第10話 『 LOVE YOU!』

10.

" 波紋 Ripple 10 " 



 夫から決まった額の家計費を毎月もらっているだけで、私が全財産を

任されているわけではない。 


 両親の場合はふたりで一緒に財産を管理しているようだ。

 私は夫がどれだけの貯蓄をしているのかさえ知らされていない。


 私も独身の頃から続けている在宅の仕事があるので今までは

そういったことに大してあまり何も思う所はなかったのだけれど・・

こんなもしかすると長期戦で望まなければならないかもしれない

厄介な病気になってみて、人の手を借りないと生きていけない立場に

なってみて、たくさんのお金が必要となってみて、初めて見えてきた

ものがあった。



 『難病で、手の打ちようがほとんどないのです』と診察された日から

半年間、母親やヘルパーさんたちからのサポートもあってなんとか家で

横になっているだけの生活とはいえ、寝ていればかなり楽ではあったので

緩やかに苦しみも痛みもなく過ごしてこれた。



 私が唯一頑張ったこと、それは・・

ものすごく体調が悪い日は別として、

半日をベッドや椅子で過ごすとしても・・


寝間着から洋服にちゃんと着替えるということだった。


 それは一日の内でのけじめであり、そこにはいつか元通りの元気な

自分に戻るのだ、という意気込みみたいなものが、潜在的にあったのかも

しれない。


 10-2.


 ただ、申し訳ないのは夫に対してだった。


 できる範囲で食事のことなど、自分のことは自分でというスタンスで

時には自炊を飄々としてくれること。


 ヘルパーさんたちには、少し余分に作り置きしてもらったりは

してるんだけれど、どうしても1週間に1度や2度、賄えないこともあって。


 そこは、病気になった日から感謝してもしきれないところ。



 だけど出掛ける時の挨拶、『行ってくるよぉ~』はあるけれど、

いつ頃からだろう? 帰って来た時の、『ただいま』がなくなって

いるんだよね。


 それは避けられているというより、彼が私の起きている時間内には

帰ってきていないことを意味する。


 夫の仕事はメインが文筆業で、あと副業みたいな感じでモデルを

している。


 物書きの分野は、朝から出勤というのはなく、モデルのほうも大体は

午後からの仕事が大半で、たまに早朝からというのもあるけれど。


 なので、深夜遅くに帰宅しても翌日の仕事にはあまり影響することはない。


 だけど、だからといって毎日の遅い帰宅ってどうなんだろう。


 かく言う私もこの半年間、自分のことだけで精いっぱいで夫のことを

気に掛ける余裕もなかったのだけれど。


 けれど、ふと気になりだしてしまうと、そこばかり考えてしまうように

なってしまって。


 毎夜、毎夜、どこで誰と何をして過ごしているのだろうかと。


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