山に逃げた僕とアイツの2年間

@Siziminosna

第1話 悲劇の始まりは先輩のせい

ーーー2020年4月4日ーーー

全力で走るなんて何年ぶりだろう。多分高校生の時が最後だろうか。いま僕は父親から逃げている。理由は…僕は悪くないんだが、実家のお金を盗もうもとした。本当にそれだけだ。その過程で母が邪魔をし、怪我をさせたのは僕のせいじゃない。必死に走り、振り返るともう父は居なかった。もう家には帰れない。所持金はたったの7万円。先程掴み取った4万円と元の所持金3万円だ。

どうしてこうなったのか…ああそう、あの馬鹿のせいだ。あの馬鹿が僕をバカにするから、バイトを首になった。

ーーーつい数時間前のできごとを思い出すーーー

またバイトをクビになった。いつもこうだ。何故か僕は皆から嫌われる。どうせバイト先の皆も僕のことが嫌いながらクビにしたんだ。ミスが多いのも…そう、あの先輩だ!あの馬鹿がしつこくパワハラをするから悪いんだ。僕は悪くない。僕はバイトなんかで終わる人間じゃないんだ。本当はもっと能力もある。頭も良いんだ。なのに、社会は僕を否定する。

「来年の春までに家を出ていけ」父親から去年の9月頃に言われた。それまでにバイトしてお金を貯めろと言われたが、無理に決まっている。半年程度でどうやって一人暮らしの資金を貯めればいいのだ。結果として今の所持金は4万円。もちろんバイトはしていたが、毎日やっていたら疲れてしまう。

来月から、来月から、と先延ばしにして結局もう3月だ。娯楽に使えばお金は減る。予定の金額には程遠いが、努力はしたのだから認めて欲しいものだ。

あの馬鹿のせいでクビになった事でイライラしていた僕は、家に帰ったあと母親からお金を取ろうとした。これも僕は悪くない。いや、悪いかもしれないが全面的ではない。お金を取ろうと思ったのはイライラしていたからだ。イライラしていたのはバイト先のバカのせいだ。バイトをしているのは父親にやれと言われたからだ。そんな事を言われたのは…僕が引きこもって居たから…かもしれないが、そうなったのは口うるさい両親のせいだ。そう、僕は悪くない。だから、お金を少しだけ、3万円ほどくれればいい。そう思って、お金を取ろうとした。本当にそれだけだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

本当に、どうしよう。

7万円ぽっちで生きていくなんて無理だ。と、必死に考えつつ、とりあえず電車に乗り、遠くに行こうと考えた。うんと遠くに行き、しばらく帰ってこなければきっと両親の方が心配して根負けするはず。

そんな甘い期待を背負いつつ電車に乗り込む。

休日の昼だからか、家族連れが多い。子供の声、楽しそうな親の声。耳をつんざく。僕は「楽しい声」が嫌いだった。いつからか、嫌いになった。

イヤホンを付けて雑音を消し、しばらく寝ることにした。目を覚ましてから最初に止まった駅周辺を拠点にしよう。そう決めて、僕は寝た。

海の見える街で気ままに暮らしたい。そう願いつつ眠りについた。


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