第4話別れ

あぁ、苦しい、痛い、、、


酷く掠れて、口から弱々しく洩れる。

胸が鉛のように重くて、ぎゅっと締めつけられて、喉が絞られたように苦しい。

そしてこんな真夏なのに、心臓がとても冷たい。


もう限界で心臓が叫ぶ。


全部無かったことになればいいのに


と。

僕はあかりに、考えさせて欲しいと最後に言った。

あの場で答えを出す事なんて、出来るはずがなかった。

一階に続く下り階段に差し掛かったところで、あかりと解散した僕は、春乃のいる教室の方へと身体の方向を変える。

しかし、そこから先の空気は、地球ではないと思ってしまうくらい地獄だった。

酷く濁っていて、とても重くて、窒息してしまいそうな程に薄い。

屋上に向かっている時に感じた、あの蒸し暑さなんて、今は全然感じなかった。


行かなきゃ、、、。


僕は何とか足を踏み出す。

すると、足も足枷をつけているかのように重たかった。

なんとか廊下を歩き、教室のドアの前までやって来た。

辛いし、苦しい。

もうこの現実と向き合いたくない。

春乃に、、言える訳が無い。

指先が震える。

でもここまで来た以上、戻る訳にはいかず、僕はそろそろと弱々しくドアを開けた。


「あ、終わった?」


落ち着いた低い声、間違いなく春乃だ。

教室にはもう、春乃しかいなかった。

目が合った瞬間、胸全体に痛みが走り、全身が冷たくブルブルと震え出した。

呼吸が乱れる。


「ねぇねぇ、二人で何してたの?」


廊下の反対側の窓の鍵を締めながら、春乃は後ろにいる僕に聞いた。

心臓がどきりとして、動悸が激しくなる。

どうしよう、、、なんて言えば、、、。

春乃は僕の方を振り向く。


「あかりちゃんに、告白でもされた?」


僕は、はっ、として息が止まる。

春乃の言葉は、一直線に僕の胸に突き刺さった。

唇が震える。

しばらく黙り込んでしまった。

心臓に汗が滲み、動悸が強まる。


「うん、知ってるよそれくらい。あかりちゃんを見てたら分かるよ」


穏やかに笑いながら、春乃は言う。

でも僕の胸に届いた時、その言葉から悲しみがじわじわと滲み出てきた。


「それともう一つ」


表情の色を変えて、春乃は僕の顔を真っ直ぐに見る。

その途端に、みるみると不安が胸中に広がっていった。

どくどくと心臓が嫌な音をたてる。


「君が、、、あかりを好きな事も」


ぎゅっと強く心臓を掴まれた。

そこから絞り出されるように、目にぶわっと込み上がってくる。

頬が震え、「あっ、はっ、、」と呻き声が洩れる。

僕の目から大量の涙が溢れ出し、顎へと伝って、床にぽたぽたと滴り落ちた。


「別にいいんだよ、君が誰を好きになったって。だから私はそれを受け止める」


春乃の声は、一瞬の震えもなく、落ち着いたまま僕の耳に真っ直ぐに届いた。

なのに、僕はそれに何の言葉も返す事が出来なかった。


「いいよ。私たち別れてさ、友達になろ」


春乃の声が、最後に震えたのが分かった。

僕の胸にもっと強い痛みが、一瞬走る。

そして「あっ」と掠れた声が洩れた。

春乃はそれ以上何も言わず、僕がいる反対の黒板側のドアから教室を出ていった。

僕は泣きじゃくりながら、しゃがみこむ。

そして両膝を腕で抱えて、ドアにもたれかかった。

何度も針で刺されているかのように、心臓がずきずきと痛い。

もう呼吸する事さえ、出来なかった。

ただどんどんと苦しみに毒されながら、泣き続けた。


もう誰かを好きになんてなりたくない、、、

こんなに苦しいなら、こんなに相手を苦しめるなら、こんな感情、、無くなればいいのに、、、。


僕は胸元のカッターシャツを、両手でシワができるくらい強く掴み、絞り出されるように胸の中で喚いた。

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