第7話 貴族の行方


 山羊の魔物を倒した後、俺は走った。


馬車の残骸の山羊の魔物の魔法の炎で作った松明を持ちながらなので、まるで聖火ランナーにでもなったかのうようである。


「うわっ・・・っとと」


途中、何かに躓き転びそうになったがなんとか持ちこたえた。


それから、躓いた物の正体を見るために松明で照らしてみると、それは騎士だった。


騎士が地面に倒れていた。


ただ倒れているだけではなく、その周囲に血溜まりが出来ていることから、もう死んでいるのだろう。


魔物にでも襲われたのか。


そう思い警戒したが、魔物の気配は感じない。


騎士を倒すほどの存在なのだから今の俺ごときでは気配を感じることはできないのかもしれない。


少し不安になったが、ここまで来たのだ。


俺は前に進むことにした。


すると、歩く度に地面には別の騎士の死体や馬の死体が現れる。


騎士の死体を数えると10体にまでなった。


総数は把握していないが恐らくは全滅だろう。


そうとなれば、貴族の乗った馬車が無事か気がかりだ。



「う・・・マジか・・・」



そんな感じで貴族の馬車の安否を心配していると、停車している馬車を見つけた。


馬車に損傷は見られないが御者は殺されており、馬車を引いていた馬はいない。


しかも一台だけではなく、遠くに目を向ければ同じような状態の馬車がこの馬車を含めて三台あった。


逃げた馬車が何台あったかは把握していない。


俺は一台一台中を調べてみることにした。


まず、最初に見つけた一台目。


幌の中を覗いてみると、大量の服があった。


中に人はいない。


次に二台目。


中は何もなかった。


いや、それはおかしいとよく見てみると、キラリと何かが光ったような気がした。


それを拾ってみると、どうやらそれは宝石のようであった。


恐らく、ここには宝石を筆頭に価値の高い物が積まれていたのだろう。


宝を奪う魔物がいるのか?


そんな疑問は湧いてきたが、今はそれを考えるのはよそう。


そして、最後の三台目。



「なんてこった・・・」



中を覗くと、真っ赤な光景が俺の視界は真っ赤になった。


馬車を包む幌、床面の内部の全てが赤色に染まっていた。


この赤色が何を指すかは最早いうまでもない。


この赤い空間に人が二人。


身なりの良い服装の男性と女性が横たわっていた。


男性の方はシルヴェスターという貴族に違いないだろう。


そうなると、女性は彼の妻のようだ。


なんて、呑気に分析している場合ではない。


これが何を意味しているのかと言えば、護衛依頼の失敗である。


報酬はゼロだ。



「ま、まあ、俺は良質な因子を手に入れたし、それだけで儲けもんだよ」



そんなことを言ってみるが依頼は失敗したのだ。


正直気分が悪い。


こんなところからはさっさと離れてジャンクフィールドに戻るとしよう。


そう思い、馬車の中を覗くのをやめようとしたとき、何かが動いた気配を感じた。


その気配は馬車の中からだ。


だが、ここにあるのは貴族夫婦の死体だけで他にはなにもない。


そのはずだと思ったが、よく見てみると貴族の妻が何かを抱きかかえているようであった。


ゆっくりとそれを引きはがしてみると、死体がもう一体。


服装からして女の子だろう。


背丈からして、俺と歳が近いと思われ、この貴族の夫婦の娘なのだろう。


長髪で横髪がドリルのように巻かれており、端正の顔立ちをしている。


ザ・貴族の娘という感じだ。


今は全身が血まみれの虚ろな目の死体だが。


服の腹のあたりに破れた箇所があることから、どうやら死因は刺殺らしい。


それはそうと、何かが動いた気配の主はなんだろうか。


馬車の中を見渡しても、それらしきものは見当たらない。


気のせいだったかと思うと、風が吹いたような感じがした。


いや、違う。


誰かの息を感じた。


その息の主は、どうやら貴族の娘のようであった。


死体ではなく、まだ生きていた。


口元に耳を当てると、かすかに呼吸の音と息を感じることができた。


だが、生きてはいるがもうじき死ぬだろう。



「どうしたものか・・・」


「・・・に・・・い・・・」


「ん? 」



かすかに声が聞こえた。


この貴族の娘からだろう。



「なんだ? せっかくだから聞いてやる」



頭を突き出し、貴族の娘の口元近くに耳を置く。



「死にたく・・・ない・・・」



そりゃそうだ。


誰だって死にたくはないだろう。


山羊の魔物と戦った傭兵達だって、この貴族を守ろうとした騎士達だって、この娘の親だって誰だって死にたくはなかっただろう。


だが、理不尽なことに死ぬときは死ぬのだ。


どうしようもない。


死にたくないと言うこの貴族の娘に、俺ができることは何もない。



「・・・いや、一つあるか。賭けになるだろうが」



一応、出来ることはあった。


それは俺がもつ四つ目のスキルを使用すること。


そのスキルは自分ではなく、他者に対して行うもので、生死が伴う危険なスキルである。


試しに以前、依頼の途中でヘマしてほぼ死にかけの雑兵に試してみたところ、そいつは死んだ。


厳密には死んではいないが人間として死んだにも等しい状態となったと言うのが正しい表現だろう。


つまり、失敗したことしかなく成功例はない。


だが、成功すれば瀕死の状態から生還するはずだ。


今これしか助けられる手段はない。


一か八かそのスキルを使ってものいいが条件がある。



「賭けになるかもしれないが助けられるかもしれない。だが、条件がある。それお前がのむか次第だ」



それから、俺はスキルを使用する条件を口にした。


その条件を耳にしたであろう貴族の娘はゆっくりではあったが確かに頷いた。


「はい」の一言だけでも良かったのだが、息も絶え絶えでよく首を動かしたものだと感心する。


人間として、この貴族の娘は気に入った。


なんにせよ条件は成立した。

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