第11話

 やっとたどり着いた。

 とんがり屋根の塔を奥に備えた古い洋館が、息を潜めるようにオレを待っていた。

「こんな無人の洋館を舞台にする映画なんかホラーしかないぞ!」

 もう頭には古いスラッシャー映画が浮かんでいる。

 大抵生き残るのは女子で、男子は殺される。早いか遅いか――その違いだけだ。

 ……帰ろっかな。

「何をしている!」

 悲鳴はかろうじて呑み込んだ。

 声がシャロン――ナツだったから耐えられたに過ぎない。しかし、割れた窓の向こうから覗かせているのは影のみで、本当にシャロンだといえるだろうか……。

「サエジマくんが一人でがんばってるんだ。早く来い!」

 本物だ。

 《エレメンタルテリトリー》へと足を踏み込むと、バイザーに敵味方情報が表示された。

 ハナのHPはまだ三分の二も残っている。

 敵の『コウモリ』がフルであることを考えると、厳しいことは変わらない。

 表示を立体構造へ変更する。

 建物は洋館ではなく教会のようだ。三階建てで、手前に吹き抜けの礼拝堂がある。

 祭壇が奥にある。ご神体が設置されている場所だ。

 その両脇のドアから階段で上へ行ける。祭壇裏の部屋にはそこから入り、鐘のある最上階の屋根まで通じている。

 鐘はなく、壁も崩れ、吹き抜けと二階が繋がってしまっているようだ。

 ハナはその二階部屋。『コウモリ』は礼拝堂にいるようだ。

 互いの攻めの好みに合わせた位置にいるようだ。それでは勝負は決しない。

 《ゴッドピースメイル》は直接攻撃で倒す道具ではない。《トリックシード》で囲める領域に相手を誘い込む駆け引きが勝敗を決する。要は騙し合いだ。

 あえて向こうが有利な広い礼拝堂で戦わなければいけない。

 ハナが撃った《トリックシード》の位置を確かめる。

 八本。ハナにしては抑えている方だ。壁に四本、床に二本。さすがに天井にはない。残りの二本は右の階段だ。

 壁越しに制点できれば有利になるが……?

 正面から入るわけにはいかないので、跳躍して上を目指した。

 強化服のおかげで身体能力がアップしている。

 庇を跳ね上がり、とんがり屋根まで上がって明かり取りに近付いた。

 中の様子を覗くが、真っ暗で何も見えない。

 暗視モードが働く。

「アカシア、気付かれてるぞ!」

 ナツの声が吹き抜けを登ってきた。

 な――?!

 窓を突き破り、手がオレの襟元を掴んだ。

 引きずり込まれ、礼拝堂を落ちていた。

 宙で体勢を入れ替える。

 その一瞬の視界が、三角屋根の天井に取り付く『コウモリ』の姿を捉えた。

 足から着地。真下にあった木のベンチが崩壊した。

 セーフ、セーフ――!

