第18話 初お披露目


 銀蝙蝠の魔物も倒したことだし、当初の斡旋所の男と関係者の待ち合わせ場所に行く目的は失敗。


ここには用は無いということで、脱出しようにもそう簡単にはいかない。


出口へとつながる道が岩石の山で塞がれているのだ。


その岩石の山をどうにかしなければ、廃坑を出来ることは出来ない状況だ。


今、ちょうど地龍の姿のままなので、この巨体を活かして岩石を取り除くことにする。


ビショップにも手伝ってもろおうと思ったが、少し離れたところで岩石の山が崩れないかを見ててもらうことにした。


ミスって上の方にある岩が頭に落ちてきたら痛いからな。



「せいっ、せいっ、せいっ」



口で岩石を掴み、その辺に放り投げていくことで岩石を取り除いてゆく。


まるで、ショベルカーとかの重機になったようだ。


そんなんで、やる気はあるかって?


もちろんだとも。


しかし、こうしてやっていると順調に岩石の山を取り除いていっているように感じる。


なにか土木作業が必要になったときに、[怪物化]のスキルは役に立つかもしれない。


そうこうしているうちに、岩石の山を綺麗に取り除くことができた。


これで廃坑から出ることが出来るだろう。


もう[怪物化]の用も済んだので、スキルを解除して元の人間の姿に戻る。



「あ、サタトロン様、お待ちを」



すると、ビショップが駆け寄ってきた。



「さきほどの戦闘で怪我をされているのでは? お手当をさせていただきます」


「いや・・・軽い傷だ。帰ってからでもいいさ」


「いえ、良くないです。せめて、応急手当くらいはさせてください。その怪我は、私をかばって出来たもの・・・なので、せめて」


「・・・そうか。なら、任せる」



そこまで言うのなら、もはや断るのは無粋だろう。


大人しくビショップの手当を受けることにした。


服を脱ぎ、上半身を裸になる。



「はぁ・・・サタトロン様の素裸・・・」


「ん? 何か言ったか? 」


「いえ、なんでもないです」


「ああ、そう? 」



なんかビショップの様子が変な感じだったようだが気のせいだったようだ。


それから、ビショップは持ってきていた治療薬を俺の横腹の傷口に塗り、包帯でグルグルと俺の腹を巻いてゆくのだった。


この世界には便利な物がいくつか存在する。


その一つが治療薬だ。


これは傷口に塗るか吹き付けると、傷が圧倒間に治す優れものである。


即効性があるので、戦闘中の使用も有効だ。


にわかに信じがたいが質の良い治療薬は、切断された腕を再生できるほどの回復力を持っているそうな。


なにはともあれ、この治療薬のおかげで俺達雑兵は魔物を狩り続けられるといっても過言ではない。


だが、このジャンクフィールドでは値が張り、ポンポン使える代物では無いのが玉に瑕だ。


組織を大きくするにあたって、治療薬を作成できる人材はどこかで確保したほうがいいだろう。


そうこうしているうちに、ビショップの応急手当は・・・終わらなかった。


まだ、包帯をグルグルしている。


慣れていないのか少し手際が悪い。


少し前までは、こんな怪我をするような環境にはいなかっただろうし、仕方のないことだろう。


俺は黙って、彼女の手当を受け続けることにする。


それはそれでやることがないので、なんとなく自分のスキルウィンドウを開いてみる。



――――――――――――――――――――――――

サタトロン


アクティブスキル

●[怪物化]

●[怪人化]

●[因子付与]

●[因子合成]


パッシブスキル

●[因子回収]

――――――――――――――――――――――――



ハハ、相変わらず少な・・・くないっ!


なんか増えてる!?


いつの間にか[因子合成]というスキルが追加されてる!


因子がつくスキルが複数あって分かりづれぇよ!


ちょっと気づくのにラグが出ちゃったじゃん!


あと増えるんなら何かしらのアナウンスをくれー。


スキルウィンドウ開くまで一生分かんないじゃん。



「し、失礼しました! 」



急にビショップが謝ってくる。


え、何故に?


