第2話 スキル

  父に追放を言い渡された後、俺は野原を出て歩いていた。


もう昼で腹が減ってた。


飯を食ってから出ていけばよかったと後悔する。


しかし、あの後ルシエルに会ってしまったのだ。


その時にすぐに出て行くことと、さらに領地からも出て行くことを言われて、渋々町を出て今に至る。



「けっ! そこそこの貴族がよぉ・・・」



その時のことを思い出しては、俺は悪態をつかずにはいられなかった。


今はそこそこの貴族だったらしいが昔は大貴族で、王族にも重宝されていたらしい。


それが徐々に当主の力が弱まり、今のそこそこの地位に落ち着いたんだとか。


そんな事情で、なんのスキルを持たない俺よりかは龍化のスキルを持つ妹の方が地位を上げるのに役に立つと考えたんだろう。



「ずいぶん小さい目標だこと・・・」



小さい。小さすぎる。自分の家を大きくしたいなんてのは実に貴族らしく立派なことだと思うが実に小さい。


俺はといえば世界征服が目標だと言うのに。


むしろ、あの家にいないほうがよかったとだんだん思えてきた。



「ならば、ここからが俺の始まり。後で戻ってきてくれと言われても聞かねぇかんな! オイ! 」



家があった方角に向けて吠える。


だが、何も返事はなくしんと静けさが漂うばかり――



「グルルルルル・・・」



ではなかった。


振り返ると、いつのまにか前方に魔物がいた。


狼型の魔物でたしか名前はヤケンだ。


見た目は狼そのまんまだが大きさは熊ほどで、この辺では危険な魔物として知られている。



「へぇ、俺の始まりを歓迎してくれるってのか? じゃあ[怪物化]だ! 」



現在、俺の持つスキルは四つ。


その一つが[怪物化]。


所有する因子の生物に変身するスキルである。


狼の因子なら狼に、魚の因子なら魚にといた具合である。


異形に変身できるとか悪の組織の一員が使う奥の手のようでかなり気に入っている。


初手で使ってしまったが。


話を戻して、今、俺が持つ因子は地龍の因子のみ。


その因子を使い俺は地龍に怪物化した。


赤い鱗に覆われ、翼はなく、四足歩行で大きさは前方のヤケンより二回り大きくくらいだ。


龍というよりかは恐竜みたいなものである。


ドラゴロッソ家の代々の当主が持つスキル[龍化]で変身する龍の姿とは程遠い。



「ガアッ! 」



そんな俺の姿にヤケンは一瞬ひるんだものの果敢に飛びかかってくる。


そして、奴の爪が俺の体に触れたが硬い鱗には傷一つついてはいなかった。



「効かんな! オラ! 反撃! 」



ヤケンに向かって、前足を振るい攻撃する。だが、当たらなかった。



「やるな! ではこれでどうだ! 」



今度は突進しつつ、噛みつこうとする。だが、躱されてかすりもしなかった。


次はくるりと回転しながら尻尾を叩きつけようとしたが、縄跳びをするみたいにジャンプで躱される。



「はぁ、はぁ、くそぉ・・・」



この姿は防御力と攻撃力はあるが機動力はない。


要するに動きが鈍いのだ。


対して、ヤケンは防御力と攻撃力は俺に劣るが動きは俊敏で機動力は俺より上回っている。


この機動力の差により、ヤケンの攻撃は当たるが俺の攻撃はヤケンに当たらないのだ。


故に、この機動力の差をどうにかして縮めなければいけない。


幸いにも俺にその方法がある。



「怪人化! 」



それは俺が持つもう一つスキル[怪人化]だ。


これは使用する因子の生物そのままの姿になる[怪物化]とは少々異なり、因子の生物の特徴を残しつつ人型に寄せて変身するスキルだ。


[怪人化]なら人のように動けるし、武器とかを持つみたいな人特有の動作も可能だ。


このスキルで、俺は赤い甲冑を来た騎士のような姿になった。


甲冑のいたるとこにはトゲのような装飾があり、手の鎧の手甲と足の鎧の鉄靴は龍の手足を思わせるように指の線単位は鋭い爪がある。


兜には龍の頭部を模したデザインで、尻尾は短くなっているがちゃんとある。


まさしく地龍怪人と言うべき姿である。


ただ今の俺は五歳なので、なんかデフォルメされた感じになっていてカッコイイというかかわいい感じになってしまっている。


なんにせよこれで攻撃を当てることができる。


俺は一歩前に跳んでヤケンの目の前に着地する。


ヤケンのやつも反応できないほどの速度で目の前に来たのだ。


[怪人化]も身体能力が高められるので、このくらいは余裕で可能だ。



「ギャワ!? 」



地龍怪人になり、素早く接近されて驚いたのかヤケンは悲鳴を上げる。


足を力を入れているあたり、後方へ跳んで距離を取ろうとしているのだろうがもう遅い。


俺はそこから、右、左の順に腕を薙ぎ払う。


一撃目でヤケンの顔をえぐり、二撃目でヤケンの腹を切り裂いた。


顔と腹から大量の血をまき散らしながらヤケンは飛んでいき、やがて地面に落ちて動かなくなる。


余裕の圧勝だ。



「フン、雑魚め。おっと、因子の回収をしなくては」



俺の持つ三つ目のスキルは[因子回収]。


読んで字のごとく倒した生物からその生物の因子を回収するもの。


因子は倒した生物から光の球状になって現れる。


それを手で掴むことで因子の回収ができるのだ。


ちなみに[怪物化]と[怪人化]とは異なり自動で発動するものだ。


[怪物化]と[怪人化]はアクティブスキル、[因子生成]はパッシブスキルとカテゴリー分けでもしておくか。



┌―――――――┐

|入手:獣の因子 |

└―――――――┘



因子を入手するとこんな感じで、俺の目の前にウィンドウが現れる。


今回入手した因子は獣の因子だそうだ。



「獣の因子か。こればっかしだな」



ヤケンから生成した因子は獣の因子だった。


以前、兎型の魔物を倒した時があるがこの時も獣の因子だった。


兎の因子や狼の因子とかにはならないようだ。


ちなみに、この獣の因子では[怪物化]も[怪人化]もできない。


地龍の因子とは何が違うというのか。


因子についてはまだまだ分かっていないことがありすぎる。


手探りでいろいろと試してみたりで手探りで調べていくほかなさそうだ。


分からないといえば、今俺が使っている地龍の因子については魔物から生成したものではなく、生まれた時から持っていたものだ。


恐らくドラゴロッソの血が影響しているのだろうが、もうあの家に帰れない以上真実は分からずじまいになってしまっただろう。



「さて、行くか」



俺は[怪人化]を解くと、再び歩き始める。


行先はジャンクフィールドという町。


この王国の中枢となる王都のさらに外側に広がる地域にある町だ。


落ちに落ちた貴族や城下町からはじき出された者、王国の貧しい者達が集う場所である。


今の何も持たない俺には、そこしか行くアテがないという。


貴族の息子からそこの町の住民とは、かなり落ちたものだ。


だが、悪の組織の立ち上げ、その先の世界征服の目標に狂いはない。


ここから這い上がればいいだけの話だ。

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