 ダメージ判定をする神様へ必死に主張しながらも、砕け舞い散る木片の雨から走って抜け出た。

 主張虚しくHPバーが僅かに減少した。

「この代償は大きいぞ!」

 《トリックシード》を出して振り返った。

 オレが落ちた辺りに『コウモリ』がいた。

 追い討ちをかけるつもりで降り立ったようだが、木片と埃でオレを見失っていた。

 『コウモリ』が翼を大きく開いたが、オレの方が速い。

 床へ打ち込んだ自分の《トリックシード》と、ハナが既に打ち込んでいるものを結んだ。

「セット!」

 かなり大きい三角面だが、『コウモリ』の腰から上半身を斜めに捉えた。

 十秒ほどで『コウモリ』は強引に戒めを解いた。

 HPは一割程だが減少した。

「さあ。反撃開始!」

 『コウモリ』の姿がかき消えた。

「あれ?!」

 辺りを見回したが、闇があるだけだ。

 これはホラー映画でよくあるパターンだ。

 一人になった登場人物Aを脅かす別の登場人物B。『脅かすなよ』と観客を安心させておいて、次にドーンと――

「キリくん――」

 肩を叩かれた。

 う――。

 何とか悲鳴を上げずには済んだ。

 ハナだ。

 二階にいて良かったのに……そう言おうとした時――

「アカシア――」

「うわぁっ――」

 今度は堪えきれなかった。

「なんて声を出すのだ」

 シャロンだった。

「出させたのはあんたらだよ」

「あたしも?」

「そんなことよりどうするのだ? やつは闇に紛れることができるらしいぞ」

「闇に?」

 その瞬間から、思考と動きにタイムラグがなかった。

 ハナとシャロンを左右に突き飛ばすと同時に、右足を大きく蹴り上げていた。

 姿は見えていなかった。ただ狙っている気配だけを感じたのだ。

 右足に『コウモリ』の頭が当たった。飛んできた力で押されていく。

 オレはバック転の要領で後ろへ跳んだ。手を床についた刹那、『コウモリ』の頭を両足で挟んだ。身体を捻り、僅かな体重移動で相手の力を利用して投げつけた。

 『コウモリ』が背中から落ちた。

 その力の大きさがバウンドの高さで分かる。

 テリトリー内での攻撃はヒューマノイドには無効だ。

 しかし、キャプチャーするチャンスを作るための攻撃は無駄ではない。

 打撃ではこちらのHPも減ってしまうが、投げ技なら非常に有用だ。

 『カブト』がサルノベ柔術の有意義性を思い出させてくれた。

 倒れた『コウモリ』のすぐ側に、オレは《トリックシード》を刺した。

 横のベンチの肘掛に《トリックシード》が撃ち込まれた。

 ハナだ。

 オレは即座に点を結んだ。

 床――肘掛――もう一点は壁だ。

「セット!」

 立ち上がろうとした『コウモリ』を捉える。さっきより面が小さい。

 目に見えてHPが減っていく。

 今回は自分で弾くことができなかったようだ。光が消えると『コウモリ』は片膝をついた。

 攻撃はまだ続く。

 小気味良い発射音が二つ同時に聞こえた。

 ハナの二挺拳銃がベンチの背もたれに二点を作る。『コウモリ』の背後だ。

「もう一点!」

 オレは三本目の《トリックシード》をすぐ横の肘掛に刺した。

 『コウモリ』が羽根を広げ、飛び上がった。

 素早く結んだ三点はその脚だけを捉えた。

「惜しい!」

 シャロンの声が大聖堂に響く。

 三角面は確かに小さく、まともに囲めていればクリーンヒットであったろう。

 それでも『コウモリ』のHPは半分を切った。

 キィイィイィ――甲高い音は悲鳴か。雄叫びか。

 『コウモリ』が力強く翼を羽ばたかせると、三角面ごとベンチが持ち上がった。

「うそ……」

 意表を衝かれていると、『コウモリ』は浮きながら身体を捻り回した。

 三つのベンチが回転してきた。

「ナツ――!」

 オレは近くにいたシャロンを抱えて床へと伏せた。上をベンチが通り過ぎ、別のベンチにぶつかって粉々になった。

 三角面も消え、『コウモリ』は再び姿を消した。

「危険だから裏へ行ってろ」

 オレはシャロンを右側の階段の方へ押した。

 シャロンは何か言いたげに振り返りながら闇を遠ざかっていく。

「ハナは無事か?」

「大丈夫でぇす」

 緊張感のない返事に苦笑が浮かぶ。

 敵はまた姿を消している。

 どうでてくるか――?

 『コウモリ』の立場になって考えてみる。

 HPは半分を切っている。テリトリーを創ったハナを倒せば逃げられることを知っていたとして、ハナを狙うか――。

 答えはNOだ。

 《ゴッドピースメイル》の性能は二度の戦いで思い知ったはずだ。

 オレにも近付かないだろう。ダメージは無いとはいえ、何度も投げられているのだ。懲りているだろう

 ならばナツだ。しかし、彼女を襲うメリットはあるのか――。

 ……そうか! ある!