ひょっとして、俺の心の声聞こえた?


ごめん、文句言いたいのビショップじゃない。



「どうした? 」


そんなわけはないので、何事か聞いてみる。



「その、驚かれた様子だったので傷口を強く押してしまって痛がらせてしまったのかと・・・」


「ああ・・・いや、大丈夫だ。続けて」



どうやら、[因子合成]のスキルを発見した時、その驚きが体に出ていたようだ。


確かにビクッと震えてしまったような気がする。


それを自分のせいで痛い思いをさせたのだと勘違いしたらしい。


ビショップには悪いことをした。


それはそうと、[因子合成]というスキルはどんなものか詳細を見よう。



――――――――――――――――――――――――

●[因子合成]

詳細:

二つの因子を合成する。

同じ種類の因子であれば、さらに良質な因子となる。

異なる種類の因子であれば、また別の異なる因子となる。

失敗することもあり、その場合は合成に使用した因子は失われる。


――――――――――――――――――――――――



なるほど。


素直にこれは良いスキルだ。


低レアな因子は大量に手に入るのだが、使い道が無くて持て余していたのだからな。


獣の因子なんか百個は超えるほど持っている。


捨てることもできたが、捨てなくて本当によかった。


このスキルで、レアな因子に出来るのだからな。


それに異なる因子を合成して別の因子に出来るのも面白そうだ。


失敗する場合もあるのが気になるが、これは本当に良スキルに違いない。


帰ったら色々と試すとしよう。


それにしても、このスキルをゲットした原因はなんだろうか?


ひょっとして、黒山羊や銀蝙蝠とかのレアな因子の獲得が原因か?


だとしたら、より一層珍しく強い魔物を倒す価値が出てきたな。





 ビショップの応急手当が終わった後、俺達は廃坑から外へと向かった。


そして、とうとう廃坑の外へ出るとまだ周囲は明るい。


見上げれば太陽が高い位置にあり、どうやら昼くらいの時間帯のようだ。


いまさらだが、この世界には転生前にいた俺の世界と同じく朝、昼、晩の概念があり、太陽も月もある。


そのへんが同じということは、地球という惑星と似た環境っぽいようだ。


俺のいた世界には魔物とかスキルなんてものはなかったが。


そんなことより、



「あ・・・」



俺は思わず、「あ」なんて間抜けな声を出してしまった。



「んなっ!? お前、どうして! 」



何故なら、廃坑に出てすぐに俺が会いたくて会いたくてしょうがない男が前方に立っているのだ。


その男とは斡旋所の男。


廃坑から出てきた俺達に対して、この男は反対の方向の林を背にして立っていた。


俺が廃坑から出てきたことがよほど驚くことだったのか目を丸くして顔面蒼白の様子である。


なにその面白い顔! ウケる!



「どうしてって・・・この中にいたデカい蝙蝠を軽くひねってきただけだが? 」



軽く怪我したけどな。



「軽く・・・? いや、あのカマソッソを倒した? バカな! あれはお前ごときが倒せる魔物ではないんだぞ! それにどうやって脱出を・・・」


「ほう! あれはカマソッソという名前の魔物だったか。さすがは雑兵の斡旋所の管理をする者だけあって博識だな」



カマソッソって、面白い名前だな。



「うぐっ・・・い、いや・・・」



俺の煽りに対して、斡旋所の男は口ごもる。


今更そんな態度をする必要もないだろうに。


俺達を廃坑に閉じ込め、銀蝙蝠の魔物もといカマソッソと戦わせたのは、この男の一計によるものだ。


それで、今ここにいるのは、おおよそ俺がちゃんとカマソッソに殺されたかを確認しに来たのだろう。


結果としては、ただ俺達に間抜け面を晒しに来ただけに終わったが。


さて、なんにせよせっかく会いに来てくれたのだから、ゆっくりとお話でもするとしようか。



「く、くそぅ・・・だが、だが! これも想定内のうちだ」



いや、まだ話をするのは少し先になりそうだ。


想定内ってなんだよ。


なんでビックリしたんだよ。



「このときのために来たんだからな! お前達! 」



斡旋所の男の号令で、林の木の影や茂みの中から複数人の男性が現れ、ぞろぞろと斡旋所の男の前に並び立つ。


人数は十人。


服装からして全員雑兵。


この中には、俺達を廃坑の中に誘い出したであろう男の姿もあった。


雑兵から斡旋所の男の取り巻きにでも転職したのか?


