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森林の香がした。
森の中で寝ていたのかと錯覚する程、気持ちの良い空気だった。
その奥にこれからずっと親しみたい気配があって、ラーヴァはしかと覚醒を果たした。
見慣れぬ天井に少し硬い敷布の感触。
妙にすっきりした身体、少し眠いが問題無く。
「にゅぅ…らびゅ…」
左手に違和感を感じて見れば、吐息の掛かる距離に顔があった。
幸せそうに眠っている。
特別目立った容姿じゃない、けれどこの寝顔は至上の美しさだとラーヴァは思った。
だから、はらりと落ちてきた紅葉した葉を摘まんで起き上がった。
「はは…これは、すごいな…」
泊った空木の楓の家は布団で寝る派だった。
慣れない習慣に戸惑ったが、まぁ割と寝心地は良かった。
それよりも、この光景が良かった。
空木の楓は紅葉樹林に呪われていた。
どこからともなく落ちる落葉体質、ということだ。
だから彼のゆくとこはらはら落葉。
雪のように降り積もって気付けば辺り一面紅葉絨毯。
星の形をした紅い葉黄色橙美しい。
手の内にある葉も同様だ。
気持ちの良い光景に心を奪われていると、
「おはよーらぶすけぇー…」
「おはよう。まだ…眠そうだな」
「ねむいより、けつにいわかんーおきれねーあーおきれねーなー」
空木の楓が明らかに嘘を吐いて太ももに甘えてきた。
触れ合う悦びを知ってしまったふたりは、歯止めが利かず昨夜ちょっと大変だったのだ。
無理をさせたし無理をした自覚があったラーヴァは仕方無く、
「風呂に入れて着替えさせて飯を食わせてやれば満足か?」
硬そうな見た目に反して割と柔らかな髪を撫でる。
今まで一度たりとも覚えたことのない、優しい気持ちにむず痒くなって意地悪な口調になった。
それをなんとなく察した空木の楓は、是非にそうして欲しいとラーヴァに纏わりついた。
好きになったひとと想いが通じ合ったのが嬉しかった。
そしてなにより、茨が彼を傷付けないのが嬉しかった。
身体が確かに少し痛かったが、そんなことより心満たされてる。
太ももを枕にもうひと眠りしてしまいたい。
その鼻の先に落葉。
「ふがっ」
驚いて起き上がる。
無害装ってそこそこ有害なのだこの落葉は。
「ははは」
一晩寝たら部屋はいつも落葉に埋まってる。
春夏秋冬忘れるくらい毎日この光景だ。
なのに、今朝は違った。
そこに、茨の王が居た。
笑ってる、そのことに満足した空木の楓は、生まれて初めて己が呪いに感謝した。
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