第17話 廃坑に轟く大咆哮


 「・・・そうか! 」


大量の岩石の山に埋もれる中、俺は閃いた。


銀蝙蝠の魔物は、音で周囲の状況を把握しているのかもしれないということをだ。


蝙蝠は超音波を出して、それの跳ね返りで物体の距離を測っている。


それで障害物をよけたり、獲物である虫を捕らえているのだ。


と、転生前にテレビの動物番組で学者さんが言っていたような気がする。


奴も蝙蝠の見た目をしているし、暗闇の中でも平気で飛んでいるようだし、この推測はなかなかいい線いってると思う。


であれば、どうにかして強烈な音を奴に食らわせれば動きを止められるかもしれない。


音で周囲の状況を把握しているということは、耳が発達しているということ。


超音波はたしか人間には聞こえない音で、それが聞こえるということは耳がすごい良いということに違いないのだ。


いや、待てよ。


逆に蝙蝠は俺達の声は聞こえないということにならないか?


だとしたら、強烈な音っていうかバカでかい音を出しても意味無くね?


いや、あいつ図体が俺の知っている蝙蝠より数倍でかいし、きっと聞こえるだろう。


いけるっしょ。


しかし、肝心のバカでかい音を出す手段がないのでは?


俺は持っていない。


ビショップは持っているだろうか?


彼女の[汎用魔法 初級]のスキルで、なにかいい感じの魔法が無いか詳細を見てみよう。


[〇〇魔法 〇級]といった魔法スキルは、そのスキル一つでいくつかの魔法が使るらしい。


まだ初級しか知らないが中級、上級と色んな段階があるらしく、上の段階にいくにつれ強力な魔法が使えるそうな。


スキルウィンドウから魔法スキルの詳細を見れるらしく、その魔法スキルで使用できる魔法を確認できるのだ。


のだ、と偉そうに言ったがこの辺の情報はビショップから聞いたもの。


ちなみに、[究極 黒撃魔法カオスブラスト]は、それ単体で一つの魔法らしく特殊な魔法スキルのようだ。


どんなのか見てみたいので、そのうちどこかで試し撃ちをさせるとしよう。


さて、時間はないので、さっさと確認するとしよう。


スキルウィンドウオープン!



――――――――――――

サタトロン(地龍)


アクティブスキル

●[怪物化] 

●[怪人化]

●[因子付与]

●[咆哮]

●[熱砂ブレス]

●[ショックウェーブ]


パッシブスキル

●[因子回収]

◆[大地の龍鱗]

――――――――――――



あれ、なんか違くね?


あ、これ俺のやつだわ間違えた。


うーん? なんか知らないスキルがあるんだけど、これ本当に俺のか?


・・・いや、俺のだわ。


なんかいつの間にか新しいスキル覚えてる!?


どこでいつ何がきっかけでスキルを覚えたのだろうか?


ゲームだと、敵を倒して経験値を溜めて、レベルアップすれば技か魔法を覚える感じだけどそれか?


最近だと山羊の魔物を倒したからとか・・・


いや、あいつを倒した後、ビショップのスキルウィンドウを見た後自分のも見たじゃん。


その時は四つしかなかったじゃん。


っていか五年雑兵として魔物と戦ってきて、一つもスキル覚えてないじゃん。


うわー何が原因なんだおおおおおおお!?



「わわっ、どうなさいましたか!? 」


「あ、悪い。なんでもない」



俺が急に頭を抱えたことで積みあがった岩石の一部が崩れ、何事かとビショップは驚いたようだ。


ごめん、本当に面目ない。


考え事に没頭しすぎて、地龍に変身中で岩石の山の中に埋もれていることを忘れていた。


バカすぎる。


待てよ、今俺って地龍じゃん。


変身した状態でスキルウィンドウ開いたの今が始めてかも・・・


ああ、なるほどな!


