第6話 地龍VS山羊


 山羊の魔物の襲撃を受けてから、もうすぐ五分くらいになる頃だろうか。


夜になり始めて暗くなってきたが、馬車を燃やす炎は健在で周囲は明るい。


俺は地面に倒れ伏していた。


我先にと山羊の魔物に突撃し、返り討ちに跳ね飛ばされたというわけだ。


それで今は倒れ伏している。


その間に、次々と傭兵達も山羊の魔物に向かっては跳ね飛ばされ、踏みつけられ、噛まれ、奴の魔法で焼かれていく。


一人また一人と傭兵達が死んでゆく。


そして、最後の一人が炎に焼かれて炭になった時、俺は立ちあがり――



「[怪人化]」



地龍に[怪人化]した。


少し悔しいが素の俺ではこの魔物には勝てない。


だが、[怪人化]か[怪物化]をすれば勝てるに違いない。


俺はまず[怪人化]することを考えたが、すぐにはできない状況であった。


だから、死んだふりをして待つことにしたのだ。


俺以外の傭兵が死ぬ時を。


何故かと言えば、俺のスキルを使うところを見られたくはないからだ。


有名にはなりたくないのだが、一番は普段の俺と悪の組織の俺はまだ使いわけたいからだ。


悪の組織のトップが正体不明だと雰囲気が出るだろう?


まあ、そんなわけで悪いけど傭兵達には死んでもらったというわけだ。


もし、まだ生きていて俺のスキルを見たやつがいれば、やむを得ないが殺すしかないだろう。



「待たせたな! 」



俺は素早く山羊の魔物の真下に入り、そこから高く跳躍しつつ強烈なアッパーを奴の顎に命中させる。



「ブ、ブエエエエエ!! 」



悲鳴を上げ、体をのけぞらせながら一歩二歩と後ろに下がるが倒れない。


山羊の魔物はそこから体制を立て直し、俺から距離を取るのか後ろへと跳躍する。


そこから山羊の魔物は睨むように俺を見て動かなくなる。


その瞬間、俺は横に大きく跳んだ。



「ブエエエエエ!! 」



刹那、山羊の魔物から巨大な炎の塊が放たれた。


その炎の塊は先ほどまで俺がいた場所に着弾。


轟音と共に巨大な火柱を発生させ、周囲の馬車の残骸や傭兵の死体を焼き尽くした。



「やはりな」



山羊の魔物が相手を睨んで動かなくなる動作は魔法の呼び動作だ。


地面に倒れ伏し死んだふりをしている間に、奴が傭兵に魔法を使うところを観察して気づいたものである。


魔法が強力で俺も食らえばタダで済むかは分からない。


だが、呼び動作さえわかれば避けるのは簡単で、もう怖いものではない。


俺は再度山羊の魔物に接近。


それを迎撃するためか、山羊の魔物は頭をハンマーのように打ち下ろしてくる。


地面に激突する山羊の魔物の頭を横目にみつつ、俺は奴の腹の下に到達。


そこから山羊の腹に目掛けて、左右交互に何度も腕を振り回す。



「ブエエエエエエ!! 」



攻撃が効いているのか山羊の魔物が悲鳴を上げる。


だが、俺が思ったようにはいかなかった。


山羊の魔物の腹をズタズタに切り裂くはずだったのだが、猫に引っかかれた程度に血がにじむくらいでダメージを与えられたとも思えない。


パワーが足りないようだ。



「なら、[怪物化]だ! 」



俺はスキル[怪物化]を使用。


山羊の腹の下で自身の体を地龍に変身させつつ、大口を上げて山羊の魔物の首にくらいつく。


地龍になった俺の刃が山羊の魔物の皮膚を貫通する感触を感じる。



「ブ、ブエッ! 」



あまりの痛さに山羊の魔物は悲鳴を上げたいところだろう。


だが、首を強く圧迫され上手く声が出せないようだ。



「このまま一気に決める」



首に嚙みついたまま、俺は山羊の体を振り回し、奴の頭を地面に叩きつけた。


ゴキャと思わず身震いするような嫌な音が響いた。


首の骨でも砕いたのか山羊の魔物は死んだようだ。


その証として、山羊の魔物の死体から因子が現れる。


俺は[怪物化]を解き、人間の姿に戻り因子を回収する。



「良質な因子来い! 」



ガシャを回してレアを狙うときのように俺は叫ぶ。



┌――――――――――┐

|入手:黒山羊の因子  |

└――――――――――┘



すると、手に入れた因子は黒山羊の因子だった。



「うおおおおおおお!! 獣の因子じぇねええええ!! やったあああああ!! 」



俺は歓喜の声を上げる。


初めて自分の手で固有らしき因子を手に入れたのだ。


これを喜ばずにはいられなかった。


だが、嬉しいのは嬉しいのだが肝心の依頼はまだ終わっていない。


俺はさきに逃げた貴族の乗る馬車に追いつくため走り出した。


そのまま目的地まで走り切ってしまうかもしれないが、安全なところまで逃げてゆっくり進んでいるかもしれないからだ。


追いつけなかったらその時はその時である。


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