第13話 ビショップのスキル



 「あ、そういえば」



宿屋に戻る途中、ふと思いついたことがあり足を止めた。



「どうかされましたか? 」



俺の一歩斜め後ろを歩いていたビショップが聞いてくる。


急に俺が声を出したものだからか、彼女はきょとんとした顔をしていた。



「ビショップの実力がどんなものか知りたい。少し外に出よう」



ずっと今のままビショップに宿屋で留守番をさせるわけにはいかない。


俺と同じく雑兵となって、資金稼ぎに貢献してもらうつもりだ。


それに向けたちょっとした腕試しをこれからしようと考えたのだ。





 町を出て、その辺をウロウロする。


すると、ちょうどいい魔物を見つけた。


その魔物はデッカラビット。


兎型の魔物で、兎型というだけあって見た目は兎そのもの。


しかい、サイズはでかくて、一メートルくらい。


兎なのですばしっこいのかと言われると、そうでもなくてノロイ。


その上、大人しく攻撃しても反撃はほとんどしてこない。


というか、反撃される前に倒してしまうほど弱い。


ビショップは因子を付与され、元々魔法は少し使えるものの、実際に魔物と戦ったことはないという。


そんな彼女の初戦闘にはうってつけの相手だ。


デッカラビットもそこに三匹いるので、色々と試せそうだ。



「準備はいいか? 」


「はい! 」



元気よく返事をするビショップ。


彼女は今、剣を両手に構えてデッカラビットを見据えていた。


その剣は町を出る前に買ったもの。


魔法が使えるということで、魔法主体で戦ってもらうつもりではいるが一応剣術というか腕力を見ておきたかった。


さらには胸当てと小手も買い、それも身につけさせている。


万が一危なくなったら助けにはいるつもりではいるが念のためだ。


大事な部下を失いわけにはいかないからな。


だが、デッカラビット相手ではやりすぎだろうか。


ちなみに、スカーフは念のため口元に巻いたままだ。



「まず剣で攻撃してみろ」


「やああああああ! 」



剣での攻撃を指示すると、気合の掛け声と共に突撃し、大きく振りかぶって剣を振る。


力任せに剣を振ったようで、素人同然の動きだ。


やはり、剣の稽古は受けていないらしい。


だが、それでもデッカラビットは銅を真っ二つに切断されて絶命していた。


見た目華奢だが腕力はあるらしい。


というか、魔物を殺したの初めてなんだろうけど、全く躊躇いがなかった。


俺も平気だったけど、案外そんなものかもしれない。



「次は魔法スキルであのデッカラビットを攻撃だ」


「はい。[火炎魔法 初級] ファイアーボール! 」



ビショップは、押し出すように両手を前に突き出す。


すると、前方に向けられた両の手のひらの先の空間に炎が発生する。


ちょうど、前の世界の八百屋に売っていたスイカくらいの大きさだ。


炎出た! すげーこれが魔法かぁ・・・あれ? ちょっとでかくない?


スイカくらいの大きさだったのだがみるみると大きくなり、公園の丸い回転遊具並みの大きさになった。


メラメラと揺らめく感じだった炎も今は轟々と激しく燃えている。


それが前方に放たれ、大きく爆発した。


その直後、凄まじい衝撃波と共に熱気が周囲に放たれる。


「あっ!! 」


それをもろに食らった。


しかし、あっつ!!と言いたいところをあっで留めておくことが出来た。


ビショップという部下の手前、この程度のことでうろたえるわけにはいかない。



「ど、どうでしょうか? 」



魔法を撃ち終わり、くりると体を向けてくるビショップ。


この程度ですけど大丈夫ですか?的な感じで自分を低く見ているのだろう。


いや、大したものでございます。


三体いたデッカラビットは跡形もなく消えているどころか地面抉れてるじゃん。


というか、山羊の魔物の魔法よりも強いのかもしれない。



「よくやった。今のが魔法で・・・[火炎魔法 中級]だったか? 」


「いえ、今の[火炎魔法 初級]のファイアボールです。[火炎魔法 中級]は使えません」



今ので初級? そんなバカな。


魔法スキルは持っていないし、詳しくはないが今のが初級は違うだろ。


ひょっとして謙遜してる?