ひょっとしたら、[怪物化]すると変身した因子が持つスキルを使えるようになるかもしれない。


ビショップみたいに変身しなくても使えるようにしとけよとは思うが、まあそうなっているのだから仕方あるまい。


ひとまず、それは一旦置いといて、今の地龍の状態でよさげなスキルがあったぞ。


それはもしからしたら、ビショップも使えるのかもしれない。



「ビショップ、良い作戦を思いついたぞ」


「・・・! 流石でございます。我々の勝利です! 」



腹の下から、喜ぶビショップの声が聞こえる。


彼女いわく、俺達の勝ちらしい。


早い早い早いよ。


作戦の内容もまだ言っていないのに、気が早すぎる。


滅茶苦茶俺のこと信頼してるじゃん。


ありがとな!



「作戦というのは、まず俺がこの邪魔ったらしいこの岩山を吹き飛ばした後、ビショプも[怪物化]するんだ」


「はい。それで、その先は? 」


「スキルウィンドウを開いて、これから言うスキルがあったら、それをすぐ使うんだ。いいか? そのスキルは・・・」



俺はビショップに存在を確認してほしいスキルの名前を伝えた。





 俺がビショップに作成の内容を伝え終わってほどなくして。


岩石が降ってこなくなった。


銀蝙蝠の魔物が天井の岩壁を削るのに飽きたのだろうか。


いや、恐らくは俺が積もった岩石の山を吹き飛ばすのを待っているのだろう。


岩を落とすのをやめたのは、俺にチャンスだと思い込ませるために違いない。


そして、まんまと奴の思惑に乗り、岩石の山を吹き飛ばすため俺が体を起こした時、無防備になったビショプに攻撃するつもりだろう。


奴は今、どこかで今か今かと待っているのだろう。


絶対に自分の勝つと確信しているのだろう?


感謝するんだな。


実際にお前の思い通りになるか、その思惑に乗ってやるよ。



「あ、せーの・・・どっこいしょおおおおおお! 」



俺は勢いよく体を起こして、背中や周囲に積もっていた岩石を弾き飛ばす。


今、俺の体は二本の後ろ足と尻尾の支えで、直立に立っている状態だ。


腹の下にいたビショップは無防備。



「ギエエエエエエイ!! 」



絶好の好機だと言わんばかりに、銀蝙蝠の魔物が飛翔しながら接近してくる。


奴が来る方向は、俺に対して側面。


横からビショップに突進するか、爪でえぐり殺そうというのだろう。


ビショップは見た目、か弱い少女だ。


造作もなく殺せると思っているんだろう。



「[怪物化]! 」


「ギ、ギエッ!? 」



だから、銀蝙蝠の魔物は面食らっただろう。


ビショップが突然、巨大な魔物に変身したのだから。


彼女は、あの時と全く同じ姿に変身した。


黒い体毛で前足はなく、二本の後ろ足で立ち、背中には一対の翼が生えた異様な山羊の姿だ。


体の大きさは地龍と同じくらいで、その二体が並ぶとかなり圧を感じることだろう。



「ギ、ギエエエ!! 」



一瞬、ひるんだ様子の銀蝙蝠の魔物だったが、ビショップの攻撃は続行するらしい。


再び加速して、こちらに向かってくる。


いいぞ。


あとは[怪物化]したビショップがあのスキルを持っているかどうか。



「あったか!? 」


「ありました! 」


「よし、行くぞ! 」



俺達は大きく息を吸い込んだ。


スキルを使う準備である。


そして、銀蝙蝠の魔物に目掛けて、



「ギャオオオオオオン!! 」


「ブエエエエエエエエ!! 」



全力で雄叫びを放った。


これは[咆哮]というスキル。


時間がなくて、どんな効果があるかは分からないが使えばでかくて強烈な音を出せると考えたのだ。


その考えは正しかったようで、目の前に立つビショップの雄叫びは、かなりうるさい。


耳を塞ぎたいところだが、ビショップも同じ気持ちだと思うので我慢する。


あと、ビブラートがかかっているような気がする。


さてはこいつ歌上手いな?



