第15話
「――と言った感じです」
そう言ってグラムさんは自らとエヴァン殿下の出会いについて語り終えた。
あれだけ嫌がっていたはずだった貴人の護衛を今、こうして自ら望んでやっている。
王子だからではなく、エヴァン殿下であるから。
彼ならば自らの人生をかけてでも支えてあげたいと決意した。
そこに至るまでの過程は、とても心惹かれるものがあった。
「何と言ったら良いのでしょう。貴女は私のことを誇り高い人、と言ってくださいましたが、もし私自身が誇りに思うことがあるのだとしたら、あの日、勇気を出して殿下の根幹を尋ねた事、でしょうか」
「根幹、ですか」
「ええ。いくら親しくなろうとも。いくら近くにいようとも。その本心とはなかなか理解できないもの。もしあの時臆病風に吹かれて殿下の想いを知ることが出来なければ、仮に臣下になったとしても命までは懸けられなかったでしょう」
「……!」
「あの方は生まれ持った地位に甘んじて生きる人ではない。誰よりも他人を想い、そのために力を求める人だと知った。そしてその答えに行き着いた重い過去も知ってしまった。なら、親友である私がそれを支えてやらずしてどうすると、生まれて初めて、本心からそう思ったのです」
「大事なのは知ろうとすること。理解しようとすること。そして誇りとは、自ら以外の人のために生きること、ですか」
「はい。それを正しいとは言い切れませんが、少なくとも私はそう思っています」
それは今までの私になかったものかもしれない。
私は今まで多くの人を治療し、その命を救ってきた。
でも、本心からその人にまっすぐ向かい合い、知り、理解しようとしたことは一度もなかったかもしれない。
誰かを救いたいと思う気持ちも、それは私だけが想いをぶつけているに過ぎない。
なら、私のやるべきこととは――
「……あなたが今、どのような悩みを抱えているのかはまだ分かりません。今の話が助けになったのかも分かりません。ですが、私に力になれることがあれば。私にお話しできることであれば、いつでも力にならせてください。それが私にできる、せめてもの恩返しですから」
「いえ、ありがとうございます。少し、今私がしなくちゃいけないことが分かった気がします。でも……もしかしたら、また相談させてもらうかもしれません。私にはまだ、そんな勇気が持てるか分からないから……」
私がそういうと、彼は困った顔一つせず「ええ。いつでも構いません」と笑顔で頷いてくれた。
「って、お見舞いに来たはずなのに、私に気を遣わせちゃってすみません! まだ傷がいえたばかりで体力も戻っていないでしょうし、後はゆっくり休んでください!」
「とんでもありません。いい暇つぶしになりましたよ。正直なところ、ずっと寝たきりで退屈していましたので」
「はは。もしよければ本でも持ってきましょうか?」
「いえ、それには及びません。一応こちらの治療院の方に声掛けすれば持ってきてくださるそうなので」
「そうですか。分かりました! では私たちは一旦失礼しますね」
そう言って私たちはグラムさんの病室を後にした。
なんというか、いろいろと考えさせられる内容だったなぁ。
あの二人は男同士だけど、下手な貴族の夫婦よりもよっぽど強いきずなで結ばれているんだろうな。
貴族社会は肚探りの世界。
例え近しい存在でも、みだりに相手の領域に踏み込んではならない。
そう教わってきた私だけど――でも、やっぱりモヤモヤする。
「ねえリーザ。一つ、お願いがあるんだけど」
「はい、ルイナ様。なんでもお申し付けください」
「ちょっと、調べて欲しいことがあるんだけど、頼める?」
「お任せください。して、その内容とは?」
「
私は
いいや、知ろうともしなかった。
お飾りとは言え妻なら、少しくらい旦那様のこと、分かろうとしたっていいよね?
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