「お前のスキルを見させてくれないか? 」



所持しているスキルは、ゲームのウィンドウみたいな形で表示させ閲覧することができる。


安直だがスキルウィンドウと呼ぶことにしよう。


俺はビショップのスキルウィンドウを開いてもいいか問いかけたのだ。


直接見て謙遜かどうか確認してやる。



「私のスキルを見ることができるのですか? 」



ビショップは目を丸くする。


スキルウィンドウは基本自分のものしか見ることはできない。


他人の所持スキルを見るには、[スキル鑑定]というスキルが必要だ。


人だけじゃなく、魔物のスキルウィンドウも開けるらしい。


自分よりも実力のある人物については、一部あるいは全てのスキルを見ることはできないという制約があるらしいが。


そんな超便利でレアなスキルを残念ながら俺は持っていない。


しかし、なせか俺はビショップのスキルを見ることができる。


ここに来る前に見えるかなと思って試したら出来た。


その時、ビックリして「うわっ」って声が出て、ビショップに心配されたものだから恥ずかしかった。


見れる理由としては因子を付与したからだろうか、それともビショップが俺の部下になったからだろうか。


まあ、見れるものは見れるということで理由はなんでもいいか。



「ああ、見れる。で、どうだ? 」


「少々お恥ずかしいですが、どうぞ」



ビショップはほんのり顔を赤らめながらも了承してくれた。


ちょ、裸を見るわけじゃあるまいに。


いや、俺が知らないだけで自分のスキルウィンドウは裸を見られるほど恥ずかしいことなのかもしれない。


心音を確かめる医者のような心づもりでやるべきなのか?


って、そんなわけあるかい!


余計なことは考えないで、さっさと見てしまおう。


さて、どんなものかな?


さっきは一瞬だけだったので、どんなスキルがあるかはいくつスキルがあるかはこれで初めて見ることになる。



――――――――――――――――――――――――

ビショップ


アクティブスキル

●[怪物化]

●[怪人化]

●[火炎魔法 初級]

●[氷結魔法 初級]

●[雷撃魔法 初級]

●[黒撃魔法 初級]

●[汎用魔法 初級]

◆[魔法強化 初級]

★[究極 黒撃魔法カオスブラスト]


パッシブスキル

●[魔力増強 初級]

●[属性耐性<火炎> 初級]

◆[角獣の蛮力]

――――――――――――――――――――――――



せっかくなんでアクティブスキルとパッシブスキルに分けてみた。


は? はああああ!?


ビックリなんだけど!


まって、スキル多くね?


うわわわ、ちょっとやばいかも。



――――――――――――――――――――――――

サタトロン


アクティブスキル

●[怪物化]

●[怪人化]

●[因子付与]


パッシブスキル

●[因子回収]

――――――――――――――――――――――――



だって、俺のこんなだぜ?


いや、少ねーだろ。


なんで、部下のビショップの方が多いんだよ。


しかも、どれも強そうだ。


なんだよ[究極 黒撃魔法カオスブラスト]って?


カッコイイじゃん、必殺技かなにかか?



「あ、あの何かお気に召さないスキルでも・・・」



おずおずとしながらビショップが聞いてくる。


上目遣いでなんとも自信なさげというか、怯えた様子である。


いかにも、か弱い女の子だ。


信じられるか? こんな子がぶっ放すんだぜ?


[究極 黒撃魔法カオスブラスト]を。



「いや・・・いっぱいスキルがあっていいなと」



素直な感想を言う。


もっと良い感じの言葉があったのかもしれないが、これしか出てこなかった。



「え・・・そのような。私が扱えるスキルなど[汎用魔法 初級]と[火炎魔法 初級]くらいなものです」



何を言っているんだろうこの娘は?


謙遜しすぎじゃね?


とは、思ったものの何か違うような気がした。


ビショップは[汎用魔法 初級]と[火炎魔法 初級]くらいしかスキルはないと言ったのだ。


え、全然違うんだけど。


どういうことだろうか?



「自分の目で確かめてみろ」


「は、はあ・・・え!? 」



自分のスキルウィンドウを表示して見たのだろう。


彼女は咄嗟に口元を手で押さえてしまうほど驚いていた。


え? なに?


急にスキル増えてました的な感じ?


そんなわけ・・・あるかも。


原因は[因子付与]かもしれない。


山羊の因子を付与したことによって、その魔物が持っていたスキルを取得した可能性がある。


あるいはビショップの潜在的な力が[因子付与]をトリガーにして、スキルとして発現したか。


なんにせよ、部下が強いことに悪いことではない。


むしろ良いことである。


俺の方がスキル的には弱い感じになってはいるが、それは今後どうにかなるだろう。


きっと、きっっっっっとそうに違いない!