「ギッ・・・ギャアアアアアアア!! 」



それで、実際にやってみて結果はというと、なんか思ってたのと違った。


一瞬、銀蝙蝠の魔物の動きが止まったかと思えば、奴の飛行速度と同じくらいの速度で吹っ飛んでいったのである。


「は? なんで?」と疑問に思ったが、すぐに分かった。


俺とビショップの凄まじい雄たけびというか声量は衝撃波になっていたようだ。


俺達の足元には多少の岩石が残っていたのだが、今はなくなっているので、銀蝙蝠の魔物と同じく吹き飛んでいったのだろう。


銀蝙蝠の魔物は吹き飛んでいる間身動きが取れなかったようで、そのままの勢いで岩壁に激突する。


その勢いは岩壁にクレーターができるほど。


銀蝙蝠の魔物は、少しの間岩壁に張り付いた後、力なく落下した。


まあ、動き止めれたので結果オーライ。



「総帥、我々の勝利です」



山羊の魔物の姿のまま、ビショップが言った。


当然ですねと言わんばかりに、淡々とした口調であった。


もう銀蝙蝠の魔物を倒したのだと思っているのだろう。



「・・・いや、まだだ。まだあいつ生きてる。生きてるぞ! 」



だが、俺は違う。


落下した後、銀蝙蝠の魔物の体がピクリと動いていたのを俺は見逃さなかった。


奴はまだ生きている。


まだ空に飛ぶ力が残っていると厄介だ。


ここで完全にぶち殺さなければ。



「うおおおおおおお!! 」



銀蝙蝠の魔物の元へ俺は向かう。


地龍のままでの四足でドタドタと駆けずりながら。



「ギギ、ギエエ・・・」



俺が睨んだ通り、銀蝙蝠の魔物は体を起こした。


そして、バサッと翼を広げ始めた。


一回羽ばたいただけで、宙に舞い上がれるのかもしれない。


全速力のつもりだが間に合わないかもしれない。



「させるかあああああああ!! 」



だから俺は、力いっぱい前方に向けて跳躍した。


俺の視界の中の奴の姿が大きくなっていく。


まるでミサイルにでもなったかのような凄まじい速度だ。


そのままの勢いで、口をガパリと大きく開いて、



「ギャエ!! 」



銀蝙蝠の魔物の首に食らいついた。


間に合った。


「いい声出るじゃねぇか! 」


あの散々俺達をコケにしたクソ蝙蝠の悲痛な叫びを間近に聞くことが出来て心地いい。


「もっと聞かせろよ・・・っと! 」


それから、俺は食らいついたまま首を大きく振り切る。



「ギャアアア!! 」



銀蝙蝠の魔物が悲鳴を上げる。


悲鳴を上げるのも無理もないだろう。


口の大きさほどの肉を食いちぎってやったのだ。


食い千切ったとこらから、噴水のように盛大に血しぶきが上がる。


「おお、おお! 景気いいねぇ! 」


ざまぁ見ろ。


思い知ったか。



「まだだ。まだ足りない」



だが、足りない。


こいつを殺すには、これで充分なのかもしれない。


だが、俺の怒りはまだ収まらない。


俺の部下を殺そうとした罪。


それを償わせるには、命が尽きるその時まで蹂躙し蹂躙し尽くさなければいけないと思った。



「ギャオオオオオオン!! 」



それから俺は、銀蝙蝠の魔物の体を食い千切り、爪で抉り、踏みつけるなどをして蹂躙し続けた。


千切れた手が舞い、内臓が飛び出し、骨が砕ける。


もう銀蝙蝠の魔物の体がただの肉塊になろうも、俺は蹂躙は止まらない。





 あれから、数分の時間が経っただろうか。


俺は今、地龍に変身したまま、ぼうっとしていた。


いや、少し違うのかもしれない。


銀蝙蝠の魔物を蹂躙し尽くした余韻に浸っているのだと思う。


声に出して言いたい。


あースッキリした、と。



「サタトロン様」