と、軽口を叩いてやりたいところだが、そういう雰囲気ではないようだ。



「サタトロン様、何か様子が変です」



ビショップもそれを感じ取ったらしい。


俺の隣に立つ彼女は、前方から目を離すことなく小さな声で伝えてきた。


雑兵達の様子がどこかおかしいのだ。


見た目におかしなところは見られない。


雰囲気がどこかおかしいのだ。


上手く言い表せないのだが、人というか魔物と対峙している気分だ。


気味が悪い。



「ふん。どうやら感づいているらしいな。つくづく恐ろしいガキだよ、お前は」



斡旋所の男がなんか言ってる。


この流れはどうやら説明してくれる感じか?



「いくらお前が強かろうが、このグウル複数を相手には流石に出来まい! さあ、お前達! 見せてやれ! 」



斡旋所の男の掛け声で、雑兵達が呻き声を上げ苦しみだす。


急になんだよ。


と思ったら、雑兵達の体に変化が現れた。


体がぶくぶくと膨れ上がり、肌の色は生肉のような薄暗い赤色に変化。


雑兵達は化け物の姿に変貌した。


体毛は無く、服も溶けてなくなっており、体が膨れ上がった分体格も筋肉も元より大きくなっている。


全身と一言で表すのなら筋肉の塊。


顔は目や鼻はなくなり、ギザギザの鋭く長いキバが並んだ口のみ。


左右非対称で、右腕は五本指で先端には鋭く長い白い爪が伸び、左腕は指はなくサイの角のような白くて大きな突起物が生えている。


もはや人ではなく魔物の姿だ。



「ハハハ! どうだ? 恐ろしいだろう? これが俺の最強のしもべ達、グウル共だ! 」



なにがおかしいのか斡旋所の男は笑い声を上げており、ずいぶん楽しそうだ。


あーうん、グウルね。


変身したのは正直驚いたけど、見た目がキモくなって、ちょっといかつくなっただけじゃん。


どのグウルも同じ見た目から察するに、これ雑魚敵の部類でしょ?


強敵としてはもう一歩のところだろうけど、雑魚敵としてはグッドデザインじゃない?


俺の部下のデザインとしてはノーサンキューだけども。


あと、どうせこいつら以外にもどこか別の場所に沢山いるんでしょ?


全く同じか少しアレンジの入った奴が。


うーん、予感がする。


俺が悪の組織を立ち上げ、その後の活動をする先々で沢山見る機会がありそうな予感がするぞ。


予感がするだけで実際には、まだどうか分からんけども。


それにしても、雑兵達はグウルという魔物かはたまた別の部類の化け物に変身したわけだが、これは[怪人化]のようなスキルによるものなのだろうか?


