第11話 情報屋
ジャンクフィールドは、今は貧しい町と知られているが昔は裕福で栄えていた町であったという。
この町の近辺には複数の鉱山があり、そこで貴重な金属の材料となる鉱石や宝石がよく取れたのだという。
その噂を聞きつけ多くの人が集まり、一時期では王都に次いで人口が多かったそうだ。
多くの人が鉱山に押し寄せて掘りに掘りまくり、鉱石や宝石が取れなくなる鉱山が続出。
この町を離れる人も続出し、みるみると町は廃れていったという。
挙句に町長を筆頭に町の役人すらいなくなり、今もなお不在の状態である。
これがこのジャンクフィールドの町の繁栄から衰退までの歴史だ。
まあ、別に覚える必要はあんまり無いと思う。
だた、この町は昔栄えていたこともあって規模が大きいということだ。
今は区画という分けられ方をされ、その数は三つ。
まずは、雑兵斡旋所区画。
雑兵斡旋所がある区画であり、他にも雑貨屋や武器・防具を取り扱っている店などがある。
雑兵斡旋所の元は町の役場だった建物だし、他にも立派な建物が集まっていた場所なので区画の中では一番リッチ。
あと、この町の中では一番まともな人が多い気がする。
次に、住区画。
元々は家や集合住宅が立っていた場所で、朽ち具合が軽いところを家や宿屋として利用されている。
俺が利用している宿屋もその区画だ。
まともな人とそうでない人の割合はちょうど半々くらい。
いや、たまにとんでもなくやべー奴がいるから、やべー奴の方がちょっと多いかも。
そして、最後に廃墟区画。
この町でも特に荒廃具合がひどい地域で、読んで字のごとく廃墟ばかりなことろだ。
おまけに、チンピラから殺し屋や窃盗などを生業とする極悪人の巣窟と呼ばれている。
一番やべーやつがいる区画だ。
ただでさえジャンクフィールドは底辺な町なのに、さらに底辺のどん底である。
そんな廃墟区画にビショップを連れて、俺は向かっていた。
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「おーい! 俺だ。サタトロンだ」
朽ちて廃墟となった家屋。
そのボロボロになった扉の前で、俺はそこの主を呼ぶ。
「はいはい~、黒鉤爪様が何の御用で~」
少し経った後、ギギギギと耳心地の良くない音と共に扉が開かれる。
すると、中から家屋の主が出てきた。
良かった、留守じゃなかったようだ。
「うっ・・・」
俺の一歩斜め後ろに立つビショップが顔をしかめたのが想像できる。
服は金持っているくせに、ボロイい布の服。
髪はホコリのような黒みがかった灰色で手入れなど全くしていないのかボサボサ。
貧しいというよりかは不潔を体現したような見た目であった。
身長は俺より頭半分くらい高く、恐らくは少し年上。
顔は髪と服装に惑わされがちだが、ちゃんと綺麗で美人・・・であると思う。
美人と表現した通り、この人物の性別は女だ。
初めて会った時からこうなのだが、どうしてこんな感じになってしまったんだろう?
謎多き人物である。
「何の御用とはご挨拶だな。情報を買いに来た以外に用はない」
俺はこいつから情報を買いに来たのだ。
そして、こいつはこんなナリだがこの町随一の情報屋である。
取り扱う情報はこの町のことから町周辺のことまで様々。
俺はというと、雑兵斡旋所が把握していない珍しい魔物の出現状況の情報目当てによく通っていた。
確かに情報は確実で珍しい魔物を狩ることができた。
しかし、因子の質はどれも微妙で、結果的には金と労力を消費しただけだが。
「つれないね~、あちしときみの仲なのにね~。ついに、あちしの白馬の王子様に・・・って、その娘なに? 」
情報屋は俺の後ろに立つビショップに目を向ける。
な、なんだ?
キッと一瞬だけ目が鋭くなったように見えて寒気がした。
そんな剣呑な雰囲気の彼女は見たことが無かったので、少し警戒する。
「えー! 顔隠してるけど、絶対可愛いじゃーん! うえ~ん、浮気物~! あちしとは遊びの関係だったんだ~ぐすん・・・」
うーん、気のせいだったようだ。
情報屋はヨヨヨと呟きながら、顔を手で覆ってウソ泣きを始める。
うわ、めんどくさ。
いつになくめんどくさいよ。
「サタトロン様、この者は? 」
ビショップが俺に聞いてきた。
声音からして、いつも通りの様子。
こいつを前にして冷静とは、ビショップやるな。
いや、冷静というか感情が乗っていなかったって感じだったかな?
「ああ、こいつは情報屋。名前は知らないし、名乗らないので情報屋と呼んでいる」
「情報屋でーす! サタトロン君とは長い付き合いでーす! びゃあ~」
うぜええええええ。
紹介してきてやったというのに、変顔して煽ってきやがった。
なんて失礼なやつだ。
「そりゃもう長い付き合いなものだから、あんなことやあーんなこと、あ・ん・なことまで経験済みだからね~」
「情報を売り買いするだけの関係だったよね!? あとあんなことばっかりじぇねぇか! 」
うわーうざすぎる。
やっぱり、やたらとうざ絡みが激しいぞ。
会う度にうざいけど、今日は一段とうざい。
「気にするなよ。適当なこと言っているだけだからな」
こいつのことはさておき、一応分かってくれているだろうがビショップにあらぬ誤解をさせなければ。
「ふふ。愉快な方ですね。サタトロン様のお付きの者です。よろしくお願いします」
「え? 」
少し驚いて、振り向いてみるとビショップは頭を下げていた。
お、お、お辞儀だと!?
しかも、ワンピースのスカートの部分をつまんでクイッと上げてお上品なやつ。
す、すげぇ、こんな奴相手にも礼をかかさないとは。
普通はブチギレだよ。
だって、俺今すげーブチギレちらかしたいもん。
部下であるビショップの手前、なんとか抑えているけど。
いやーこれは圧勝だよ。
人間のレベルでビショップが圧倒的に勝っている。
天と地の差、雲泥の差、月とスッポン、五十歩百歩。
ん? 最後のはなんか違うか。
ともかく、情報屋はひどすぎてビショップは最高だった。
こんな気品のある部下を持って、なんて俺は幸せ者なんだろうか。
やべ、ちょっと涙出そう。
「・・・ぞ。・・・るぞ・・・」
ん? なんか聞こえる。
かすかにだけど、これは声だ。
ぶつぶつ呟いている感じだ。
どっちだ?
「あっ、ようろ~し~くねええええん! 」
うるせぇな。
この様子だと情報屋じゃないな。
じゃあ、ビショップか。
ブツブツ何を言っているのだろうか。
気になるので、頭を下げたままのビショップに耳を傾けてみる。
「殺すぞ。殺してやるぞ。灰になるまで燃やし尽くしてやろうか、ゲスカス風情が・・・」
呟いていたのビショップさんでした。
しかも、しっかりとブチギレちらかしてたよ。
やべー、押しに押し殺して凝縮された密度の濃い怒声をはっきり聞いてしまったよ。
普段の声と全然違うし、ビックリすぎて逆に声が出なかったわ。
これはアレだ、聞かなかったことにしよう。
なんか、さっきとは違った理由で涙が出そう。
「ま、まあ、挨拶も済んだことだし、話を進めよう。ある雑兵達について情報が欲しい」
なんとか涙を堪えて、情報屋から雑兵についての情報を要求する。
ある雑兵とは、護衛依頼の時に俺の他に依頼を受けていたはずの雑兵達のことだ。
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