ビショップの声がしたので、そちらに顔を向ける。


彼女は元の姿に戻っていた。


そして、「お疲れ様です」と俺を労った後、チラリと視線を外して、



「おや? 」



訝しむような顔をする。



「ん? どうかしたか?」


「あの・・・魔物の遺体が見当たらないのですが・・・」



彼女の言う通り、銀蝙蝠の魔物の遺体はなくなっていた。


残っているのは、奴から出た血しぶきの跡と血溜まりだけである。


あれー?なくなっちゃったねぇ。


というのは冗談で、俺はどこに行ってしまったかを知っている。



「ここ」



そこに俺は指を差した。


俺の腹である。


地龍の姿は、ずんぐりむっくりで少しお腹が出ているように見えるが、今は普段より大きく膨れている。


もうお分かりだろう。



「え? 何がです? 」



それでも、ビショップは分からないようだ。


そっかー分からないかぁ。



「俺が全部食っちまった」



だから、もう言ってやった。


俺は銀蝙蝠の魔物の体をぺろりと平らげていた。


ムカつきすぎて、体をズタズタにするだけでは満足しなくて、つい食べてしまったのだ。


皮も肉も骨も全部。


うん、ちょっとやりすぎた。


流石に、これはビショップからも苦言の一つも貰いそうだ。


今冷静に自分の行動を振り返ると、かなりヤベーやつだわ俺。


俺って、こんなにキレるとヤバい奴だったっけか?


どこかで失敗しそうな予感がするので自制しなければ。


あ、ちなみに、因子はちゃんと回収済みである。


銀蝙蝠の魔物の因子だってさ。


レア因子ですねぇ!


やったね!


一時はどうなるかと思ったが、怪我の功名ってやつだな。


あ、いてて・・・


そういえば、腹の横を怪我しているんだった。



「サタトロン様、あなた様という人は・・・」



ビショップがため息をつきながら言っている。


顔は俯きがちで、表情は分からない。


ヤベーこれ絶対引かれてるよ。


魔物を生で食うとか完全にやりすぎた。


食べ方が汚い男は嫌われるっていうし、ビショップの俺に対する好感度もこれでダダ下がりのどん底になってしまう。



「ワ、ワイルドがすぎます。普段の冷静かつ威厳に満ちたお姿も素敵ですが、さきほどの猛々しいお姿もその・・・好き・・・です」



顔を赤らめてもじもじしがら、ビショップは言った。


顔を上げ、俺を見る目もどこか熱っぽい。


今のビショップは普段より可愛く見えてドキッとした。


ドキッとしたのだが一瞬でクールダウンした。


だって、これ逆に好感度上がってるっぽいじゃん。


なんでだよ!


あと、冷静かつ威厳に満ちたお姿って普段の俺どう見てんだよ!


そう見えていたらいいなって、俺が思ってたやつまんまだよ!


ありがとな!


というか、これどうすればいいんだ?


どう締めくくればいいんだ?


「やりすぎですよ」って言ってくれてたら、「たははー」で終われたのに・・・


そのつもりだったのに・・・


ああ、もういいや。



「そうか・・・クククッ、ハハハ! ディエーハッハッハー!」



とりあえず高笑いしておこう。


銀蝙蝠の魔物を倒した勝どきということで。


そんな俺をビショップは目をキラキラと輝かせて見上げてくる。


さらに俺の好感度と忠誠心が上がったっぽいな?


もう何をしてもプラスになってしまう。


甘やかしすぎはダメだよ~。


俺ダメダメになっちゃう~。


さてと、高笑いもほどほどにして、さっさとここから出るとするか。


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