いや、違うか。


ここに来た時点で元々こうだったんだ。


こいつらが現れた時に感じた雰囲気は気のせいではなかったようだ。


人間の姿はかつてのこいつらの本当の姿だったのだろうが、今はこれがこいつらの本当の姿なのだろう。


最低限人間のふりができる魔物とでもいったところか。


本人の意思か定かではないが碌でもないことをされたようだ。


ひでぇことしやがる。


斡旋所の男の独自の力によるものとは考えられないし、この人をグウルとやらに変身させる能力を持つ何者かあるいは組織がバックにいるっぽい。


聞きたいことが増えたな。



「サ、サタトロン様、こいつらです・・・」


「こいつらとは? 」


「今、はっきりと思い出しました。あの時、私達を襲ったのは、こいつらだったのです」



何を言い出したかと思えば、ビショップは変貌した雑兵共もといグウル達を見て思い出したようだ。


そういうことか。


長らく疑問に思っていたことがこれで解消された。


情報屋が言うには雑兵達が貴族を殺害する目的で護衛依頼に参加したという情報。


しかし、ビショップが言うには実際には魔物に貴族は殺されたという証言。


この二つは食い違いではなく、どちらも真実だったのだ。


雑兵達は護衛依頼に参加し、グウルに変身して護衛の騎士もろとも貴族を殺害した。


これが真実なのだろう。


ビショップに出来ていた腹の刺し傷もグウルのあの左腕に貫かれたのだと思えば納得がいく。


それともう一つ分かったことがある。


それは護衛依頼の時に現れた山羊の魔物も斡旋所の男の手引きによるものだということ。


山羊の魔物に襲われる前に雑兵達は消えていたのだ。


思えば、これは偶然にして出来すぎている。


今回のように、山羊の魔物も斡旋所の男が操っていたのだろう。


その操る方法がどんなのかは見当もつかないが、何かしらで操っているような雰囲気だ。


あー、この色んなことが繋がってどんどん分かっていく感覚いいねぇ。


スッキリして、とても気持ちがいい。


さてと、そろそろこちらも動くとするか。


新しいレアな因子も手に入ったわけだし、ちょうどいいタイミングだ。



「行くぞ、ビショップ。[怪人化]だ」



隣にいるビショップだけに聞こえる声のトーンで言った。



「よろしいのですか? 」



ビショップが確認してくる。


彼女も俺に合わせて、声のトーンは小さい。


俺がスキルを所持していること、もとい[怪物化]や[怪人化]が出来ることを周囲に隠していることはビショップにも伝えてること。


それがバレてしまうことになるけどいいのかと、彼女は確認してきたのだ。



「いい。それに元々そのつもりだった」


「皆殺しですね。かしこまりました」



みなまで言うことは無かったのだがな。


まあ、いいか。


斡旋所の男には話を聞く用事があるが、最後には全員死んでもらう予定だったのだ。



「では、共にいたしましょう。その時に合図をお願いします」



お、分かっているじゃん。


ただ、このまま粛々と[怪人化]して、こいつらをボコすのは芸が足りない。


口上の一つでも言ってやりたいところだったのだ。



「光栄だな、お前達! 」



俺はビシッと斡旋所の男に指を差す。



「お前達が史上初だ。この俺の真の力を刮目し、幸運にも最初の犠牲者となるのだからな! 」


「なにを言っている? 真の力? 犠牲者だぁ? ハハハ! なにをほざいてやがる! この絶望的な状況を見て頭がおかしくなったかぁ? 」



そんな俺を斡旋所の男は笑った。


余裕の様子だ。


自分達の勝利を微塵も疑っていないらしい。


そうでなくてはな。


その余裕ぶった面からどんな間抜け面になるか楽しみでしょうがない。


さっきよりも面白い顔になることを期待する。



「そちらこそ何を言っている? 絶望的に終わっているのはそっちだぞ。さあ、見るがいい。俺の・・・俺達の真の力を」



ビショップに視線を向け目配せを行う。


彼女はコクリと頷いており、準備は万全のようだ。


じゃあ、やるとするか。



「「[怪人化]! 」」



俺とビショップの二人は同時に[怪人化]を行った。


その瞬間、俺達はカッと眩い光に包まれる。


ようやく、ようやくか。


[怪人化]の最中、俺は心の中でそんなことを思っていた。


この時、俺は少しテンションが上がっていたのかもしれない。


なにせ、これが初めて自分のスキルをビショップ以外の人前で使うことになるのだから。


思えば、ドラゴロッソの家にいたときからか。


自分の野望のためとはいえ、スキルを使えないことを隠し続け、散々疎まれバカにされてきたものだ。


雑兵になった当初もスキルが一つも使えないことを笑われ、なかなか認められず苦労したものだ。


この斡旋所の男もかつては、俺を笑い認めなかった奴の一人。


全てを見返せるというわけではなくそれを望んでいるわけでもないが、これで少し気分が晴れるような気がする。


いや、まずその前にグウル共をなんとかしないといけないか。


得体のしれない相手だ。


負ける気はしないが、油断せず皆殺しにするとしよう。


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