第12話 襲撃者の影



 「護衛依頼を受けた雑兵について知っているか?」



あの後、そう付け加えて聞いてみた。


実は、俺は貴族を殺害した人物は護衛依頼に参加していた俺以外の雑兵の誰かだと思っていた。


あの時、山羊の魔物に襲われる直前、護衛の数が減っていたことに気づいたが、それが雑兵達に違いないと思っている。


なにせ山羊の魔物と戦っている最中に、雑兵っぽいやつを見かけていないからな。


それでは少し弱い理由なのかもしれないが、あの場には傭兵しかいなかったことが根拠だ。


ビショップの証言を聞いた今では、それは過去のものになってしまったが。


念のためあの雑兵達が何の目的で護衛依頼に参加したのか分からないかというわけで、情報屋に聞いてみたのだ。


ちなみに、ビショップの口元にスカーフを巻かせたのは、その予想が要因だ。


殺したはずの貴族の娘が生きていると分かれば、何かしらのちょっかいをかけてくる可能性があるからだ。


まあ、歩いて約二日かかるところから数時間で帰れるのは俺くらいで、まだ町に帰ってきてはいないだろうが。


なんにせよ貴族の殺害者が誰かまだ判明していないので、正しい判断だと思う。



「ふーん・・・ま、五万ギラかな」



どうやら何か知っていることがあるらしい。


ギラとはこの国の通貨の名称のこと。


このジャンクヤードでも流通している。


この辺りで一番強い魔物 ベアウルフ一頭討伐で一万ギラの報酬を貰える。


つまり、ベアウルフ五頭分の値段。



「いいだろう」



まあ、俺でも払えなくもない値段である。


腰に下げた袋から、金貨五枚を取り出して情報屋に手渡す。



「まいどありー」



情報屋は渡した金貨を服の中に入れた。


その時、胸倉をグイッと引っ張るのだから目のやり場に困る。


内側にポケットでもあるのか?



「何から話そうかな? そうだねぇ・・・じゃあ、あの護衛依頼に参加した雑兵達の目的は貴族の殺害が目的だったみたいよ」



何度も言うがこいつの情報は信頼できる。


つまり、以前の俺の予想通り雑兵達は貴族を殺害することが目的で護衛依頼に参加したことは確定のようだ。


うーん、そりゃそうか。


雑だがこんな感想しか思い浮かばない。


何故かと言えば、実際に殺したであろう存在は魔物なんだからな。


殺害しようとして、いざ貴族の馬車に向かったら魔物が来て、慌てて逃げていった。


そして、貴族夫婦は殺害され、ビショップは瀕死の重傷を負った。


こんなところだろうか?


そうであれば、目的は達成しているが魔物に獲物を横取りをされたということになる。


ずいぶんとまぬけな話だ。


実際はどうかは分からないが。


そのあたりのことは、たとえ情報屋であっても知る由は無いだろう。


なので、別の知っていそうなことを聞いてみる。



「誰の指示だ? 」


「そこまでは分からないかな。ま、その護衛依頼の貴族に恨みか邪魔に思っている他の貴族の差し金じゃあないかなぁ? 成功報酬がなかなかのものだったみたいだし」



お手上げと言わんばかりに、情報屋は両手を上げる。


大本は他の貴族の指示だろう的なことを言っているが、そんなことは俺でも予想できたし、俺にとってはどうでもいいことだ。


ただ、この町で雑兵達に指示を出した人物の正体が知りたかった。


貴族やその関係者が直接雑兵共に指示を出したとは考えづらい。


きっと、仲介したやつがいるはずだ。



「あ・・・」



何か思い出したかのように、情報屋が口を開いた。


期待が高まる。



「これは確かな情報じゃないんだけど、斡旋所が怪しいかも・・・」



自信なさげに情報屋は言った。


言った通り、これは不確定な情報だろう。


だが、手がかりに繋がるかもしれないことなので、こういうのは正直ありがたい。


それにしても斡旋所だと?


