第14話 黒幕の行方


 夜、月明かりに照らされる中、情報屋と俺は対峙していた。


ここ斡旋所の周囲は今、人通りはなく静かなものである。


そんな静けさを払いのけようというのか情報屋は手を広げつつ、口を開いた。



「こんな町とはおさらばしてさぁ、王都に行こうよ。そこでサタトロンは傭兵、あちしは情報屋でタッグを組むんだよ」



提案があるというので、提案の内容を離しているのだろうが、まるで自分の夢を語っているようだった。


どうやら俺と共に王都へ進出したいそうだ。


たしかに情報屋は、その情報収集能力で王都でもやっているだろう。


だが、そのパートナーに俺を選ぶ理由が思いつかなかった。


スキルを持っているというのを隠した状態の俺と実力が同じ雑兵は割とけっこういる。


ひょっとしたら、強いやつだっているだろう。


情報屋であれば、それは知っているはずだ。



「それで二人で這い上がって行こうよ! ねえ? サタトロン・ドラゴロッソくん」


「お前! それをどこで」



奴が俺がドラゴロッソの人間だったことを知っていたことに驚いた。


だが、それよりも奴への警戒心が上回ったのだろう。


俺は情報屋を睨みつけ、挙句には殺気も放っているつもりだ



「あちしは情報屋だよ。こんなの簡単に調べがつくよ」



情報屋の態度は変わらない。


俺が警戒することを予想済みなのか余裕の様子だ。



「簡単とはな・・・流石だ。恐れ入る」



口では簡単と彼女はそう言ったが実際はそうではないはず。


自分がドラゴロッソであることはここに来てから口にしたことはない。


秘密にしてたわけではないが言う必要もないからだ。


ドラゴロッソ領に行けば分かるかもしれないが、そこまでに辿り着く情報もなかったはずだ。


どうやって情報を掴んだか全く想像できない。


腕のいい情報屋だとは思っていたが、その評価でもまだ彼女のことを見くびっていたようだ。


こいつは危険な存在なのかもしれない。


ビショップの正体もそのうち暴かれるかもしれない。



「元は貴族なんでしょ? その立場を活かせば、また今より高い地位につくことができるかもしれないよ? ドラゴロッソなんかよりも上の地位にだってさ」



情報屋が俺に目を付けた理由が少し分かったような気がする。


雑兵としての実力を見ていたわけではなく、俺が貴族の家の出身だったことを重視していたようだ。


元ドラゴロッソの俺を担ぎ上げて俺を高い地位に人間にし、その甘い蜜を啜るのが目的らしい。


貴族の家から追い出された俺が貴族の地位に戻るあるいは、ドラゴロッソより高い地位になれるかは疑問だが、



「ねぇ、貴族に戻りたくないの? いいじゃん、今みたいに魔物と戦って、やっとお金が入るようなクソみたいな生活から抜け出せるんだよ? 」



情報屋は可能だと思っているようだ。


彼女は先ほどから気分が上がっているのか声のトーンが明るい。


テンションが高いというやつだ。


その場の勢いで耳辺りのいいことを言っている可能性もあるだろう。


あと、俺を利用する気満々なのも不服だ。


だが、今より楽に生きていけるのは素直に良いかもしれない。


情報屋の提案は素直に魅力的だと思う。



「・・・ふぅ、なるほどな。それもいいかもな」



ため息をつくと同時に奴への警戒を解く。



「・・・! それじゃあ! 」



情報屋の顔が嬉々としたものになる。


そんな顔を見たのは初めてかもしれない。


奴を危険人物として認定はしたが長い付き合いだ。



「いや、断る。こちらにも事情ってやつがあるんだ。悪いな、お前の提案には乗れない」



だからか少し、ほんの少しだが心苦しかった。


俺は情報屋の提案を呑むつもりは一切ないのだから。


彼女の目指す場所は俺の目指す場所とは重ならないと思った。


俺が目指すのは世界征服。


王国の貴族とか大臣とか騎士団の団長とか、そういう低い次元で満足するつもりはない。


妥協するつもりもない。


いくら回り道をしようが最後に行きつく先だけは変えるつもりはないのだ。


それに、こいつのことはどこか信用ならないところがある。


こいつが俺に絶対的な忠誠を誓うか完全な対等の関係を誓うのなら話は別だ。


しかし、そんなものはたとえしたとしても形だけで、裏で何をするかは分かったものではない。


今までの情報屋としての付き合いなら問題はないがパートナーとするのなら、その不信感は考えものだ。



「・・・そっか。残念、残念」



そう言って、情報屋は俺に背を向けた。


意外にもあっさりと諦めたようだ。


振り返る前の彼女の顔は本当に残念そうだった。


彼女なりに真剣だったのかもしれない。


色々と思うことがあるが、やはり心苦しい気分になる。


だが、これでいい。


口にした言葉は少なかったが、俺の意思がかたいことが伝わったようだ。



「今日、斡旋所が早く閉まったのは明日のため。明日、ここを出るんだってさ」



切り替えが早くて助かる。


斡旋所の男の行方を教えてくるようだ。


というか斡旋所の男の奴はこの町を出るつもりなのか。


まずいな。


後継が用意されていないと雑兵の仕事がなくなる。


この町は大混乱に陥る・・・だろうが、他のやりたいやつが斡旋所の管理人になるだけか。


杞憂か。


自分が思っているよりも、この町は適当なんだった。



「報酬はお金以外に、それなりの地位と土地が約束されたみたい」


「その用意された土地とやらに行くのか? 」


「ううん、明日行くのはここから北の廃坑。まずはそこで貴族殺害の依頼主の関係者と落ち合うんだって」



ここから北に大きな廃坑がある。


もう目ぼしい鉱石が取りつくされ、人が寄り付かなくなった今は魔物の巣窟となった廃坑の一つだ。


斡旋所の依頼でもここへ来ることはない。


正真正銘の人気のないの場所だ。


斡旋所の管理人ごときがそこまでして人目を警戒する必要あるかと思うが好都合である。


人目につかない場所なら、[怪物化]も[怪人化]も使いたい放題だ。


徹底的に話を聞くことができるだろう。



「それじゃあね。うまくいくことを祈っているよ」



いつのまにか俺は俯いて考え事に没頭していたようだ。


情報屋の声でハッと顔を上げれば、もうそこには誰もいなかった。


たったさっき奴を危険人物に認定したというのに。


野放しにはしないつもりだったが、まあいいだろう。


今は斡旋所の男のことだ。


今日はもう早々に宿に帰り、早めに眠って万全の準備を整えるとしよう。


明日は護衛依頼で俺をコケにした代償を払わせるラストチャンスに違いないのだから。


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