殴打。


ブンブン軽々しく振っていたからそうは思わなかったが、実際にはかなりのパワーがあったらしい。


どのグウル達もぐったりと地面に倒れふしていた。



「[黒撃魔法 初級]ダークファイア! 」



ビショップは魔法スキルを使用する。


倒れたグウル達が黒色の炎に包まれる。


初めは小さな炎だったのだがすぐに全身を包むまで大きくなったのだ。


それから、炎が徐々に小さくなっていき、完全に消えた時にはグウル達は消えていた。


死体すら残らなかったのである。


これが黒撃魔法か。


火炎や氷結などのように、どんなものか想像できない魔法だったので気になっていた。


詳しいことは分からないが、見た感じ敵を葬り去ることに特化した魔法らしい。


強力だと頼もしく思う反面、恐ろしくも思う。


敵が使ってきたら、かなり厄介そうだ。


と、呑気に眺めていたが終わってしまったようだ。


こちらも終わらせねばならないが、その前にスキルウィンドウオープン!



――――――――――――

サタトロン


アクティブスキル

●[怪物化] 

●[怪人化]

●[因子付与]

●[怪人武装]

◆[シルバーストーム]

◆[ソニックブーム]

●[八つ裂きの舞い]

●[スラッシュ]

●[回転斬り]

●[突撃蹴り]

●[索敵]


パッシブスキル

●[因子回収]

◆[空間認識【音】]

●[隠密]

――――――――――――



これが今の銀蝙蝠怪人の状態の俺が持つスキル。


うーん、多いねぇ。


そして、どれも強そうでいいねぇ。


ご満悦である。


やはり、[怪物化]か[怪人化]すると、使用した因子に応じたスキルが使えるようにらしい。


それを確認したかったわけではなく、俺が確認したスキルは[怪人武装]。


ビショップが使っていたことから、俺も使えるのでは?


と、思って見てみたらやっぱりあった。


俺も使ってみたいところだが、今はこれより見てみたいものがある。



「ビショップ、こちらも頼む。カオスブラストだ」



それは、ビショップの持つスキルの中で最強であろうカオスブラストである。


さっきの黒撃魔法を見て、さらに興味が湧いたというわけだ。



「こいつらは俺がまとめて上に巻き上げる。そこを撃て」



どれほどの威力があるか分からないので、空に向けて撃ってもらうことにする。


ビショップは「はい!」と答えると、[怪人武装]と解除し、両手を前に突き出す構えをする。


すると、彼女の突き出した手の平の少し先のところに黒い球体が出現する。


その黒い球体は徐々に大きさを増してゆく。


どうやら、それを撃ち出して攻撃するのがカオスブラストという魔法らしい。


ビショップが準備しているとあって、こちらも動くことにする。



「[シルバーストーム]! 」



このスキルは、対象の周囲を円を描くように高速で飛行し、竜巻を発生させるもの。


本来は、その竜巻で対象の体を巻き上げつつ、強風に交じった風の刃でバラバラに切り刻むものらしい。


このスキルだけで倒すにはもう充分だが、今回は手加減して巻き上げるだけに留めておくことにする。



「ギヤアアアアアアア!! 」



グウル達は悲鳴を上げて、俺が作り出した銀色の竜巻に巻き上げられてゆく。


もう充分か。


かなりの高度にまで、グウル達の体が舞い上がったことで、俺はスキルを中断した。



「ここですね! [究極 黒撃魔法カオスブラスト]! 」



そこへビショップのカオスブラストが放たれる。


彼女の前方に出現していた黒い球体は、そのまま飛んでいくことはなかった。


大きくはじけ飛んだかと思えば、放射状の黒い渦となって放たれたのである。


あ、ビームなんだ。


それを見上げる俺の目には、黒くて幅の広い線のように見えた。


まさしくビームである。


それも超巨大な極太のビームであった。


超巨大で極太な分、周囲に与える影響も大きい。


その一番の影響として、ビームが放出し続ける彼女からは突風の如き衝撃波が放たれ続けている。


近くに生えている木はしなるほど揺れており、台風の中にでもいるのかというくらいに凄まじい。


そんな中ビショップはというと、ビームの反動のせいで体はズルズルと後ろに下がっている。


彼女が一番大変なところにいるはずだが、崩れることなく同じ姿勢を保ち続けていた。


すげぇな!


近場にいる俺はどうかというと、なんとか大丈夫だ。


吹っ飛ばないよう体を伏せて地面にしがみついている。


ただし、身動きはできない。


地龍に[怪物化]すれば動けるかもしれないが時間がなかった。


だが、斡旋所の男が吹っ飛ばないよう、奴のところ飛びつくことくらいは出来た。


今、奴と共に吹き飛ばないよう地面に伏せている状態というわけだ。



「うわああああああ!! あ、あの小娘のどこにこんな力がああああああ!! 」



密着しているかたちなので、奴の大声がダイレクトに俺の耳に入る。


クッソうるさい。


ちょうどいい木の枝か何かが飛んできてこの口を塞いでくれないだろうか?



「嘘だ! グウル達がやられるなんて・・・もがっ! 」


「静かにしてろ! 」



そんな幸運が来るのを待っていられないので、地面に顔を押し込んで黙らせる。


しばらく、じっとしていると衝撃波は止んだ。


見上げると黒いビームはない。


カオスブラストが終わったようだ。


その漆黒のビームを食らったグウル達の行方だが探しても見つからないだろう。


確認するまでもなく跡形もなくなったに違いない。


カオスブラストを撃ち終わったビショップはというと、



「くっ・・・はあ、はあ・・・」



[怪人化]が解除されて元の人間の姿になり、荒い呼吸をしながら地面にへたり込んでいた。


かなり消耗してしまったらしい。


うーん、マズイ。


こんなに消耗が激しいとは思わなかった。


意識がまだあることから、魔力が底を尽きたわけではなろう。


黒撃魔法を使った時点で、まだ十回ほど魔法スキルが使えるくらいには魔力が残っていたはずだ。


凄まじい破壊力の代償として、この魔力の他に体力すらも激しく消耗する大技なのかもしれない。


なんにせよ、今日はもう歩くことも出来なさそうだ。



「ビショップ、よくやった。あとは俺に任せて、そこでゆっくり休んでいるといい」



そう告げると、ビショップはコクリと頷いた。


返事をするのもキツイらしい。


こんなにも消耗するのなら、カオスブラストはここぞという時にしか使わせないようにしよう。


ビショップに辛い思いをさせて心苦しいが、この消耗の激しさを知れたのは大きい。



「さて、こちらの用事は済んだわけだ。待たせたな」



俺はビショップから、押さえつけている斡旋所の男に視線を移す。



「は、はひ・・・」



押さえつけていた手を離してやると、土まみれになった顔をこちらに向けてきた。


今にも泣きそうな青ざめた顔である。


どうやら、やっと自分の立場を理解したようだ。


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