 夜と闇のツートーンに分けられた視界を何かがよぎった。

 方向は右側のドア。

 遠ざかる二足のカエルのシルエットを追いかけていく。

「トクエダさん!」

 ハナの悲鳴に近い声が響いた。

 シャロンがドアの前で『コウモリ』に捕まった。

 『コウモリ』が小さい身体をがっしりと掴んだまま着地した。

 飛行の勢いで床を滑っていく。

 間髪入れずに、シャロンの首元へ口を近付けていった。

 そう『コウモリ』は身体に《ゴッドピースメイル》を取り込んでいる。

 誰かのHPを吸えば回復できるのだ。

 抵抗の少ないシャロンなら打ってつけであった。

 しかし――

 薄闇より濃い色の影の中。小さいシルエットが小さな可動範囲で腕を振り下ろした。

 かっと小気味良い音を立てて何かを床に打ちつけた。

 オレはそれが何か分かっている。

 『コウモリ』が慄いた。

 それもそのはずだ。

 彼女のHPを奪い取ることのできる唯一の器具――《トリックシード》だ。

 さっきシャロンを逃がす時に持たせたものだが、まさかこんなにも早く使うタイミングが来るとは。しかし――

「ハナ! チャンスだ!」

「でもトクエダさんが――」

 銃を構えるシルエットが躊躇した。

「任せろ!」

 きっぱりと言い切ると、オレは『コウモリ』へ向かって一気に走った。

 『コウモリ』が察して翼を広げる。

 オレはその頭上へ跳ね上がっていた。

 足を引きつけ身体を小さくし、捕まっているシャロンと『コウモリ』を通り過ぎた。

 二人の視線が追いかけてくる。

 緩やかな下降線の途中、『コウモリ』の後頭部辺りで身を捻る。天井を向いた刹那に脚を突き出した。

 左脚は『コウモリ』の頭の左横に、右脚は右脇腹に、相手の背中を対角線上に両脚で挟む形だ。

 まだ『コウモリ』はオレが通り過ぎた上を向いたままだ。

 そして、捻った回転はまだ止まっていない。視界は天井から横へ。上半身の螺旋に遅れ、脚が鞭のようにしなる。

 左脚が左頬を、右の踵が横っ腹を打った。

 抵抗は一瞬。脚で挟んだ『コウモリ』の身体がオレの回転にリンクする。

 180度――オレが床を視界に収めた時には、『コウモリ』の頭は下へ向いていた。

 更にもう90度!