え? なんでだ?



「というと? 」


「うーん、なんか大金が手に入るって、周りに言いふらしてたみたい」


「それは護衛依頼そのもののことじゃ・・・いや、そうか。そういうことか」



ふと、あの時のことを思い出す。


斡旋所の男に依頼が失敗したことを報告したとき、あいつは残念がることもなければ怒ることもなった。


それが不自然に思えたが貴族殺害の件に一枚噛んでいたとすれば納得がいく。


貴族の殺害に貢献したことで、報酬を貰えたんだろうからな。


そうなると、あいつは成功しても失敗しても得をするというわけだ。


なかなかにずる賢いやつだ。



「いや、待てよ・・・あれ? 」



よくよく考えてみると、よく分からないことあることに気が付いた。



「ん~? さっきからブツブツと~自分だけ情報を独占するつもり~? 」


「お静かに。彼は今考えごとをしているのが分からないのですか? 」



さっきまで沈黙を貫いてたビショップが口を出した。


それに「なにを~? 生意気だね~? 」と返す情報屋。


そこから二人は軽い口論になるが俺の耳にはほとんど入らない。


もし斡旋所の男が貴族を殺害する目的で雑兵を雇っていたとしたら、俺は何のために依頼を勧められたのかが分からない。


俺一人が参加しようがしまいが依頼の結果にはさほど影響はないからだ。


むしろ、失敗する可能性の方が高いと思うだろう。


なにせ、この町の者はおろか、あの斡旋所の男でさえ俺がスキルを持っていることは知らないのだから。


そうなると、別の意図があって俺を護衛依頼に参加させたのかもしれない。


その意図に関しては、流石に情報屋も知らないだろう。


知っていたらとっくに言っているはずだ。


ならば、もう直接確かめにいくしかないか。



「ありがとう、色々分かったよ。まだ分からないことがあるから、直接聞きに行くことにする」


「ふーん、いいんじゃない。でも、確かな情報ではないから気を付けて」


「行くぞ、ビショップ。一旦、宿に戻る」



情報屋に背を向けて歩き出す。


数秒遅れて、ビショップも俺の後に続く。


彼女は後ろを振り向く前に情報屋に軽く一礼していた。


殺してやるとか言っていた相手に律儀なやつだ。


おっと、このことはもう忘れるんだった。



「ちょっと! 」



帰ろうとする俺達を情報屋が呼び止める。


いや、正確には俺だけだろう。


なんだろうと振り返ると、情報屋がこちらを見て立っていた。


いつもと変わらず、小汚い風貌でニヤニヤと笑みを浮かべている。


相変わらずよく分からないやつだ。



「その娘、結局なんなの? 」



また、それか。


聞かれるのはこれで二回目。


少ししつこいように思えて、ため息が出そうになる。



「なんでもいいだろ。くせなんだろうが、しつこい詮索はよくないぞ」


「ふーん、言えないんだ・・・」



本当、今日はよく絡んでくるな。


それに厄介なことにビショップのことを聞いてくる。


信用しているがあくまで口から出る情報だけだ。


他に情報を売る相手がいるわだし、ビショップのことを知られれば厄介極まりない。


絶対に話すわけがないのだ。



「・・・じゃあ、いいや」



お、おや?


まくし立ててくるかと思って構えていたが、あっさり諦めた。


よく分からない。



「・・・じゃあな」



どうして聞くのを諦めたのか。


これを聞いてしまうと、ビショップのことを言わなければいけない方向になりそうだったので、早々に引きあげることにした。


なにはともあれ情報は得ることができた。


そして、斡旋所の男に話を聞きにいく予定ができた。


だが、今すぐじゃない。


日が暮れた頃のほうがいいだろう。


場合によっては、暴力沙汰になるかもしれないからな。


さて、それまで何をしようか。


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