6. メイドさんと上目遣い

6. メイドさんと上目遣い




 静寂が包み込む。そして無情にもカイル君の手からは掃除用具のホウキが離れ落ちカランカランッという音だけが響き渡る。


「今のはどういうことかしら?説明してもらえませんこと?」


「え、あーっとですね……」


 ふむ。『え、あーっとですね』か。だいぶ動揺しているみたい。まぁそりゃそうだよね。だってありえないくらいに盛大にフラグ回収してるんだもんね。私も初めて見たよ。こんなに見事に回収する人なんて……。本当に面白いなカイル君は。


「なんですのその歯切れの悪い返事は?もしかしてあなた……私のことを馬鹿にしているのかしら?」


「ち、違いますよお嬢様。そんな滅相もないです!」


「じゃあどうしたと言うのです?あなたは間違いなくブラック企業?休みくれ?と言っていましたわよね?当たり前のことを当たり前のようにこなす。それが使用人ですわ。それも出来ないなら辞めてもらうしかありませんわね」


 それを聞いてカイル君は半泣き状態だ。少し面白い状況だけど、これ以上黙って見てるのは可哀想だから助け舟でも出してあげようかな。


「イライザお嬢様。私とカイル君は前の職場の話をしてたんです。勘違いさせてしまって申し訳ありません」


「あら?そうなの?」


「はい。このリンスレット家は使用人の私たちにもとても優遇してくれてますから。前の職場と比べてしまって、少し愚痴をこぼしてしまっただけです。本当にすみませんでした」


「そうだったのですか。それならば仕方ないですわね。まぁでも、前の職場の不満を言ってる暇があったら自分の仕事をこなしなさいな。わかりましたか?」


「はい!もちろんです!」


 私はそのままカイル君をチラッと見ると、何度も小さく頷いて感謝を伝えてきた。うむ。良きにはからえ。なんてね。


「よろしい。では私は忙しいのでこれで失礼しますわ。それと、明日からもしっかり働きなさいな」


「ありがとうございます!これからもよろしくお願いいたします!」


 イライザ様はそのまま歩いて行った。とりあえずカイル君のクビは免れたみたいね。


「あの……マリアさん」


「ん?なにかな?」


「なんかその……すみません……」


「ううん。全然大丈夫だよ。それよりカイル君が気にすることじゃないよ。それに、あんな風に言わないとイライザお嬢様も納得しないと思うから」


 私がそう言うとカイル君はいきなり上を見て動かなくなる。


 ……天を見つめてる。しかも『女神様』とか呟いているし。なんか独自の信仰とかあるんだろうな……。そして私の方に向き直る。


「マリアさん。どうして助けてくれたんですか?」


「え?あー……カイル君は私に必要……だから?」


 こんなに不思議で毎日見ているだけで面白い人がいなくなるのは嫌だし。


「へ?必要?」


「カイル君は私にとっても癒しだから」


「癒し!?」


「うん」


「オレが!?」


「うん。だから……辞めちゃダメだよ?」


「はい!絶対辞めません!マリアさんのために!」


 ……あーやっぱり。カイル君は大きな胸が好きなんだな。そう意気込みながらも私の胸をガン見してるし。この体勢だと谷間が見えてるもんね。また『破壊力は半端ない』とか欲望の声が漏れてるし。でもそこまで巨乳でもないんだけどなぁ……。


 とにかく私のためというより、私の大きな胸のためだと思うけど、理由はどうあれ、カイル君は飽きないし面白いからそれでいいかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る