それは一旦置いといて、今はビショップのことだ。



「その様子を見るに知らない間にスキルが増えていたようだな」


「え、ええ・・・あ、もしかして、サタトロン様に救っていただいたから・・・」



ビショップも[因子付与]が原因だという可能性が高いと思ったようだ。



「なんと・・・うれしゅうございます。この力、必ずやサタトロン様のお役に立たせてみせます」



感極まったのか口元を出て押さえ、目に涙を溜めながら言ってきた。


可能性というかもう断言の域であった。


自分が意図してやったわけでもないので、「お、おお・・・」とか「そ、そうか」というのが正直な気持ちである。


だが、それをのまま口にするのは格好がつかないような気がするので、分かったかのようにただ頷くだけにしておいた。



「さ、腕試しはこれからだ。新たに得た力を存分に試すがいい! 」



バッと、手を貸さしながらビショップに指示を出す。


うーん、良い。


やっぱ部下がいると、悪の組織の総帥ムーブが捗る。



「はっ! 総帥の仰せのままに! 」



ビショップも跪いて俺のノリに付き合ってくれる。


本当、この娘いいこやわぁ。


それから俺達は試し切りならぬ試しスキルをするため、手ごろな魔物を探しにいくことにした。





 あれから数時間が経ち、今は夕方。


俺はというと宿屋に戻っており、



「ふぅ・・・」



と、椅子に座り一息ついていた。


ベッドにはスヤスヤと眠るビショップの姿がある。


あれから、どうなったかといえばビショップにスキルを使いさせまくっていた。


その結果、急に糸が切れたマリオネットのようにぐったりと動かなくなったので、こうして宿屋に運びベッドに寝かせていた。


大事にならないか心配で焦ったが心配ないようだ。


何が起こったかといえば、魔力切れである。


彼女が持つスキルは大半が魔法スキル。


魔法スキルは使用する度に、その魔法スキルに見合った魔力を消費するという性質がある。


要は魔法スキルを使いすぎて、魔力切れを起こしたということだ。


ゆっくり一晩寝れば回復することだろう。


一つ問題があるとすれば、魔力切れが思ったよりも早かったことだ。


これに関しては、おおよその原因は掴めている。


それは彼女の持つスキル[魔法強化 初級]が魔力切れを早々に起こした原因だろう。


このスキルの効果は消費魔力を通常より多くする代わりに、魔法スキルを強化するもの。


アクティブスキルにカテゴリーされ、使用する意思がなければ発動しないはずだが、どういうわけかパッシブスキルのように常時発動するようになっているようだ。


よって、ビショップの使うどの魔法スキルも、初級であっても中級並みに威力が高いものになっており、消費魔力もその分膨大なものになっていた。


俺が気づいてやればよかったのだが、魔法スキルは持っていないので気づくのに時間がかかってしまった。


起きたらこのことを伝えて、気をつけるよう言い聞かせるが俺の方でも注意することとしよう。


さて、もうじき夜になるので斡旋所に向かうことにする。


ちょうど斡旋所の店仕舞いの時に、ちょうど斡旋所の男に会えるかもしれない。





 「・・・そのはずだったんだがな」


結果、斡旋所にはもう男の姿はなかった。


斡旋所の扉は施錠されており、すでに店仕舞いは終わっているようであった。


少し来るのが遅かっただろうか?


いや、そんなことはない。


ギリギリにならないよう余裕をもって、少し早めに来たのだから。


それから、ちょうどを装って、斡旋所の男に声をかける手はずであった。


どうやら今日は少し早めに店仕舞いをしたそうだ。



「・・・まあ、そんな日もあるよな」



間が悪かったということで、今日は引き上げることにする。


明日聞けばいいだろう。



「明日もいないかもよ」



斡旋所に背を向けて、帰ろうとしたとき声が聞こえてきた。


俺の心の中を覗き見たようで気味が悪い。


上から聞こえてきたので、振り返りつつ見え上げてみる。


すると、斡旋所の屋根の上に人がいた。


いや、人と表現する必要はない。


何故なら、その人のことを俺は知っているからだ。



「情報屋」



屋根の上に立っていたのは情報屋。


いつもと変わらない小汚い風貌で、こちらを見下ろしている。


なんの用だろうか?


それを口にする前に、彼女は屋根から降りて俺の目の前に着地する。



「今日いないからって、明日もここに来るつもりなんでしょ? なら、無駄だよ」


「どういうことだ? 」



俺の問いかけに対して、情報屋は手を突き出し、二本の指を立てる。


二万ギラ欲しいということだろう。


俺は黙って金貨の入った袋から、五枚の金貨を取り出して情報屋に向けてほうり投げる。



「お! 気前がいいじゃない! 」



手慣れた様子で、宙に舞う金貨を情報屋を腕を一振りするだけで全て手に持つ。



「二万ギラで足りた情報はない。どうせそのくらい取るつもりだったんだろ? 」


「ひひひ、あちしの理解度が高くて嬉しいねぇ」



ニヤニヤと笑いながら、情報屋は手に持った金貨を服の中にしまう。



「ほい」



と思いきや、金貨全部を貰うことはなかった。


二枚の金貨を投げ返してきたのである。


三枚だけ受けとったようだ。



「どういうつもりだ? 」


「一つ提案があるんだなぁ」



提案?


情報屋とは情報のやり取りをするだけの関係だ。


こちらから欲しい情報を集めるよう依頼することはあるが、向こうから何かを依頼されたことはない。


提案もされた覚えはなかった。


珍しいと思うし、何か裏がありそうな気がして少し警戒する。



「ねえ、これが終わったらあちしと王都に行こうよ」


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