 右踵で押さえ込んだまま、『コウモリ』を床へ叩き付けた。

 板の床が小気味良い音を立てた。

 サルノベ柔術サシバの応用である。本来は相手が背中を向けている時に飛び掛る奇襲技なのだ。こんなトリッキーな使い方は身体能力が高い今しか出来ない。

 『コウモリ』を投げた際に、シャロンの小さな悲鳴が遠ざかったのが聞こえた。

 立ち上がって振り向くと、『コウモリ』から離れた所にカエルのシルエットがあった。

「ナツ――」

 近付こうとしたオレの足を何かが押さえた――と思った時には、視界が瞬転していた。胸から落ちて板の間でバウンドした。

 ぐふうと胸から溢れた息が埃を散らした。

 恐らく『コウモリ』がオレの片足だけを持ち上げ、放り投げたのだ。

 宙で一回転半――

 3アングル、上と横と正面のカメラで撮ってたら、良い絵になっただろう。

 なんて場違いなことを悔しがりながら起きあがった……が、立ち上がるまではいかず、ぺたりと座り込んでしまった。

 HPが三分の二を切っている。

 ええい、根性だ。

 倒れた三人の中で一番に立ち上がった――つもりだった。

 一番は『コウモリ』であった。シャロンへと飛び掛るところだ。

 カエルのシルエットが座ったまま後ずさっている。

 オレは床を大きく鳴らし、狭まりつつある両者の間へ飛び込んだ。

 シャロンを抱きかかえる。

 ほにょっとした柔らかさを両腕に感じながら床を転がった。

 二回転、三回転――『コウモリ』から離れた。

 油断であった。

 上を向いた時、見えたのは天井ではなく、覆い被さってきた影だった。

 『コウモリ』がシャロンを三度掴んできた。

 そして、牙を突き立てんと顔を押し下げた。

 オレはシャロンの下から腕を伸ばし、『コウモリ』の額と顎を押さえて止めた。

 シャロンを間に挟んだ三すくみ状態だ。

 牙が打ち鳴る。

 シャロンがいれば攻撃してこない――『コウモリ』はそう考えたのだろう。

 ひたすら攻撃に転じてきた。

「どうしてさっき攻撃を止めさせたんだ。チャンスだったんだぞ。あたいに構う必要は無かった……」

 オレと『コウモリ』に挟まれながら、シャロンがやっと声を出した。

「黙って、任せておけ」

 『コウモリ』の頭を止めながらだ。やっとのことで言えた。

「あたいはミュータントだ。ひとじゃない。テルコの命と比べたら価値なんかない――」

「それ以上言ったら、こいつの前に……ナツ、お前をぶん殴ってやる」

 オレは本気だ。

 イロハたちが考えている『姿が違うから倒すんだ』という主張。

 ひとでなくなってもテルコを守る『カブト』。

 ひとの姿を喜んだシレル。

 ヒューマノイドとしての自己存在を疑問視する『イカ』。

 どこに差があるというのか――

「違うってだけで壁を作るな!」

「一目瞭然の大きな隔たりじゃないか――」

「違ってなぜ悪い! これが『世界』だろうが!」

 胸の上で背を向けているシャロンへ怒鳴った。

「自分の存在意義を自分で決めるな、ナツ――。オレたちの中へ入ってこい。その間違った価値観をぶっ飛ばしてやる!」

「アカシア――」

 その時、轟音が数回鳴り響いた。

 ハナが《トリックシード》を撃ったのだ。数箇所で木に突き刺さる音が確認できた。

 それに動揺した『コウモリ』を、オレは足で押し上げた。

 『コウモリ』が弧を描いて飛んでいく。

 ベンチの連なる方へ――木々の崩壊する音が耳を打つ。

 シャロンを抱えて起き上がると、『コウモリ』も木切れを弾き飛ばしながら立ち上がるところであった。

「キリくん!」

 ハナの声は『コウモリ』の後ろから――その叫びの理由も分かっている。

 『コウモリ』が床に刺さっている《トリックシード》を抜いたのだ。

 さっきシャロンが隠し持っていた物――つまりオレのだ。

 本来は《ゴッドピースメイル》装着者以外には不可視になるが、彼女には見えているようだ。

 ハナが撃った《トリックシード》を警戒してのことだろう。

 だが、あいつの目的はそれじゃない。

 オレもその計画に乗ってやることにした。

 『コウモリ』が《トリックシード》を投げ捨てて、こちらへ向かって飛び上がった。

 一瞬で間合いが詰まる。

 オレはシャロンを抱えたまま後ろへ倒れこむように跳んだ。

 『コウモリ』が上を飛んで過ぎた。

 シャロンへ伸びる手――それが掴むより速く、脚を突き上げた。

 蹴りではない。

 両足を『コウモリ』のお腹へ置くように添え、身体を回転する。

 オーバーヘッドキックだ。『蹴り』ではなく『投げ』で、飛んでいくのが『ボール』ではなく『コウモリ』という違いだ。

 髪が床に触れるほどの低位置を廻り、座り込むほどの姿勢で着地した。腕の中にはシャロンがいる。膝も使って倒れないように耐えた。

 大きく壁を壊す音が背後に響く。

 飛ぶ力に投げの力を加え、止められないようにした。

 振り向くと、ドアを壊し、階段下で倒れている『コウモリ』がいた。

 ハナが既に壁に打ち込まれた《トリックシード》を選択している。

 繋がれ!

