第6話 『 LOVE YOU!』

6.

" 波紋 Ripple 6 "



 翌日午後一番に雨がそぼ降る中、母が来てくれた。


 なんかっ、ぶわっと安心感が半端ない。

 しかし、やって来るなりいきなりの母親の発言に驚かされた。



 「ね、香ちゃん・・泰之さんに病名のこと話した?」

なんて、そんなことを聞かれたから。


 「どうして? そんなこと聞くの?」


 「ううん、なんでもないのよ。

 だけどなんとなく気になるじゃない、やっぱり」



 「話したよ、そしたら康之さん、『そっかっ』て。それで

 『無理しないで養生すればいいから』って言ってくれた」


 『どうして?』 なんて母親に思わず聞き返したりして自己嫌悪。

 もう今から病気に負けそうな自分の心持ちが嫌だった。


 母だってそりゃあ娘の伴侶の反応が気になるわよね。

 当たり前のことだよ。


 「香、私一休みしたらハローワークと最寄りの大学に行ってくるわ」

 母が言った。


 「あぁ、求人ね」



 「本当はご近所でいい方がいるといいんだけど、まぁプライベートな

部分を見せることになるから難しいところね。だからね、っていうか

同じ人にずっと来てもらわないで2人くらいの人に決めて様子見して

信頼のおける人を見定めてから、最終的に1人にしてもいいかなって

お母さん考えてるの」



「そうだね、うん、それがいいと思うわ、私も」


「それにね、香ちゃんの体調もこの先良くなると思うし、そうなったら

来てもらう時間なんかも減らしていけばいいし。


 だからそういう意味でも単発的なバイト感覚で来てもらうのが

いいかなって。


 


 6-2.



 香ぃ、私お紅茶いただくわ。あなたどうする?」


 「ミルクティーにしよっかな」


 母は、本当に5~6分で紅茶を飲み干し、せわしなく、家を出て行った。

 

 年老いた母を、あちこち動かせて本当に申し訳なくも思い、また

有難くも思った。

 母がいなかったら、私はもっともっと凹んでいたことだろう。


 本当に困った時、適材適所じゃないけど、ちゃっちゃっと動いてくれる人が

いるってすごいことだとしみじみ思う。


 病人は、環境を整えてくれる人がいないと生きづらいものだから。


 母が求人を出してからたった1日で3人の応募があったらしい。

 早ければ早い方がいいから、声だけの面接で速攻決めたと聞いた。


 ひとりめは学生で、もうひとりはこの町内の人らしく60才くらいだとか。

 ふたりに決めたのはどちらも他ではアルバイトをしてなくて、

週1~週4くらいまでが希望だったからと。


 2時間位を目安に来てもらうことにしたからね、ということだった。


 早く決まって良かった。

 じゃないと、母によけいな負担がかかるもの。


 「香ちゃん、早く決まってお母さん、ほっとしたわ」


 「うん、私もなんか安心したぁ」



 「「よかったねっ!」」


 「あぁ、そうそうふたりともね、運転できるから病院もお願い

できるのよ」


 「わぉ~、それは助かるぅ~、体調悪くて運転するのほんとっ

怖いから」


 「もう無理しないで。

 誰も運転してくれる人がいない時はタクシー使おう?」


 「ほんとっ、そうします」


 前回自分で運転して行ったけど、やっぱりすっごく不安だったから

 ほんとにそう思う。


 貯金もあるし、こんなふうに困った時に使わなきゃだわ。

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