第一話 猿でもわかる謙り方講座 

俺を脅す人間が持つ刀は黒く、その黒い刃の中にはメカニカルな軌跡を描く赤い線があった。


最近流行ってるソシャゲの美少女が持つような、未来感と日本刀の良さを組み合わせたデザイン。


オモチャにも似た質感だがその切れ味は“ホンモノ“だ。


そのホンモノを、頸動脈の直上にあてられている。ならばする事はただ一つ。


服従だ。


「外で散歩してたら壁にぶつかって、なんかここにいました。目的とかは無いです。マジで」


俺は今の状況のありのままを伝えた。


「お前舐めてんのかそんなわけねぇだろこの野郎ッッッッ!!!!」


「ヒュッ! マジですから! 本当なんですって! アッ痛い痛い!!」


メカニカルポン刀を当てるがより強くなり、痛みがさらに増す。


に来れんのはゲートから転移魔法使ったやつだけなんだよ! 国認の上級探検者しか来てねぇようなとこだ! それがなんだァ? 壁にぶつかったらテレポートしたァ? 小4でもマシな言い訳吐くぞコラァ!」


「ちょっと待って僕もわかんないんですって! 本当に敵意とか、やましい気持ちとか無いんで! マジで! 靴も舐めれますよ! いや舐めさせてください!」


「何言ってんだお前マジで気持ち悪いな!?」


こうなったら自分は不審者では無いことを全力で示すしかない。

尊厳もプライドも捨てて赦しを乞うしかない!

命がなけりゃ所詮無用の長物……生き延びて後から拾えばいい!


「ほら、舐めさせてください! 綺麗にしますよ!全力で! だから………ね、その刀下げてもらって、ね??」


ダッラダラ冷や汗が背中を流れる。意外と伝う速さが遅いその汗だけが、時間が過ぎることを示してくれる。


腰まで汗が流れるほどの時間が経ち、ようやくポン刀が首から離れた。


振り返ると刀を持った銀髪のイケメンが立っていた。妙にカジュアルな服装が例のポン刀とマッチしていた。


マジでソシャゲの登場人物じゃねーか!……と心の中でツッコミを思わず入れてしまうほどの顔の良さ。


同時に身長も高く、服の上からでもわかる筋肉量。


あまりにもイケててムカつくが……靴を舐めて謙るのが今生き延びる為の最善策。


ここがどこかはわからないが、ゲートだの魔法だの言い出してマジモンの武器を突きつけるような危ない人なら尚更だ。


「じゃ、靴の方いかせてもらいま〜〜〜」


「おい待て! 本当に舐めるのかよ!? いい、いい!舐めなくていいから! 」


「いやもう男に二言ないんで」


「それはさせる側のセリフだろ!ざけんな! 何でお前みたいな不審者に3万もするスニーカー舐められないといけないんだよ!」


うーん。俺はもう気持ちが靴舐めるモードに切り替えてるから、名残惜しい(?)気がするが……そんなに嫌ならやめておくか…。


「わかりました。ところでここどこすか?」


俺は頭を上げ彼に向き直る。傷は浅いとは言え首筋が妙に痛む。


「質問の前に、お前に治癒魔法を使う。に無許可で来てる人間とはいえ、無実のやつに怪我を負わせて申し訳ない。」


「チユマホウ? なんですかそれ」


「いいから、あまり動くなよ———治癒ヒール。」


訳のわからん言葉を言ったかと思えば、首の傷が一瞬で治った。


あまりにも全快スピードが早すぎて気持ち悪くなるくらいだ。


取り敢えず、目の前のこのイケメンはまだフツーの人間だ。良かった。




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