 ハナが二点目を選択――ハナ自身が先行して撃っていた二本の内の一つだ。

 踊り場から昇り返す三段目の横に突き刺さっている。

 点が反応しない。

 壁越しの制点は出来る! オレはそう信じる!

 ところが、あれほど感度良く指を認識していた《トリックシード》が動かない。

 ハナは二点目を指したまま待っている。彼女も諦めていない。

 『コウモリ』が起きる素振りを見せた。

 誘い込まれたことに気付いたようだ。翼に緊張が走る。

 ダメかと諦めかけた瞬間――

 光が走った。心強くライトマゼンタが灯って、壁を越え二点を結んだ。

「よし!」

 快哉を叫んでいた。

 三点目はすぐに結ばれた。

 さっき撃ったばかりの一本が入り口の左上にある。

 そう。ハナはこの《トッリクシード》をごまかすために数発連続で撃ったのだ。

 小空間の天井部分に薄桃色の三角面が完成した。

 闇を濁す埃の向こう――片膝の『コウモリ』を上から桃色の光が神々しく照らした。

 オレは《トリックシード》最後の一本を取り出すと、ドアがあった辺りの床へ投げつけた。

 『コウモリ』が翼を広げるより速く、ハナがそれを四点目として結んだ。

「セット!」

 ハナの声と共に、三角錘が『コウモリ』を捉えた。

 あれほど苦労した防御力であったが、瓦解したようにHPが減っていく。

 二呼吸で半分のバーが消し飛んだ。

 強い光を放ち、視界を眩ませると、降るように暗闇がまた戻ってきた。

 あまりの静けさに聴覚までも奪われたかように感じた。

 がちゃ――という金属音が、それを錯覚だと教えてくれた。

 『コウモリ』のいた所にブレスレットが落ちていた。

 《ゴッドピースメイル》だ。

 融合が解除されたのだ。レイカの推測は正しかったのだ。

「後はあれを病院へ持っていくだけだ」

「そうだな――」

 すごく近い所でシャロンの声がした。

「もうそろそろ下ろしてくれても良いのだが?」

 胸元でカエルの大きな瞳が見上げていた。

 ずっとシャロンを抱っこしていたらしい。ぷらぷらと小さな足が膝に当たっている。特大のぬいぐるみを抱えているみたいであった。

 それにしても――……

 ひんやりと柔らかいシャロンの身体を、回した腕で味わった。

「な――何をする!」

 シャロンが暴れた。

「なんか癖になりそう」

「気持ち悪いぞ!」

 シャロンがオレの手に噛みついた。歯がないから痛くはないのだが、くすぐったくて手を離してしまった。

「あ~~あ」

 思わず声が漏れた。

「何を考えてるんだ?」

「どうしたんです?」

 ハナが隣に来て言った。

「ナツがぷにぷにで気持ち良いぞ」

「本当ですか?」

「抱きついてみろ」

 ハナが手を前にして、ふらふらと一歩進み出た。

「サエジマくんまで――」

 シャロンは後ずさるように歩きだした。階段の方へ――。

「先輩、待って」

 ハナが追いかけた。

 逃げるカエルのシルエットはすぐに捕まったようだ。

 オレはその向こうの違和感に目を細める。

「何かがおかしいぞ――」

「サエジマくんとお前か?」

 ハナに抱っこされながらシャロンが憎々しそうに言った。

「ぷにぷに――」

 ハナの幸せそうな声が思考を乱す。

 暗視モードで辺りを見回し、やっと違和感が分かった。

「《ゴッドピースメイル》がない――」

「なに――?」

 シャロンがハナから飛び降りた。

 開け広げの間口から見える床には何も無い。無いはずはない。オレは落ちた所を見ている。その時は確かにあの床にあった。

 シャロンの後ろ姿が駆けていく。

 ハナは二挺拳銃を手に周囲を警戒している。

 バイザーにもう一つの敵カーソルが確認できた時、礼拝堂が明るい光で満たされた。

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