第1話 追放
「なんでしょうかお父様」
五歳になってから数日後の朝、俺は父の書斎に来ていた。
立つ俺の前には、赤髪の男性が机に座り、何かの書類に目を通している。
無論、この男性の名はルシオ・ドラゴロッソ。
この世界の俺の父であり、このドラゴロッソ家の現当主である。
俺が部屋に入ってにもかかわらず、父は見向きさえもしない。
人を呼びつけておいて勝手な人だ・・・
そんな悪態をつきつつ、俺は横に立てかけてある姿鏡に目を向ける。
鏡には黒髪の短髪の少年が写っている。
それは現在の俺の姿だ。
整った顔立ちをしており、身に着けている貴族御用達のブランドの服が似合っている。
容姿なんてあまり関心はなかったが、この世界の俺の体はかなり気に入っている。
この黒髪は母の遺伝らしい。
母は俺を生んですぐに亡くなってしまったらしく、一度しか見てはいなはいないがかなりの美人だった。
父が別の女と再婚して、今の母がいるのだが、俺はあまり好きではない。
父と同じく俺には関心がないようで、好きになる要素がないからだ。
嫌いではないし、無関心なら無関心でむしろ気楽でいい。
「急に呼び出してすまんな・・・」
父の声がしたので、そちらへ顔を向ける。
父は不愛想な顔で俺をジッと見つめていた。
「サタトロンよ」
「はい」
父が俺の名を呼んだので返事をする。早くスキルの練習に戻りたいので、さっさと本題を言ってほしい。
「ルシエルが身籠った・・・お前に妹ができる」
「そうですか。うれしゅうございます」
ルシエルとは、今の母の名前である。
腹が膨らんでいたので子供が出来ていることは知っていたが、まさか妹とはな。
妹だからどうということでもないのだが。
ちなみに「嬉しい」と言ったが本心ではなく、社交辞令のようなものだ。
家族相手に社交辞令なんて、貴族っていうのはどこもこんな感じなんだろうか。
「その子を時期当主に据えることにした」
「・・・え? 」
今、なんて言った?妹を時期当主に? 俺がいるのに?
「どういうことですか? 」
「[龍化]のスキルが持つそうだ」
「・・・!? 」
父の言葉に俺は思わず口を閉ざしてしまう。
「スキル鑑定士に見てもらった。このドラゴロッソ家の者ならば理解は出来ているな」
[龍化]とはドラゴロッソ家の代々の当主が持つレアスキル。
自身をドラゴンの姿に変えるスキルで、硬い龍鱗による防御力とでかい翼による飛行の機動力と巨躯を活かした攻撃力。
攻撃力、防御力、機動力の三拍子が揃った強力なスキルだ。
歴代最強の当主は一国を滅ぼすほどである。
「し、しかし、僕にもいずれは龍化のスキルを習得できるはずです」
俺には龍化のスキルはない。
だが、別のスキルがあり、口にした通りいずれは龍に変身することは可能だ。
だが――
「いずれ? それはいつだ? 」
父を納得させることはできなかった。それもそうだろう。
「そもそもお前は、何もスキルを持っていないではないか」
父は俺がスキルを持っていることを知らないのだ。
それ故に、俺がスキルを持っていることを知らない。
何故かと言えば、俺がスキルを持っていることを隠しているからだ。
どうやって隠しているのか、どうすればスキル鑑定士の目を欺けるのか。俺にもよく分からない。
だが、隠したいと思ったらできたのである。
細かいことは気にするな。
それで、何故隠したいのかと言えば、俺が持つスキルが少し特殊で世間体が悪いからである。
見つかれば即家から追い出されると判断したのだ。
「そういうことだ。お前はいまこの時より、ドラゴロッソ家から追放する。この家にいた記録も抹消する。二度と来るな」
まあ、結局追い出されたわけだが。
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